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魔法外科医は癒やし系少年

綿串天兵

涼波ハルカの進撃-03 ☸ レザルトの私怨

  === ✽ ✽ ✽ ===


「ティラーナ教授、ちょっとお話があります。今日、研究室に伺ってもよろしいでしょうか?」

 ハルカのメイド服が届いて一週間と少し経過し、今日は次の週が始まって三日目である。ロビは王立学院中等部の廊下で、講義の終わったリリスに話しかけた。

「何か新しいことがわかったの?」
「はい、色々と」
「じゃあ、研究棟の入出許可申請をしておくわ」

(ん?何か、魔力を感じる……後ろからだ)

「痛たたたっ」

 ロビの後ろから男性の声がした。

(誰だろ、見つからないように魔法攻撃仕掛けて来て。こういう時は呪いが役立つね)

「あら、レザルト=メトリジン魔導師、こんにちは。今日はどうされたのですか?」
「リリス=ティラーナ教授、お久しぶりで。今日は特別講師として来たんだ。よかったら、今夜、食事でもどうかな?」
「レザルト=メトリジン魔導師、お久しぶりです。一年半ぶりですね」
「ロビ、貴様、中等部に進んだのか」
「はい、おかげさまで。魔導師になられたんですね。すごいです」
「まあ、君も精進するように」
「わかりました」

 レザルトは、明らかに不機嫌そうな顔をして廊下を歩いて二人から離れた。

「ロビは、レザルト=メトリジン魔導師と何があったの?」
「はい、また後ほど」
「ええ、わかったわ」

「ロビ、次の授業は剣技だから移動するわよ」
「あ、メイア、今、行くね。ティラーナ教授、それでは」
「え、あ、はい」

(面倒な奴と会っちゃったな。変なことにならないといいけど)


  === ✽ ✽ ✽ ===


 一日の講義が終わり、いつものようにロビは、メイアとカサリと一緒に正門に向かって歩いていた。

「お兄様、あそこにいるのは何という魔石鳥獣ですか?」
「ああ、あれはレッサーイーグルだね。この辺りじゃ見かけない。どうしたのかな」
「ボク、もっとよく見てみたいです。ちょっと行ってきていいですか?」
「肉食だから危ないよ」

(あら、カサリ、もう行っちゃった。しょうがないな)

「私も行くわよ、ちょっと待って」
「近づくと逃げちゃうかもしれないよ」
「大丈夫です。僕から逃げられるのはお兄様だけです」
「ねえ、ロビ?」
「いやいや、前に追いかけっこをしたことがあってね」

(あれ?今、レッサーイーグルの辺りに魔力が)

 案の定、レッサーイーグルは飛んでいった。

(穀物を食べる魔石鳥獣ならわかるけど、肉食のレッサーイーグルが王都にいるのは不自然だ。それにレッサーイーグルの魔能力は、相手の動きを鈍らせること、あんなふうに魔力は出さないはず)

「お兄様、お別れの挨拶です。今日は週の始まりから三日目ですからオトイク王国流の日です」
「いいわよ、他の人から見えないように立っていてあげるから」
「んっ」

 ロビとカサリはディープキスをした。カサリが毎日、このようなお別れの挨拶をするので、メイアが一日置きにと提案したらカサリはすんなりと受け入れていた。

「カサリ、その、なんていうか、本当にそれ、その糸を引いているキスがオトイク王国の挨拶なの?」
「はい、『お兄様』など、特別な呼び方をする呼ぶ間柄になったときの挨拶です」
「そう。あの、糸を引くコツ、何かあるのかしら」
「はい。唾液をなるべく出さないように我慢しながら舌をよく絡ませることです。そうすると、きれいな長い糸を引くことができます。オトイク王国には、何センチの糸を作れたか競い合う貴族だけの遊びがあります」
「カサリ、ね、それぐらいにしようよ」
「そこでボクとお兄様は当然のごとく優勝し、賞金として大金貨三枚もらいました。もちろん賞金は、コツを教えてくださったお兄様にすべて捧げました」
「ああ」
「ロビ、あのね……」

(メイア、すごい怒ってる、絶対怒ってる)

「今度、私にも教えてほしいわ、その……コツ」
「え?う、うん」
「じゃあ、週末、ロビの屋敷にお邪魔するわ。外泊許可も出しておくからよろしくね」
「メイア、ボクもお兄様のお屋敷に行きたいです」
「いいわ、カサリ、一緒に行きましょう」

(う、なんか、勝手に話が進んでいる)

「あの、外泊って、そんなに簡単に許可されるものなの?」
「ええ、初等部の時はダメだったけど、中等部は問題無しよ」
「お兄様。ボクも中等部です」
「ごめん、今週末は予定があって、ちょっと辺境の街へ行くんだ」
「そうなの?女の子から誘われて断るなんて最低よ」
「再来週なら大丈夫だから、ね?」
「ダメ、今週末がいい」
「う、うーん、うん」
「それでいいのよ」

「じゃあ、また明日」


  === ✽ ✽ ✽ ===


(さてと、今日は尾行……いないな。前回で懲りたのかな。それよりあいつ、どうしよう)

 ロビの視線の先には、先ほどカサリが見つけたレッサーイーグルが正門の上にとまっていた。

(一応、確認してみるか)

「あんなところにレッサーイーグルがいます。肉食で危険ですから捕まえてください。肉は高く売れます」
「どれ、本当だ、よし、弓で射る」
「はい、お願いします」

 ロビは正門横にいる警護兵に声をかけた。

(さて、どうするかな?あ、魔力が出た。やっぱり念話を使っている。隷従か召喚かはわからないけど誰かの使いだな)

「ああ、逃げられてしまった。これでも昔は早打ちエディと言われたものだが」
「どうもありがとうございます。また見つけたら連絡します」

(野生のレッサーイーグルが弓矢を見ただけで逃げるわけないよ)

 ロビは正門の裏に移動した。

<ロロ、今、飛べる?>

(『召喚サモン、ロロ』)

 ロビの数メートル上に魔法陣と共にナイトホークが出現した。

<ロロ、上空に昇って。それ、食べていいよ>

 ナイトホークは上空から猛スピードで急降下し、あっという間にレッサーイーグルを捕まえ、ロビのそばに飛んできた。

<じゃあ戻すね。美味しく頂いてね>

(『喚返リターン、ロロ』)

 研究棟の近くまで来ると、ロビは立ち止った。

(あら、レザルトだ。リリスと何か話をしている。『増強聴エンチャント覚感度イヤーゲイン』……また食事に誘っている。リリス、あまり乗り気じゃなさそう。どうしよう……そうだ)

<ロロ、食べ終わった?半分ぐらいか。悪いけど、レッサーイーグルを足で掴んでまた飛んでくれるかな>

(『召喚サモン』、ロロ)

 ロビの数メートルほど先に魔法陣と共にナイトホークが現れた。

<一旦、上空に上がって。人がいるからそのそばに落として。うん、そうそう、ありがとう。じゃあ喚返リターンするから戻ってきて>

(『喚返リターン』、ロロ)

「うわああ、なんてことだ、やっとの思いで召喚契約したレッサーイーグルなのに……手当をするので、これで失礼する」

(まあ、間に合わないと思うけどね)

「ティラーナ教授、来ました」

 ロビはいつものように研究棟の受付を済ませると、リリスと一緒に研究室へ入った。

「どうぞ、ソファに座って。今日は、私から先に聞いていいかしら?」
「なんでしょうか?」

 リリスはハーブティーを淹れながらロビに質問をした。

「一年半前の事よ。レザルトと何があったの?あなたを殺そうとしたわ」
「そうですね。関係する人の名前を言わなくていいのであれば」
「もちろん、いいわ。人に話さないことも約束するわ」
「その半年前、中等部三回生の女子生徒に相談されました」
「学年で言えば私のひとつ下、年齢は同じかもってくぐらいね?それで、どんな相談だったの?」
「その方は、お父様と初夜を済まされたのですが、気持ちよくなれないとのことで僕のところに来ました」
「なんでまた、女子生徒はあなたのところへ?」
「多分、僕が魔法外科医だったからです。僕は九歳で魔法外科医の免状をもらっています」
「それでどうしたの?」
「話しているうちに、実際にしてみたいと言われて、宿屋で毎日、手ほどきをしました」

 リリスは手を震わせながら、ハーブティーの入ったティーカップを二つ、テーブルに置き、自分もソファに座った。

「どんなことをしたの?」
「優しく抱き寄せ、髪や肌を撫でることから始めました。それから、たくさんキスをしました」
「その後、その、胸とか触るの?」
「いえ、まだ触りません。人の肌は何度も撫でたりキスをしたりすると、だんだん敏感になってきます。だから、最初は頬や首、腕や足の外側を優しく撫でます」

 リリスはハーブティーを一口飲んだ。

「その後、腕の内側など、少し敏感なところを撫でていきます。そうすると、くすぐったい所が性的興奮につながってきます。そこで胸を下から軽く摩るように丸く触ります」
「あの、胸は大きい方がいいのかしら」
「どちらでもいいと思います。小ぶりな方は手のひらに入る感触が心地よいですし、大きい方はそっと掴んだ時に気持ちいいですし」
「そう、その方は大きかったの?」
「大きかったです」

 リリスは自分の胸を触って大きさを確かめている。

(リリス、かわいい)

「その後、胸の外側からだんだん内側にキスをしていきます。これは片方の胸を一気に行くのではなく、両方、少しずつ進めていく感じです。そして、先端を優しく舌で……」
「も、もういいわ、いえ、もっと聞きたいけど、もういいの。もうちょっと、こう、具体的な話じゃなくて心の話とかないのかしら」

「医療では、年齢、成長度に合わせた治療や手術を行います。事を致すのも同じです。初めての方に、いきなり成人女性が喜ぶことしてもダメです。身体や心が慣れてくるまでは、優しく時間をかけて解きほぐす必要があります。例外はあるみたいですが」
「そうなのね。それで、レザルトとどう関係があるの?」
「その女子生徒がレザルトに誘われて……」
「当時はレザルトは教授よね。教授が生徒を誘うなんて。話のオチが見えてきたわ。それでその子、ロビの方が上手って言ったのね」

「その通りです。いや、まさか殺されそうになるとは」

 リリスはやれやれといった表情をした。

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