閉じる

魔法外科医は癒やし系少年

綿串天兵

涼波ハルカの喪失-25 ☸ ナンチェリの知人

  === ✽ ✽ ✽ ===


 剣を持った二人がハルカの前に出た。鞘から抜かれた剣は、光を放っている。どうやら魔力が注ぎ込まれて何かの魔法が付与されているようだ。

(悪趣味だな。あれじゃ夜、戦う時に目立ってしょうがなさそう)

<ハルカ、気を付けて、その剣、魔法が付与されている。それにさっきの奴より強い>
<どうしたらいいんですか?>
<普通の剣より切れるだけだと思う。聖蛇短剣スネイクダガーなら耐えられるよ。だけど、倒れている人の剣を奪って使うと切られちゃう>
<わかりました。他には何か?>
<魔道士二人が動けるようになったから、中距離攻撃を受けないように常に剣士を間に挟んで>
<はい、注意します>

 先ほどの男たちと違い、この二人の動きは無駄がない。ロビは三人目の剣士と魔道士の動きを見ていた。

(大丈夫、ハルカと聖蛇短剣スネイクダガーなら、あの二人のレベルでも戦える)

 ハルカは五分ほどの攻防で一人を絡めとり、雷衝撃インパルスで気絶させた。しかし、もう一人の剣士が剣を大きく振り上げて聖蛇短剣スネイクダガーを断ち切ろうとした。

 光を放つ剣と聖蛇短剣スネイクダガーの接点は激しい光りを放ち始めた。

<ハルカ、三人目の剣士が来る。聖蛇短剣スネイクダガー短剣ダガーに戻して>
<はい>

 ハルカは聖蛇短剣スネイクダガー短剣ダガーの状態に戻し、三人目の剣士の剣を受け止めた。リボン状から短剣ダガーに戻した反動で倒れていた剣士が地面で二転ほどし、自分の剣で怪我をして血を流した。

「なんて短剣ダガーだ、この剣でも切れないなんて!」

<ハルカ、どうしたの?>
<ロビ様、あたし、あたし、人を傷つけてしまいました>

(まずい、魔道士が……『召喚サモン、ハルカ』)

<あれ、ここは?>
<危なかったね。あの魔道士、結構、やるね。恐らく短縮詠唱で魔法を発動ラウンチさせたよ>

 ハルカは、ブルフィグトの治療を続けているロビのそばにいた。

<あたし、どうなったんですか?>
<魔法攻撃を受けそうになったから召喚サモンしたんだ。どう?初めての召喚サモンは>
<あ、あ、ありがとうございます>

 ハルカは泣き出した。

<ハルカ、獣人族なら、あの魔法攻撃一発で死ぬことは無いから安心して>
<は、はい>

 ハルカはシュンとなって座り込んだ。

<ハルカ、よくやったよ>
<え?>
<あの六人はレベルが高い。ハルカ、すごかったよ>
<はい>
<十五分は足止めしてくれたし、奴らは、すぐにはここに来ない>
<どうしてですか?>
<ハルカががんばってくれたから、今頃、警戒して周囲の状況を確認しているよ>
<お役に立ててうれしいです>

(あれ?ハルカ、手術しているところ、すごい見ている。気持ち悪くないのかな)

<ロビ様、血管とかひとつずつ繋げていますけど、ぶわぁって治る治癒魔法というのは無いのですか?>
<あるよ。あるけど、あれ、障害が残るんだ>
<どういうことでしょうか?>
<切れた患部がぴったり合っていれば綺麗に治るんだけど、ずれているとそのまま治っちゃってリハビリが大変なんだ。特に太い血管や筋肉はちゃんとやらないと>
<なるほど、勝手に元通りになるわけじゃないんですね>
<そう。だから、障害を残さないよう、元通りに結合していくんだ>

(ハルカの世界では、魔法って、随分と便利なものと解釈されているんだな)

 ロビの目の前に二つの魔法陣と水が現れた。ロビは身体を振るわせた。

<ロビ様、大丈夫ですか?>
<うん、前に温水を作ったときと一緒。後ろからぶん殴られたぐらい>
<これで体内の洗浄をしてから傷口を閉じるんだ>
<どうして温水なんですか?>
<体温と同じぐらいに温めないと、体温が下がって体力を消耗しちゃうんだよ>
<お医者様って大変です>
<いや、僕だけだから>


  === ✽ ✽ ✽ ===


 小さいブルフィグトの方の治療は終わり、大きいブルフィグトの治療も後半というところで、ロビが顔を上げた。

<ララ、戻っておいで>

 音も無くナイトホークがロビのそばに舞い降りた。

「ララ、ありがとう。『喚返リターン、ララ』」

<ロビ様、どうしたのですか?>
<奴らが動き始めた。今度は僕が行く>

 ロビはブルフィグトのそばにしゃがみ、魔法陣のひとつを指さした。

<ハルカ、これはブルフィグトの心臓で、今は弱っているから魔法で強制的に動かしている。そのうち自力で動き出すと思うけど、僕がここを離れると数分で魔法が消えちゃう。だから同じ速さでハルカが揉み続けてあげて欲しい>
<はい、わかりました>

 ロビは手を布で拭くと、マントを脱ぎ、上着をひっくり返して着た。上着もマントもリバーシブルになっており、ひっくりかえすと赤紫色の派手なデザインになる。
 仕上げに、ロビは左耳のピアスを触った。

<ハルカ、どう?髪の毛の色、変わった?>
<はい、ちょっと色ははっきりわからないのですが、髪と瞳の色が変わりました。そういえば、私、色がよくわからないんですけど変なんでしょうか?>
<いや、獣人族はヒト族より見える色の種類が少ないみたいなんだ>
<そうですか。ちょっと残念です>
<でも、安心して。種類が少ないだけで、ハルカなら慣れればちゃんとわかるようになるよ。それにヒト族には見えないものが見える>
<例えばなんでしょうか?>
<暗闇でも物が見える。それから精霊だよ>
<この世界には精霊がいるのですか?>
<ヒト族には見えないけど、うちの獣人には精霊の加護を受けて旅立った者もいるそうだよ>

 ロビはにこりと笑うと、首に巻いていた布を引き上げて鼻から下を隠した。

<実は僕、裏稼業で冒険者もやっているんだ。いつでもこの服装に変えられるよう、僕の服はリバーシブルになっているんだよ>
<魔法でぶわあああっと……>
<そういう変身する魔法は無いから……いや、無いこともないかな。魔道士三十人ぐらいでやっと一人を変身させれるかも>
<そうですか。魔法って大変なんですね>
<じゃあ、行ってくる>
<行ってらっしゃいませ、ロビ様>
<あ、名前はナンチェリだから>

(どうやら知り合いがいるみたいだから、余計な血は流さずに済みそうだ)

 いくつかの大きな岩を越えたところで、ロビは密猟団を見つけた。

(一応、ナンチェリ口調で……設定は冒険者だから。一人称は、俺、俺、俺。よし)

 『ナンチェリ』は、ロビが冒険者ギルドに登録している名前である。ロビはこの名前で冒険者ギルドだけでなく、辺境警護団にも出入りしている。

「やあ、あんたら、何をしてるんだ?」
「今度は一体なんだ、お前、何者だ?」
「お前、ナンチェリじゃないか」
「ダンツ、久しぶり。あんたのような騎士がなぜここに?」

 ロビは、以前、辺境警備団にいた警護兵が密猟団にいることを、ララの視覚を通じて既に知っていた。

「今は辺境警備団を辞めて、もっと給料のいい傭兵団に入ったんだ。その依頼が密猟団の護衛でな。まあ、俺も落ちたもんだ、はっはっは」
「ダンツは相変わらず、昼間から飲んで景気がいいな。依頼主は?」

 ロビはさりげなく剣を見た。全体的に派手な装飾がされており、鞘は黒と赤の二色、狼らしき模様が描かれている。

(これは古代魔道具アーティファクトじゃない。新しく作られたものだ。どうやってあれだけの魔力を溜め込んだんだろう?)

 矢に魔法を付与して放つことはあるが、付与した魔法が効力を発揮し続けるのは数秒程度、長くて数分である。しかし、ララの目を通して見たこの剣は、少なくとも五分以上魔法が付与されており、聖蛇短剣スネイクダガーと魔力衝突をしても魔力切れを起こさなかった。恐らく、もっと長く魔力付与ができると思われる。

「依頼主については、俺にはわからん。傭兵団として受けているからな」
「じゃあ、あんたは?」

 ロビは魔道士の方を見た。ダンツと対等に話している様子から、ただならぬ気配を感じたのか素直に話し始めた。

「俺もダンツと同じ傭兵団だから。上層部しか知らないんじゃないか」
「ダンツ、傭兵団の名前は?」
「お前も来るか?ホレセル傭兵団だ」
「聞いたこと無いな。主は?」
「セルレル=ホレサレという奴だ。魔法も使えるから貴族落ちかもな」
「そうか」

「おい、お前ら、いつまでしゃべってるんだ!」

 密猟団のリーダーらしき男がイライラしながら、狩猟用刀剣ハンティングソードを片手に前に出てきた。


  === ✽ ✽ ✽ ===


「昔話とかはどうでもいい。獲物が逃げちまうぞ」
「俺が帰れと言ったら帰るか?」

 ナンチェリは笑顔で話しかけた。

「帰るわけないだろう、俺とやりあうっていうのか?」
「おい、やめろ、そいつは……」
「うるせえ、ダンツ、黙ってろ」

 リーダーの男はナンチェリに掴みかかった。その瞬間、男の両腕から血が噴き出し、両腕は、だらんと垂れ下がった。ナンチェリの両手には双輝鋭刃ツインズカッターが握られている。

(筋肉に沿わせて切ったから、普通の治癒魔法でも治ると思うけど)

「ほら、言わんこっちゃない。そいつ、歳は行ってないが、やることはえげつないぞ」
「早く魔道士に治癒してもらった方がいいぞ。それぐらいは見逃してやる」
「ちくしょう、お前ら、やっちまえ!」

 数十秒後、両腕から大量の血を流す男たちが十一名……。

(もう一人はどこにいるんだろう?魔道士がいるところで見える魔法は使いたくないな)

「ダンツ、お前ら、ここで戦わないのは契約違反だろ!」
「いや、俺たちは魔石獣から守るのが契約でな、その他は別だ」
「さっきは戦ったじゃないか」
「あれは、俺達にも襲い掛かってきたからだ。自衛だよ自衛」
「あんた、依頼主を知っているのか?」

 ナンチェリは、男を見た。

(ん?向こうで弓を直している。狙ってくるのかな)

「知らん!」

 右足から血が噴き出した。

「もう一度、聞きくけど依頼主は?」
「知っていても言わん!」

(なんか、本当にこいつら、ベタな奴らだな)

 左足から血が噴き出し、男は身体を支えることができずしゃがみこんでしまった。

「魔法外科医は癒やし系少年」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く