魔法外科医は癒やし系少年
涼波ハルカの喪失-09 ☸ ロビの名誉
=== ✽ ✽ ✽ ===
ロビが王立学院の正門に到着すると、何台もの馬車が来ていた。上級貴族の子どもは自分の足ではなく、馬車で通っている。
王国は王立施設や商業施設などがある王都をを中心として、上級貴族、中級貴族の順番に広がっていくように配置されているため、王立学院に通学したり努めている者でも、平民や下級貴族ともなると、場所によっては馬車でも半日から一日以上かかるところに住んでいる。
そのため王立学院にも寮があり、入寮を希望した生徒と、王立学院の職員や研究部の助手達が住んでいる。研究部の教授や役員たちは王国からも重要視されているため、王立学院内にある、さらにしっかりと警備された宿泊施設に住んでいる。
ロビは、王立学院寮から出てきた何人もの生徒から一人の少女を見つけた。
(お、メイアだ)
「おはよう、メイア」
「ロビ、おはよう」
「お兄様、おはようございます」
「あ、カサリ、おはよう」
メイアは目立つ赤いカチューシャをしているので、よく似た体格の生徒がたくさん歩いていてもすぐに見つけることができる。カサリは背が低いので、生徒がたくさんいると見つけにくい。実際、ロビは、メイアを先に見つけ、カサリは挨拶をされて気が付いた。
「おはようございます」
ロビは正門にい警備兵に声をかけた。そして三人は一緒に話をしながら中等部の建物に向かって歩いていた。メイアは、ショートヘアの美少女で、歩きながらロビのことを見つめていた。ロビは何となく恥ずかしいというか、気まずく感じていた。
「メイア、どうしたの?」
「ロビって、いつも同じチョーカーをしているなって」
「ああ、これ?これね、外れないんだ」
「え、何歳の時から?」
「三歳らしいよ」
メイアは興味津々のようで、質問を続けた。
「でも、三歳の時より首は太くなっているでしょ?」
「不思議なことに、このチョーカー、僕の成長に合わせて大きくなっているんだ」
「へー、じゃあ、引っ張ったりしたら外せないの?」
「それが外れないんだな」
「ピンクサファイアのピアスもずっと左耳にしているよね」
「うん。ピアスは母様からもらったんだ」
「ロビ、お母様、亡くなられたものね」
メイアは、沈んだ表情をした。その表情に気が付き、ロビは明るい声で答えた。
「うん、でも、みんながいるからさみしくないよ」
「そっか。うん、私もロビのこと好きだし。あ、もしかしてそのチョーカー、実は古代魔道具で、お母様が施錠したとか?」
(うわ、なんかさりげなく『好きだし』って言われた。ここはいつも感じで)
「そうかもしれないね」
「絶対、そうだよ。成長に合わせて大きくなるチョーカーなんて聞いたことないもの」
「うーん、やっぱりそうだよね」
「でも、とてもきれいなチョーカーでよかったね。高貴な感じがする」
「そう言ってもらえると、少し気が楽になるよ」
「ねえ、そのピアスは外せるの?」
「実はこっちも外れないんだな。耳を切ったら外れるかも」
(そういえば、母様が消失してから、なぜか古代魔道具を見分けたり、使い方がわかるようにになったんだよな。便利なんだけど、眩暈は勘弁してほしいな)
初めて自分の姿を鏡で見た時、このチョーカーの事を知った。メイアの言う通り、古代魔道具で、能力隠蔽首輪である。ただ、誰が付けたのか、自分がこれを付けることになった理由を知らない。
また、もうひとつのチョーカーが内側に取り付けられていることに気付いていたが、能力隠蔽首輪が邪魔して見えず、何なのかわからないままである。
「お兄様」
「カサリ、どうしたの?」
「お兄様にお母さまがいらっしゃらないことは初耳です。ボクも、お兄様のことをもっと知りたいです」
「うん、だんだん話すよ。同じ中等部魔学科だからね、時間はたっぷりある」
「お兄様」
「何?」
「もし、お兄様が必要でしたら、ボクに甘えてもいいんですよ」
「あ、ありがとう」
ロビはメイアの方をチラっと見た。微妙に不機嫌そうなメイアである。
=== ✽ ✽ ✽ ===
王立学院中等部の講堂では、いつものように授業が始まっていた。講師は昨日と同じく、リリス=ティラーナである。
「今日は、生徒の魔力保持能力や魔法式記憶容量の測定をします。測定結果は公表しませんし、成績にも影響しませんので、各自、気軽にやってください。今日の測定結果をもとに、生徒それぞれに合わせた、魔法自主訓練計画を作ります」
(そういえば、エイナ、この測定のために魔法を使うのを控えていたのか、なるほど。上級貴族ともなると先の講義内容情報まで入ってくるのかな)
リリスの助手たちが何種類かの魔力測定器具を運んできた。
(初等部入学試験の時とは違う器具だ。どんな構造になっているだろう?分解してみたいな。全部で三セットかな)
ロビは初めて見る魔力測定器具を興味深げに眺めていた。
「それでは測定項目を簡単に説明します。まずは魔力保持力測定です。これは、魔法道具に魔力を流し込む時間で測定します。この魔法道具は、魔力切れを起こしてもオドを消費しないので、怖がらずに魔力を注いでください」
(へー、どうやって魔力とオドを分けているのかな。オドまで消費し始めるとかなり痛いらしいし、オドが無くなると死んじゃうからね)
「続いて、マナ収集能力測定です。魔力保持力測定が終わったら、すぐにこちらの体重計のような魔法道具に乗ってください。魔力が尽きた時、一番マナを吸収しやすいので、それを測定します」
「ティラーナ教授、体重がばれたりしませんか?」
「大丈夫です。体重計と似ているだけで、体重はわかりません」
一部の生徒から笑いが起きた。
「最後に、魔法式の導入容量の測定です。皆さんに測定のための長い魔法式を導入して頂き、入らなくなったところまでを測定します。痛みは少ないので安心してください。この魔法式は、測定後、破棄します。それでは、三セットありますので、各自、測定を開始してください」
カサリはロビのそばにいた。
「あれ?カサリは測定しないの?」
「はい。ボクは、魔法や魔術の歴史を勉強しに来ましたから、魔法そのものは習得しないんです」
「へー、そうなんだ」
リリスは生徒たちが測定し始めるのを見届けると、測定は助手に任せ、ロビのそばにやってきた。ロビは、何か文句を言われるのではないかと冷や冷やしている。
「ロビ=クルーガ」
「ティラーナ教授、何でしょうか?」
「あなたは測定しなくていいです」
「え、測定しないんですか?授業料、滞納していませんよ」
「あなたが測定すると、測定器具が壊れます」
「測定器具が壊れると、どうなるんですか?」
「私の管理責任となり、私の給料から修理費が引かれます」
「王立学院、結構、ケチですね。わかりました」
「昨日の午前中の講義、憶えていますか?」
「はい」
「あれで講堂の修理費として私の給料二ヶ月分、飛んでいきました」
「あの、なんか、すいません。教授って、給料、意外と安いんですね……え?」
リリスはロビの肩に手をかけ、ロビの耳元に口を寄せた。ロビはリリスの思わぬ行動に、顔を赤らめた。
「昨日、メイアに、ロビは私の命の恩人と伝えました。ありがとう。本当に感謝しています」
ロビはあまりにも唐突な言葉に、唖然としていた。測定不要判定を受けたので、しばらく講堂の隅で生徒たちの魔力測定を見ていた。
(なんだ、わかってくれている人には、わかってもらえているじゃん)
一年前にリリスを辱めた事件以来、話をしてくれる女子生徒はメイアと、あとはロレンが時々という感じになっていた。男子生徒も連絡やグループワークなど、必要以上のことを話さなくなっていた。
当時、ロビの王立学院除名運動もあったほどである。その時、ロビは何も言わず、ただひたすら黙っていた。
この事件の真相が知られれば、リリス=ティラーナ教授としての人生に関わる。リリスは下級貴族であり飛び級進学で教授になったため、特に高齢の教授たちには良く思われていない。そのことをわかっていたロビは、現場を目撃した教授や研究生の一部に魔力暴走を疑う者が現れると、嘘の説明をして納得させてきた。
事故当時、すぐそばにいたロレンだけには真実を話してしまったが、それ以外は罵声を浴びようと、ひたすら黙ってきたロビである。ただ、一ヶ月半も過ぎたらそんな話はどこへやらという感じで話題にならなくなり、その後は、多くの生徒が特に理由もなくロビを避けているという状況になっている。
(このままでいいや)
ロビは、魔力測定でヒイヒイ言っている生徒たちを横目にトイレへ行き、一人で泣いていた。
ロビが王立学院の正門に到着すると、何台もの馬車が来ていた。上級貴族の子どもは自分の足ではなく、馬車で通っている。
王国は王立施設や商業施設などがある王都をを中心として、上級貴族、中級貴族の順番に広がっていくように配置されているため、王立学院に通学したり努めている者でも、平民や下級貴族ともなると、場所によっては馬車でも半日から一日以上かかるところに住んでいる。
そのため王立学院にも寮があり、入寮を希望した生徒と、王立学院の職員や研究部の助手達が住んでいる。研究部の教授や役員たちは王国からも重要視されているため、王立学院内にある、さらにしっかりと警備された宿泊施設に住んでいる。
ロビは、王立学院寮から出てきた何人もの生徒から一人の少女を見つけた。
(お、メイアだ)
「おはよう、メイア」
「ロビ、おはよう」
「お兄様、おはようございます」
「あ、カサリ、おはよう」
メイアは目立つ赤いカチューシャをしているので、よく似た体格の生徒がたくさん歩いていてもすぐに見つけることができる。カサリは背が低いので、生徒がたくさんいると見つけにくい。実際、ロビは、メイアを先に見つけ、カサリは挨拶をされて気が付いた。
「おはようございます」
ロビは正門にい警備兵に声をかけた。そして三人は一緒に話をしながら中等部の建物に向かって歩いていた。メイアは、ショートヘアの美少女で、歩きながらロビのことを見つめていた。ロビは何となく恥ずかしいというか、気まずく感じていた。
「メイア、どうしたの?」
「ロビって、いつも同じチョーカーをしているなって」
「ああ、これ?これね、外れないんだ」
「え、何歳の時から?」
「三歳らしいよ」
メイアは興味津々のようで、質問を続けた。
「でも、三歳の時より首は太くなっているでしょ?」
「不思議なことに、このチョーカー、僕の成長に合わせて大きくなっているんだ」
「へー、じゃあ、引っ張ったりしたら外せないの?」
「それが外れないんだな」
「ピンクサファイアのピアスもずっと左耳にしているよね」
「うん。ピアスは母様からもらったんだ」
「ロビ、お母様、亡くなられたものね」
メイアは、沈んだ表情をした。その表情に気が付き、ロビは明るい声で答えた。
「うん、でも、みんながいるからさみしくないよ」
「そっか。うん、私もロビのこと好きだし。あ、もしかしてそのチョーカー、実は古代魔道具で、お母様が施錠したとか?」
(うわ、なんかさりげなく『好きだし』って言われた。ここはいつも感じで)
「そうかもしれないね」
「絶対、そうだよ。成長に合わせて大きくなるチョーカーなんて聞いたことないもの」
「うーん、やっぱりそうだよね」
「でも、とてもきれいなチョーカーでよかったね。高貴な感じがする」
「そう言ってもらえると、少し気が楽になるよ」
「ねえ、そのピアスは外せるの?」
「実はこっちも外れないんだな。耳を切ったら外れるかも」
(そういえば、母様が消失してから、なぜか古代魔道具を見分けたり、使い方がわかるようにになったんだよな。便利なんだけど、眩暈は勘弁してほしいな)
初めて自分の姿を鏡で見た時、このチョーカーの事を知った。メイアの言う通り、古代魔道具で、能力隠蔽首輪である。ただ、誰が付けたのか、自分がこれを付けることになった理由を知らない。
また、もうひとつのチョーカーが内側に取り付けられていることに気付いていたが、能力隠蔽首輪が邪魔して見えず、何なのかわからないままである。
「お兄様」
「カサリ、どうしたの?」
「お兄様にお母さまがいらっしゃらないことは初耳です。ボクも、お兄様のことをもっと知りたいです」
「うん、だんだん話すよ。同じ中等部魔学科だからね、時間はたっぷりある」
「お兄様」
「何?」
「もし、お兄様が必要でしたら、ボクに甘えてもいいんですよ」
「あ、ありがとう」
ロビはメイアの方をチラっと見た。微妙に不機嫌そうなメイアである。
=== ✽ ✽ ✽ ===
王立学院中等部の講堂では、いつものように授業が始まっていた。講師は昨日と同じく、リリス=ティラーナである。
「今日は、生徒の魔力保持能力や魔法式記憶容量の測定をします。測定結果は公表しませんし、成績にも影響しませんので、各自、気軽にやってください。今日の測定結果をもとに、生徒それぞれに合わせた、魔法自主訓練計画を作ります」
(そういえば、エイナ、この測定のために魔法を使うのを控えていたのか、なるほど。上級貴族ともなると先の講義内容情報まで入ってくるのかな)
リリスの助手たちが何種類かの魔力測定器具を運んできた。
(初等部入学試験の時とは違う器具だ。どんな構造になっているだろう?分解してみたいな。全部で三セットかな)
ロビは初めて見る魔力測定器具を興味深げに眺めていた。
「それでは測定項目を簡単に説明します。まずは魔力保持力測定です。これは、魔法道具に魔力を流し込む時間で測定します。この魔法道具は、魔力切れを起こしてもオドを消費しないので、怖がらずに魔力を注いでください」
(へー、どうやって魔力とオドを分けているのかな。オドまで消費し始めるとかなり痛いらしいし、オドが無くなると死んじゃうからね)
「続いて、マナ収集能力測定です。魔力保持力測定が終わったら、すぐにこちらの体重計のような魔法道具に乗ってください。魔力が尽きた時、一番マナを吸収しやすいので、それを測定します」
「ティラーナ教授、体重がばれたりしませんか?」
「大丈夫です。体重計と似ているだけで、体重はわかりません」
一部の生徒から笑いが起きた。
「最後に、魔法式の導入容量の測定です。皆さんに測定のための長い魔法式を導入して頂き、入らなくなったところまでを測定します。痛みは少ないので安心してください。この魔法式は、測定後、破棄します。それでは、三セットありますので、各自、測定を開始してください」
カサリはロビのそばにいた。
「あれ?カサリは測定しないの?」
「はい。ボクは、魔法や魔術の歴史を勉強しに来ましたから、魔法そのものは習得しないんです」
「へー、そうなんだ」
リリスは生徒たちが測定し始めるのを見届けると、測定は助手に任せ、ロビのそばにやってきた。ロビは、何か文句を言われるのではないかと冷や冷やしている。
「ロビ=クルーガ」
「ティラーナ教授、何でしょうか?」
「あなたは測定しなくていいです」
「え、測定しないんですか?授業料、滞納していませんよ」
「あなたが測定すると、測定器具が壊れます」
「測定器具が壊れると、どうなるんですか?」
「私の管理責任となり、私の給料から修理費が引かれます」
「王立学院、結構、ケチですね。わかりました」
「昨日の午前中の講義、憶えていますか?」
「はい」
「あれで講堂の修理費として私の給料二ヶ月分、飛んでいきました」
「あの、なんか、すいません。教授って、給料、意外と安いんですね……え?」
リリスはロビの肩に手をかけ、ロビの耳元に口を寄せた。ロビはリリスの思わぬ行動に、顔を赤らめた。
「昨日、メイアに、ロビは私の命の恩人と伝えました。ありがとう。本当に感謝しています」
ロビはあまりにも唐突な言葉に、唖然としていた。測定不要判定を受けたので、しばらく講堂の隅で生徒たちの魔力測定を見ていた。
(なんだ、わかってくれている人には、わかってもらえているじゃん)
一年前にリリスを辱めた事件以来、話をしてくれる女子生徒はメイアと、あとはロレンが時々という感じになっていた。男子生徒も連絡やグループワークなど、必要以上のことを話さなくなっていた。
当時、ロビの王立学院除名運動もあったほどである。その時、ロビは何も言わず、ただひたすら黙っていた。
この事件の真相が知られれば、リリス=ティラーナ教授としての人生に関わる。リリスは下級貴族であり飛び級進学で教授になったため、特に高齢の教授たちには良く思われていない。そのことをわかっていたロビは、現場を目撃した教授や研究生の一部に魔力暴走を疑う者が現れると、嘘の説明をして納得させてきた。
事故当時、すぐそばにいたロレンだけには真実を話してしまったが、それ以外は罵声を浴びようと、ひたすら黙ってきたロビである。ただ、一ヶ月半も過ぎたらそんな話はどこへやらという感じで話題にならなくなり、その後は、多くの生徒が特に理由もなくロビを避けているという状況になっている。
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