魔法外科医は癒やし系少年
涼波ハルカの喪失-04 ☸ ロビの悪態
=== ✽ ✽ ✽ ===
オリシス家本宅の広い部屋に通されると、エイナと、もう一人、初老の成人男性がやってきた。
「おい、ロビ、メイアに入れ知恵したの、お前だろう?」
「歴史の話?そうだよ。君はもっと優秀な家庭教師をつけた方がいいよ」
「うるさい、セバス、隷従首輪を持ってこい」
「はい、かしこまりました」
(まったくもう、お子様だな)
セバスと呼ばれた執事らしき男は、部屋から出て行き、しばらくして金属の首輪を持ってきた。見た感じ、重さは五キロほどだろうか。大人であるセバスも、軽々は持っていない。
「それ、ウリシア王国じゃ、王立機関以外は所持禁止になっているやつじゃない?」
「うるさい。こいつの首に取り付けろ」
ロビはだまって大人しくしていた。
(ここで反抗して下宿を追い出されると父様に申し訳ないしな。後で騒いだところでもみ消されるだけだし。それに……)
ガチャリという重たい音とともに、ロビの首に隷従首輪が取り付けられた。
エイナは、隷従首輪に触れると、にやりと笑った。
「施錠隷従首輪」
エイナの付けている指輪のひとつが光り、魔法陣が現れた。隷従首輪がうっすらと光り、その光が消えると共に魔法陣も消えた。
隷従首輪と指輪は、古代魔道具のレプリカである。他種族より身体能力が低いヒト族が、存続するために必要な魔法道具と判断され、注力して解析、レプリカが作られた。実験中、事故で死者を出してしまったこともあったという。
指輪には発動のための文様が刻まれており、魔法式契約をしていなくても魔力を流し込み短縮詠唱することで隷従首輪を操作することができる。
「この首輪がどんなものか、わかっているんだろうな」
「ああ、わかってるよ。分解したこともある」
「じゃあ、簡単だ。これでどうだ。発動隷従首輪」
指輪が光り、隷従首輪が光った。
「痛たたたっ、ちょ、ちょっと、か、勘弁……」
叫び声と共に、ロビは床に倒れ、もがき苦しむふりを始めた。
(痛いふりをするのも面倒だな、エイナの魔力だとこれぐらいかな)
「どうだ、平民という立場よくわかっただろう。これに懲りたら、二度と俺に恥をかかせるな」
「は、恥?ち、ちか、力で、平民を……従わせ、せるのは、貴族の……恥」
「くっ、まだ言うか」
「ああ、何度でもね……痛いって、ああぁぁっ」
(うへ、我ながら名演技……僕には『魔力反射』の呪いがかかっているんだ。放射系の魔力なら九割ぐらい反射しちゃうから、ちょっとしか痛くないよ。ほら、もっとがんばって。ん?そっか、今、魔力放出をしているのは隷従首輪だから、これに反射しているんだ。どうせならエイナに反射してくれればいいのに)
ロビがエイナの顔を見上げると、得意げな表情をしていた。
(こういう時はありがたい呪いだけど、自分の放射系魔力も反射しちゃうんだよね。おかげでほとんどの攻撃魔法、治癒魔法などが使えなくて、初等部時代、魔法学の成績はいつも中の下だったな。お、そろそろ、エイナも限界かな。息が荒くなってきた。さぞかしお疲れの様子)
「まあ、これぐらいにしておいてやる」
「エイナ、ちょっと待ってくれ」
「なんだよ」
「君は将来、当主様になる人間だ。こんな中途半端なやり方で懲らしめてはダメだ」
「俺に説教するつもりか?」
「いや、こういうのは徹底的にやらないと、逆に恨まれて反発されるぞ」
「そういえば、父上もそう言っていたな。うーむ、どうしようか」
(ここはベタだけどしょうがない)
「きっと寒くて冷たい部屋で一晩過ごしたら、頭も冷めるかな」
「寒くて冷たい……おお、そうだ、監禁部屋で一泊してもらおう」
「そうだね、それぐらいしないと。その方が、次期当主様として箔が付くというものだよ」
当主様という言葉が心地よいのか、エイナは少し考え込む振りをしながらも、ニヤニヤしていた。
「おい、セバス、監禁部屋に連れて行くぞ」
「かしこまりました」
(馬鹿な次期当主様で良かったよ)
「でも、一人じゃ寂しいな、ここはぜひ次期当主様としてご慈悲を」
「そうだな、それぐらいの方が余裕があっていいか」
=== ✽ ✽ ✽ ===
ロビが連れていかれた先は、本宅から長い廊下で繋がる、薄暗い、手荒に仕上げられた石造りの部屋であった。何部屋かあり、ランプは無く、明かりはドアのない入り口側と、鉄格子のついた窓から外の明かりが差し込んでいるだけである。
「ロビ、一人じゃ寂しいだろうから、お前に相応しい奴のいる部屋にしてやるぞ。ありがたく思え」
セバスは鉄格子の扉を開けると、エイナの乱暴な口ぶりとは違い、ロビを監禁部屋内へ紳士的な態度で案内した。
「おい、ネネ、出てこい、友だちを連れてきてやったぞ」
暗がりの中に人のような気配はあるものの、動く様子は無い。エイナは隷従首輪を発動させようとしたが、眩暈を起こしたのか、ふらっと倒れそうになった。
「エイナ様、大丈夫ですか?」
「おいロビ、そいつ、今日の昼ぐらいから言葉に不自由しているらしいからな、かみ殺されないように気を付けろよ」
そう言うと、二人は監禁部屋から出て行った。
(うーむ、我ながら成功成功。あの程度で魔力切れを起こすとは、エイナにはもっと訓練してもらわないと)
「は、あぁぁっ」
暗闇から艶めかしい声がした。
「ハルカ、ロビだよ」
「ロビ!」
「ちょっと明るくするけど、いいかな?」
「わからない」
(『発動微小浮遊光球』)
小さな魔法陣が現れ、収縮して光の玉になった。強い光ではないが、優しくふんわりとした光を放つ玉である。ハルカは部屋の隅で膝を立てて座っているので、ロビは下着を着けていないことにすぐ気が付いた。
体格は既に成人で、三十分ほど前に見たとおり、とてもかわいらしい面立ちである。しかし、着ている服は最小限に身体を覆う程度、そして薄汚れており、首には隷従首輪が取り付けられている。
(ひどい匂いだ…ん?でもこの匂い、汚れの匂いだけじゃない……狼、そうか)
ロビはハルカに近づき、頬を優しく両手で包むと顔を上げさせた。そして、お互いの額をくっつけた。ハルカは、この瞬間を待ち望んでいたようで、目を閉じてロビに促されるまま、額を押し付けた。
<ロビ様、助けに来てくださったんですか?>
<ごめん、まだ助けられないけど、会いに来たんだ。ちょうど、エイナの機嫌が悪くて助かったよ>
<エイナ様とはどういう関係なんですか?>
<エイナとは、王立学院中等部の同級生だよ。まず、簡単にこの世界のことを説明するね>
<はい、お願いします>
<ここはウリシア王国という国で、エイナは三大貴族のひとつ、オリシス家の長男。僕の実家は、ここから十キロほど離れたところで魔法外科医院を営んでいる。父親同士が古くからの友人らしくて、オリシス家の別宅を借りて下宿しているんだ>
ロビは、講堂から見える景色や、王都壁の屋上からの景色を思い浮かべた。
<わあ、中世のヨーロッパみたいです>
<君の世界は、ここよりも文明が進んでいるみたいだね>
<ロビ様、ドアが開きました>
<うん、一旦、離れるね>
女性の召使いが食事を持ってきた。ハルカ用の食事は皿に雑に盛られたものである。ロビも同じもので、召使いは申し訳なさそうな顔をした。
「ロビ様、エイナ様からはネネと同じようにと言われているのですが、スプーンなどをお持ちしましょうか?」
「いや、エイナの言う通りでいいよ。ばれたら君が困るだろ?」
「申し訳ありません。器は明日の朝、取りに参ります」
「うん、気を遣わせちゃってごめんね」
盛り付けはひどいが、どれもいい香りのする料理である。
(『構築簡易食器』)
ロビとハルカの目の前に、皿やフォークなどが現れた。ハルカは目をキラキラさせてスプーンを手に取った。
(『接触念話』)
<ロビ様、これどうやって作ったんですか>
<土魔法の応用で、その辺の壁の岩を使って作ったんだ。簡易版だから二時間ぐらいで砂になっちゃうけど。この料理もきれいに盛り付ければ美味しさアップだよ>
ロビは雑に盛られた料理を、何枚かの皿に分けて盛り付けた。ハルカは美味しそうに食べ始めた。
(ふーん、スプーンやフォークはちゃんと使えるんだ。でも良かった、ちゃんと食欲あって)
ロビは、ハルカの様子を見てほっとしていた。
オリシス家本宅の広い部屋に通されると、エイナと、もう一人、初老の成人男性がやってきた。
「おい、ロビ、メイアに入れ知恵したの、お前だろう?」
「歴史の話?そうだよ。君はもっと優秀な家庭教師をつけた方がいいよ」
「うるさい、セバス、隷従首輪を持ってこい」
「はい、かしこまりました」
(まったくもう、お子様だな)
セバスと呼ばれた執事らしき男は、部屋から出て行き、しばらくして金属の首輪を持ってきた。見た感じ、重さは五キロほどだろうか。大人であるセバスも、軽々は持っていない。
「それ、ウリシア王国じゃ、王立機関以外は所持禁止になっているやつじゃない?」
「うるさい。こいつの首に取り付けろ」
ロビはだまって大人しくしていた。
(ここで反抗して下宿を追い出されると父様に申し訳ないしな。後で騒いだところでもみ消されるだけだし。それに……)
ガチャリという重たい音とともに、ロビの首に隷従首輪が取り付けられた。
エイナは、隷従首輪に触れると、にやりと笑った。
「施錠隷従首輪」
エイナの付けている指輪のひとつが光り、魔法陣が現れた。隷従首輪がうっすらと光り、その光が消えると共に魔法陣も消えた。
隷従首輪と指輪は、古代魔道具のレプリカである。他種族より身体能力が低いヒト族が、存続するために必要な魔法道具と判断され、注力して解析、レプリカが作られた。実験中、事故で死者を出してしまったこともあったという。
指輪には発動のための文様が刻まれており、魔法式契約をしていなくても魔力を流し込み短縮詠唱することで隷従首輪を操作することができる。
「この首輪がどんなものか、わかっているんだろうな」
「ああ、わかってるよ。分解したこともある」
「じゃあ、簡単だ。これでどうだ。発動隷従首輪」
指輪が光り、隷従首輪が光った。
「痛たたたっ、ちょ、ちょっと、か、勘弁……」
叫び声と共に、ロビは床に倒れ、もがき苦しむふりを始めた。
(痛いふりをするのも面倒だな、エイナの魔力だとこれぐらいかな)
「どうだ、平民という立場よくわかっただろう。これに懲りたら、二度と俺に恥をかかせるな」
「は、恥?ち、ちか、力で、平民を……従わせ、せるのは、貴族の……恥」
「くっ、まだ言うか」
「ああ、何度でもね……痛いって、ああぁぁっ」
(うへ、我ながら名演技……僕には『魔力反射』の呪いがかかっているんだ。放射系の魔力なら九割ぐらい反射しちゃうから、ちょっとしか痛くないよ。ほら、もっとがんばって。ん?そっか、今、魔力放出をしているのは隷従首輪だから、これに反射しているんだ。どうせならエイナに反射してくれればいいのに)
ロビがエイナの顔を見上げると、得意げな表情をしていた。
(こういう時はありがたい呪いだけど、自分の放射系魔力も反射しちゃうんだよね。おかげでほとんどの攻撃魔法、治癒魔法などが使えなくて、初等部時代、魔法学の成績はいつも中の下だったな。お、そろそろ、エイナも限界かな。息が荒くなってきた。さぞかしお疲れの様子)
「まあ、これぐらいにしておいてやる」
「エイナ、ちょっと待ってくれ」
「なんだよ」
「君は将来、当主様になる人間だ。こんな中途半端なやり方で懲らしめてはダメだ」
「俺に説教するつもりか?」
「いや、こういうのは徹底的にやらないと、逆に恨まれて反発されるぞ」
「そういえば、父上もそう言っていたな。うーむ、どうしようか」
(ここはベタだけどしょうがない)
「きっと寒くて冷たい部屋で一晩過ごしたら、頭も冷めるかな」
「寒くて冷たい……おお、そうだ、監禁部屋で一泊してもらおう」
「そうだね、それぐらいしないと。その方が、次期当主様として箔が付くというものだよ」
当主様という言葉が心地よいのか、エイナは少し考え込む振りをしながらも、ニヤニヤしていた。
「おい、セバス、監禁部屋に連れて行くぞ」
「かしこまりました」
(馬鹿な次期当主様で良かったよ)
「でも、一人じゃ寂しいな、ここはぜひ次期当主様としてご慈悲を」
「そうだな、それぐらいの方が余裕があっていいか」
=== ✽ ✽ ✽ ===
ロビが連れていかれた先は、本宅から長い廊下で繋がる、薄暗い、手荒に仕上げられた石造りの部屋であった。何部屋かあり、ランプは無く、明かりはドアのない入り口側と、鉄格子のついた窓から外の明かりが差し込んでいるだけである。
「ロビ、一人じゃ寂しいだろうから、お前に相応しい奴のいる部屋にしてやるぞ。ありがたく思え」
セバスは鉄格子の扉を開けると、エイナの乱暴な口ぶりとは違い、ロビを監禁部屋内へ紳士的な態度で案内した。
「おい、ネネ、出てこい、友だちを連れてきてやったぞ」
暗がりの中に人のような気配はあるものの、動く様子は無い。エイナは隷従首輪を発動させようとしたが、眩暈を起こしたのか、ふらっと倒れそうになった。
「エイナ様、大丈夫ですか?」
「おいロビ、そいつ、今日の昼ぐらいから言葉に不自由しているらしいからな、かみ殺されないように気を付けろよ」
そう言うと、二人は監禁部屋から出て行った。
(うーむ、我ながら成功成功。あの程度で魔力切れを起こすとは、エイナにはもっと訓練してもらわないと)
「は、あぁぁっ」
暗闇から艶めかしい声がした。
「ハルカ、ロビだよ」
「ロビ!」
「ちょっと明るくするけど、いいかな?」
「わからない」
(『発動微小浮遊光球』)
小さな魔法陣が現れ、収縮して光の玉になった。強い光ではないが、優しくふんわりとした光を放つ玉である。ハルカは部屋の隅で膝を立てて座っているので、ロビは下着を着けていないことにすぐ気が付いた。
体格は既に成人で、三十分ほど前に見たとおり、とてもかわいらしい面立ちである。しかし、着ている服は最小限に身体を覆う程度、そして薄汚れており、首には隷従首輪が取り付けられている。
(ひどい匂いだ…ん?でもこの匂い、汚れの匂いだけじゃない……狼、そうか)
ロビはハルカに近づき、頬を優しく両手で包むと顔を上げさせた。そして、お互いの額をくっつけた。ハルカは、この瞬間を待ち望んでいたようで、目を閉じてロビに促されるまま、額を押し付けた。
<ロビ様、助けに来てくださったんですか?>
<ごめん、まだ助けられないけど、会いに来たんだ。ちょうど、エイナの機嫌が悪くて助かったよ>
<エイナ様とはどういう関係なんですか?>
<エイナとは、王立学院中等部の同級生だよ。まず、簡単にこの世界のことを説明するね>
<はい、お願いします>
<ここはウリシア王国という国で、エイナは三大貴族のひとつ、オリシス家の長男。僕の実家は、ここから十キロほど離れたところで魔法外科医院を営んでいる。父親同士が古くからの友人らしくて、オリシス家の別宅を借りて下宿しているんだ>
ロビは、講堂から見える景色や、王都壁の屋上からの景色を思い浮かべた。
<わあ、中世のヨーロッパみたいです>
<君の世界は、ここよりも文明が進んでいるみたいだね>
<ロビ様、ドアが開きました>
<うん、一旦、離れるね>
女性の召使いが食事を持ってきた。ハルカ用の食事は皿に雑に盛られたものである。ロビも同じもので、召使いは申し訳なさそうな顔をした。
「ロビ様、エイナ様からはネネと同じようにと言われているのですが、スプーンなどをお持ちしましょうか?」
「いや、エイナの言う通りでいいよ。ばれたら君が困るだろ?」
「申し訳ありません。器は明日の朝、取りに参ります」
「うん、気を遣わせちゃってごめんね」
盛り付けはひどいが、どれもいい香りのする料理である。
(『構築簡易食器』)
ロビとハルカの目の前に、皿やフォークなどが現れた。ハルカは目をキラキラさせてスプーンを手に取った。
(『接触念話』)
<ロビ様、これどうやって作ったんですか>
<土魔法の応用で、その辺の壁の岩を使って作ったんだ。簡易版だから二時間ぐらいで砂になっちゃうけど。この料理もきれいに盛り付ければ美味しさアップだよ>
ロビは雑に盛られた料理を、何枚かの皿に分けて盛り付けた。ハルカは美味しそうに食べ始めた。
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