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拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜

星名 泉花

第13話-3「BALLAD2022」





「ノストラダムスの大予言……」


「は? なに、ずいぶん懐かしいワードだね」




黒咲君くろさきくんの祖父、輝利かがとしさんが亡くなったのは1999年の7月。


そして父、貴利たかとしさんが亡くなったのも7月。




世界が終わると言われていた時に生を終えてしまった祖父。


作り上げた礎を守り、未来まで盛り上げたいと願って跡を継いだ黒咲君くろさきくん


その間を繋いでいた父は何を思い生きて、生を終えたのだろうか。


祖父から父へと継がれたなかで、その二人の背中を見つめ続けた。


その果ての自殺は、二人が7月にいなくなってしまったこと。


恐怖の大王にのみ込まれた黒咲君くろさきくんを思うと涙が溢れ出た。






(そうか、わかった。 黒咲君くろさきくんが見ていたのは夢の終わりだ)




輝利かがとしさんが亡くなったことを境に衰退していく世界を見た。


それでも跡を継いだ父親の背中を見ていた。


だが過疎化は止まらなくて、どんどん衰退していく町を見つめ続けた。


流れる時代と老いてく背中、険しくなる表情。


ここまで絶望した理由は判明しても、見えてこない黒咲君くろさきくんの呪縛もあった。


黒咲君くろさきくんの家は輝利かがとしさんから始まって、それ以外が全てにおいて不透明だった。






(おじいさんが生きた一番の栄光の時期。その時代の背中を見て育った黒咲君くろさきくんのお父さん)




祖父の死とともに夢は終わる。


その終わった夢に生き、覚めた世界で独り歩いた父。


栄光を言葉でしか知らない黒咲君くろさきくんは、栄光で塗り固められた父の生き方を見る。


それは優しい黒咲君くろさきくんにとってどう映ったのか。


終わった世界を終わらせたくなかった。


だが父親が亡くなったことで……黒咲君くろさきくんを支えていた茎が折れた。




(あぁ、なんて苦しいの? 私は何故、抱きしめる資格がなかったの?)




「……芽々めめ? 泣いてるの?」


「私、なんにもわかってあげられなかった。なんで寄り添ってあげられなかったんだろ」




止まらない涙を拭い、ズキズキと痛む胸をおさえる。




「一時的なものでどうにかなるほど、そんな甘いものじゃなかった」




星祭りを一度変化させ、成功させただけでは何も変わらなかった。


過去の栄光はあまりに甘すぎて魅惑的で、全てが霞んでしまう。




「……それで、あんたはどうしたいの?」


「私はっ……」








「たとえ一時的でもあんたは動いたじゃん。アタシは黒咲君くろさきくんじゃないからわかんないけど、嬉しかったんじゃないの?」




その言葉に私は目を見開く。


息をのみ、喉が焼けていく感覚を味わった。






「なんでわからなかったからって芽々めめが気負わなきゃいけないの? そんなのわかんなくない?」


「わかんないのに私は好きだって言ってた……」


「好きならなんでもわかるの? そんなの出来たら誰も苦労しない」




何も答えられない。




「好きでもわかんないことの方が多いよ。だから分かろうと努力するもんじゃないの?」




きっと私はガチガチに考えすぎていた。




「好きだから努力出来るんじゃないの? そこに理解度って重要?」




あまりに完璧に好きであろうとして、私は枷を外しきれていなかった。


里穂に言われて私はようやく枷を見る。


壊せないと思っていたそれは、意外と錆びて自力で壊すことが出来るようになっていた。


涙を拭い、鼻水をすする。






「わかんなかったらわかんないって突っ込んでいく。それが芽々めめじゃないの?」


「うん、そうだね。長い間忘れてたけど、私って思い立ったらすぐ行動出来るタイプだった」


「周りになんと言われようと、好きにすればいいんだよ。……黒咲君くろさきくんが好きなら突っ込んじゃえ」


「もうっ! 里穂のバカ!」




なんだか気持ちが楽になり、笑ってしまう。


もう認めるしかないし、行動することも怖くない。


気持ちを現状維持させるより、私は前進させたかった。




二人で笑いあっていると、電話口で違う声が入り込む。




「ママー、莉子がオネショしたー」


「それくらい自分でオムツ替えてよ! 友達が電話してきてんだから空気読んでよ!」


「でも俺も仕事行かなきゃ。遅刻しちゃう~」




「……はあぁ。ごめんねぇ、芽々めめ。またあとでかけるわ」




里穂の深いため息に私は首を横に振る。


口角があがり、心は軽かった。




「ううん、大丈夫。ありがとね。……またあとで会おう!」


「えっ!? あとでって……芽々めめ!?」




電話を切り、私は深呼吸をしながら背伸びをする。


窓から見える景色に目を向けて、気合いを入れた。


思い切ってそのまま電話帳に登録された番号へかける。




『おい、もう始まってるのにまだ出社しないでなにを』


「おはようございます、部長。突然で申し訳ございませんが、今日休みます」


『当日休むなんてお前、周りへの迷惑を』


「有休、私用で休みます。あと近々退職しようと思うのでよろしくお願いします」


『なっ!?  私用で休むのは認められない! 退職も電話で済まそうなんて非常』


「では、急ぐので。失礼します」




電話口で何か聞こえたが、もう私を堕とす声や言葉は耳に入れたくない。


私にとって不要なものは断捨離、シャットダウンしてしまおう。




「ふっ、言っちゃった!」




長年の拗らせは思い切ってぶつけにいこう。


怖いものはない。


一番星を捕まえに行くだけなのだから。


ダメでもその一歩はきっと大きな一歩になる。




私の初恋は、いつだって私の光だった。




黒咲君くろさきくん、今行くから!)




拗らせた初恋は、光り方を変えてみせる。

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