拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜
第12話-4「My soul,Your Beats 2010」
まもなく年越す時間。
星を投げる河川敷には多く人で賑わっている。
ただの石投げイベントがこんなに盛り上がるのは例年になく、運営側は高校生のしでかしに振り回されていた。
これまで何食わぬ顔して進めてきたが、余計な注意もめんどくさいと放っておいたことで水面下で盛り上がったわけである。
はじめての取り組みのため、興味本位ととりあえず、といったところだろう。
発端の側としては心臓がバクバク跳ね上がり、目前に迫る本番に嬉しい悲鳴をあげていた。
中でも人のざわめきに奏が緊張に足をふるわせ、テントの骨組みを握りしめている。
「うっ、緊張する……」
「大丈夫よー、奏ちゃんいっぱい練習したじゃない。そのままやればいいわよ」
お団子の部分をつまみ、ふにふにとする。
撫でているつもりのようだ。
それを頬を染めて受け入れている奏はあいらしい。
「うん、がんばる。お姉ちゃんも、演奏ありがとね」
「これでも音楽の先生ですから! まっかせなさーい!」
「うん!」
(仲良しだなぁ)
二人の様子を見て、ニマニマしながら頬を抑える。
私は完全裏方のため、天幕の中から外の様子を伺いタイミングを探っている。
「奏ぇ、あたし大丈夫だよね?」
衣装をまとった麻理子が一番緊張しており、胸を抑えながら奏に近づいていく。
奏は麻理子を見た瞬間、とろけそうな笑顔で緊張を飛ばしていた。
「大丈夫だよ、麻理子は世界一かわいい。本当に奇跡みたいな存在だよぉ」
「ありがと、奏。そうね、あたしはめちゃくちゃキレイだ。みんなに星の女王様にしてもらったんだ。絶対に誰よりも輝いてやるわ」
「その意気だ!」
二人はお互いに褒め合うことが多い。
リスペクトを口にしているからなのか、良いところを引き上げるのが上手い印象である。
麻理子の自信は奏によって作られてきたものなのかもしれないと、ふと二人の友情のあり方を見て思うのだった。
「あ、じゃあそろそろ司会でスタンバらないと。めめりん、あとは任せたよ」
気合いを入れて両頬を叩き、姉の詩とともに天幕から出ていく奏。
これから奏が司会として突入し、後ろで詩が持参したキーボードで演奏をする。
ポスターにチラシ、天幕への乱入ともう誰も止めはしないが、形は電波ジャックならぬ“星ジャック”とていであった。
ついに分岐点だった道が繋がっていく。
笑って夜に溶け込んでいく後ろ姿に昂揚した。
「めめりん」
天幕に残り、出番待ちの麻理子が声をかけてくる。
振り返ると、大人びた表情をした星の女王がそこに立っていた。
天の川のようにキラキラ流れる微笑みに目を奪われる。
柔らかく細められた目に、急に恥ずかしくなり手をもじもじさせてしまう。
「めめりん、ありがとね」
「こ、こちらこそ! 麻理子様のおかげで色んなことが出来たよ! 黒咲君も喜んでたし! こんなに人も集まって……すごいよ!」
妙に晴れない微笑みを見せたあと、麻理子はパールがかって光る手袋越しに私の手を掴む。
長いまつ毛が表情に陰を作っていた。
「……あたしさ、ケジメつけたいんだ。あたしが黒咲君のこと好きなの、知ってるよね?」
「あ……」
ひやっとした汗が背中を伝う。
気持ちは知っていても、麻理子の口から直接聞いたことはない。
麻理子が本当はどう思ってたかを知らず、勝手に話題にして麻理子をつまみにしていた。
あえて気持ちを口にして向き合おうとする麻理子に、恥ずかしさが勝る。
「めめりんはすごかった。あたし、正直自分が恥ずかしくなった。カースト上位だから何って思ったよ。そんなの学生が勝手に決めた学生限定の強さ」
違う。
勝手に作り上げた枠組みの中で、麻理子はそれに見合う努力をし、憧れと華やかさを裏切らない生き方をしてきた。
誰もいじめていないのに、勝手に悪役にされ叩かれたこともあるだろう。
それでも麻理子は上に立つ位置にいることから目をそらさなかった。
「カースト上位じゃないとダサいとか、惨めとか、そういうこと思う方がカッコ悪いなって思ったよ」
その考えは麻理子のものではないのだろう。
長年、上にいたことにより、植え付けられたもの。
本当は麻理子がどこにいたくて、どうやって笑っていたかったかは本人にしかわからない。
この恥ずかしさは、麻理子を枠組みに当てはめた自分へのものだった。
「……私も、ごめんなさい」
これは麻理子を色眼鏡でしか見ていなかったかつての自分からの謝罪だった。
「麻理子様は人を見下す奴だって思ってた。だから……勝手に女王様なんて呼んで……」
「間違ってないからいいよ。カースト上位で有頂天だったのは事実だし」
ニッと笑う姿は一皮むけている。
その輝きは、きっと誰にも発することの出来ない麻理子だけのものであると理解した。
「これからは正しい意味で、女王様を目指す。女王様はカリスマで、みんなを守る存在でしょ?」
握られた手に力が入り、私の手に麻理子の想いが入り込んでくる。
カラフルな笑顔が私の髪をそよがせた。
「めめりんはもうあたしの友達。友達は守らないとね」
「麻理子様……」
「でもケジメつけるのも必要なの」
「……ケジメって」
「めめりんさ、黒咲君のこと好きでしょ?」
「えっ!? あ、それは……」
麻理子の真っ直ぐな目から目線を外せない。
唾を飲み込み、覚悟を決めるため長い息を吐く。
「……好きです」
「そっか」
不安混じりに、偽りなく麻理子へと告げた。
麻理子は安堵したスッキリとした笑顔で私の背中をバシッと叩いてきた。
「卒業までにちゃんと告白しなよ?」
「ま、麻理子様だって!」
「あたしはもう、ふられてるから」
「え?」
いつのまにそんなことが起きてたのだろう。
私の知る黒咲君と麻理子の関係性が確実に変化している。
お互いの立ち位置、未来を見る目、全てが変化前の時系列と異なっていた。
「だからね、もういいの。もうお姫様は辞めたんだから。みんなの女王様になる。最強にキレイなのは、あたしなんだから」
麻理子はこの時間で羽ばたくことを選んだのだろう。
きっと依然より羽化が早かったのかもしれない。
殻を破った星の女王は凛々しく、惑わすような美しさであった。
「うん。麻理子様は最強だ。よろしくね、星の女王さ……」
「なにを勝手にやっとるかー!!」
言葉に被さるように天幕の外から怒号が聞こえてくる。
驚き、麻理子とともに外を覗くと見えたのは黒咲君とそれに声を荒らげる復興会副会長の蒲田祖父の姿だった。
「お願いします! このまま続けさせてください!!」
「く、黒咲君?」
「私、行ってくる!!」
私は天幕から飛び出す。
黒咲君の星は光らせる。
そのためなら私はもう、何も怖くない。
未来への分岐点をぐちゃぐちゃにさせまいと私は一心不乱に走り出していた。
その後ろ姿を見て、麻理子はキュッと唇を結んで固く微笑んでいた。
「悔しいけど完敗だな。 がんばれ、めめりん」
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