拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜
第11話-5「GLORIA2010」
視聴覚室から出ていく里穂。
しばらく黙って入口を見ていたが、ゆっくりと目を合わせて誤魔化すように二人は笑い出していた。
「か、片付けしよっか」
「……うん」
石を拾っては一箇所に集めていくも、淡く光る世界に思わずウットリしてしまう。
「本当にすごいね。天の川みたい。これが流れ星になって川に帰っていくって素敵な演出だよ」
私がはしゃいでクルクル回ると、黒咲くんが口角を上げクスリと笑う。
「本当に願いごとが叶うといいのにな」
「叶うよ!」
間も無く反射的に返答する。
あれだけ悩んでいたというのに、この空間にいると不思議と余計な考えがなかった。
あるのは星に照らされた圧倒的光であった。
「黒咲くんの願いは叶う! 私が叶える! 星祭りは絶対に盛り上がる!」
駆け出して、私は黒咲くんの手を掴む。
この星の輝きをなくしたりしない。
広い空でただ一人。
大好きな私の一番星。
その星に魅せられ、私は流れてここまで来たのだから。
「黒咲くんが大丈夫だって思えるまで私は諦めないから。もっと強くなる」
「……時森は不思議だな。なんでも叶う気がしてきた」
手を握り返し、片手でポケットから七色の石を取り出す。
星が輝く世界で光をまとい、角度によって色を変えた。
「これ、もらった日からずっと希望を見ている気持ちになる」
「それ、あの時の」
「何でだろうな。思ってたより、気持ちが明るいんだ」
ポン、と私の手に七色の石をのせる。
そしてそれを包み込むように両手を重ね、黒咲くんは高ぶらせた声を出しながら笑った。
目を奪われる。
光を灯してくれる黒咲くんにつられてえくぼが浮いていた。
「きっと時森のおかげだ! だからありがとう! 絶対、絶対に成功させよう!」
「うん!」
(あぁ、幸せだなぁ。私をこんなに幸せな気持ちにさせてくれる黒咲くんってやっぱりすごい)
ずっと王子様みたいだと思っていた。
何も知らない見ているだけだった人。
でも今は黒咲くんだから好きになったと胸張って言える。
(拗らせてよかったなぁ)
気持ちが昂って涙が溢れそうになっていた。
だが空気を破るように視聴覚室の扉がガラガラと音を立てて開かれる。
現れたのは髪をいつもより丁寧に整えた艶々した様子の教師・橋場であった。
「ん? あれ、遠藤先生は……ってなんじゃこりゃ!? 黒咲、これだと運べないぞ!?」
「す、すみません! すぐ片付けます!」
石の散らばった状況に橋場は吠える。
慌てて手を離し、七色の石をポケットにしまうと光石を拾い始めていく。
私もまた石を拾って赤い顔を誤魔化していた。
カクカクした動きをする二人を見て橋場が顎に手を当ててニヤリとする。
「にしても黒咲と時森……はぁん、そうか」
「な、何考えてるんだよ先生! そういうんじゃないから! そ、それより遠藤先生なら教室じゃないですか!? 妹がそこにいますよ!」
「な、なんだと? そ、それは……ごほん。遠藤先生も忙しいようだな。手伝わないと」
髪をぺたぺたと触りながら、扉を開けっ放しで去っていく。
私はその背を見送りながら、長年気づかなかった人間関係の狭さにショックを受けていた。
「遠藤先生って奏ちゃんのお姉さんだったんだ」
なんという狭い環境。
けれども私たちはこの狭いながらもやりくりするしか、生きていく手段がなかった。
「がんばれ、橋ミッキー」
大人だと思っていた教師も、何も変わらない。
考えてみれば橋場もアラサー程度の年齢ということに気づいてしまうのであった。
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