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拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜

星名 泉花

第11話-1「GLORIA2010」

「はあー、なんで冬休みに学校にいるわけぇ?」


冬休みにより人気のない教室で里穂が机に突っ伏してボヤく。

それをあやすように後頭部をぽんぽんと叩き、私は里穂の機嫌取りをはじめる。


「まあまあ、学校が集まりやすいからさぁ。……ありがとね、里穂。おかげで動画とポスターの拡散すごく出来たよ」


そうはいうものの、感謝する気持ちに嘘偽りはないので、機嫌取りというより喜びを伝えているようなものだ。

自分には出来ないことを手助けしてくれる友人の存在が心強く、ありがたかった。

しかし里穂からするとまた違った思いがあるらしく、唇を尖らせて顔だけ横に向ける。

頭はそのまま撫でていてほしいようだ。


芽々めめは仲間作った方がいいよ。後輩に面白い子、結構いるんだよぉ?」

「だってぇ、若い子怖いもん」


私の嘆きに里穂はため息をつき、頭を撫でている手に手を重ねてくる。

縁のハッキリした目で見られると、突き刺されるような感覚がありドキッとした。


芽々めめってそういうとこあるよね。やたら若い子怖いって、あんたも若いんだけど?」

「うっ……」

「もう芽々めめに嫌がらせしてきた先輩もいないんだから堂々としたら? 中学なんて昔のことなんだし。大半が隣町の高校に進学してるんだからさ」


私は中学のとき、先輩から嫌がらせを受けた。

理由は目立つから。

小学生の頃の芽々は男勝りで、女の子と遊ぶより男の子と遊ぶ方が楽しかった。

その延長戦で中学に入り、媚びてると悪者にされる。

だんだんと大人しくなっていく私に気づいた百々ももが怒ったことにより、嫌がらせはなくなった。

だがその時にはもう後輩からバカにされる目で見られるようになり、いたたまれずに私は逃げた。

顔を上げることが出来なくなっていた。

高校に入り、最低限の交友関係で生きるようになる。


「そうだね。怖がってたら……相手にも伝わってしまうよね」

「それに星祭り、先輩たちも来るかもしれないじゃん?」

「あ……」


冷たい汗が背中を伝う。

もう昔のことのはずなのに、どうしても恐怖と緊張から逃れることが出来なかった。


芽々めめさ、自分をバカにしたヤツにまで媚び売らなくていいんだよ」


身体を起こし、手を握ったまま真っ直ぐに見つめてくる。

その真摯さに目が離せなかった。


芽々めめから離れた男子もそう。芽々めめよりプライドを大事にした。あの時は男子も恥ずかしがって芽々めめから離れていったけど、今はむしろ彼女欲しくての意味で色気づいてるじゃん?」


中学生のときは男女が敵対する構図がよくあったが、高校生になると途端に色恋話。

恋人がいるのがステータスという価値基準が発生する。

散々女子をバカにして悪口を言っていた男子ほど、彼女が欲しいとギャンギャン騒ぎ出す。

中身は変わってないのに【中学生】【高校生】のくくりだけが変わって、必要なアクセサリーを求めていく。

根っこにある考えは変わらないのに、見栄と孤独でアクセサリーをつけるのは何故?

私たちは価値を可視化出来ないと不安になる生き物なのだろう。

でもそれは【大人】だって変わらないのに。


「ブスだキモいだ言ってきた奴が彼女欲しいとか、その方がキメーんだよ」

「里穂、こわっ」

「バカにしてきた後輩も今の芽々めめにはどうでもいいヤツらでしょ? 全員がバカにしてきたわけでもないし。芽々めめのこと、面白いって思ってた子もいたかも」

「面白いって……」


大人になっても割り切れない。

どうでもいいと思ってても私は【八方美人】になっていった。

誰にでもいい顔をする人は嫌われ役にされがちだが、本当は傷ついたゆえの防御だ。

よく中学生や高校生は【未熟者】というけれど、その未熟者ほど大人になると【青春の美化】をするのは何故?

美談に出来るのは誰かを攻撃出来た強者だったから。

攻撃された者は大人になっても守ることに必死で、いつまでも【青春の自虐】しか出来ない。


「ま、アタシも関わるのはめんどくさいからネットだけなんだけどね。顔も知らない人と語るのは楽しいよ」


顔が見えないことへの安心。

それは両極端な方向へ進みがち。

里穂の場合、一見他人への期待を止めたような言動と行動だ。


「いや何が面白いかってね、やりとりしてる子がこの学校の後輩っぽくて。めっちゃ面白いのよ。あえてお互い正体は言わずにいるんだけど。 その子がめっちゃ拡散上手だから頼んじゃった。……黒咲くん名義で」

「……後輩にも人気者の黒咲くん、強い」


だがミーハーな面で良いところも悪いところも面白いと捉えているだけに過ぎない。

ネットのやりとりだとしても相手の良いところを見つけたらそれを活用する。

悪いところはネタにして笑う。

期待ではなく、活かす方向へと転換していた。

良くも悪くもミーハーのため、深入りしないわけである。

全ては自分を笑わせるための情報源。

誰かを元気づけるときのストックのようなものだった。

決して相手を貶めるように扱わない。

だから大人になっても里穂と友達でいられたと、こうして目の前にして笑みが浮かんだ。


「黒咲くん優しいもん。みんなに頼られてさ。競争率高いんだよ? 卒業までには告白して繋いでおくのよ?」

「もぉー!  里穂のバカ!」


良いところも悪いところも好き。

大人になっても続く友情は、友情依存ではなく相手へのリスペクトだ。

傷の舐め合いではない。

相手の表面上のステータス以外に尊敬する心が持てるかが鍵かもしれない。

高校生でも私にとって里穂は【大人】であった。

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