拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜
第9話-1「To be free2010」
追いかけることも出来ず、私は頼りない足取りで家に戻る。
ギシギシとなる古びた木造の階段をのぼり、すっかり位置感覚を覚えてしまった部屋の扉を開く。
「ただいま」
「遅くまで出てたね。まったく、ずいぶん待ったじゃん」
思わず肩があがる。
モコモコのヘアバンドで前髪をあげた羊並みのふわふわ感を身に纏う姉の百々がいた。
ベッドの上で胡座をかき、スマホいじりをしている。
いつも怒るか拗ねるかの姉が、珍しくなんとも言えない真面目な顔をしてこちらに目を向けてきた。
「おねーちゃん何して……」
「あんた、あたしのパソコンいつまで借りてるつもりよ。大学の課題出来ないじゃん」
「……もう返す。使わなくなったから」
受験生だというのに勉強をほっぽり出して無我夢中になってパソコンで動画を作成した。
とにかく可愛いを貫いてきた麻理子が殻を破って思いを吐き出してくれたというのに、無駄にしてしまったと申し訳ない気持ちとなる。
他にもポスターを作ってくれた倉田からも何件かデータが上がってきている。
責任もとれない言い出しっぺがたくさんの好意をぞんざいにした。
無駄ばかりで、黒咲くんを追い詰めて、何をしているのだろうと泣きたくなる。
拳を握りしめて、俯いた。
「あんなに頑張ってたのに捨てるんだ」
その言葉に顔を上げる。
百々は首を傾げて、ジッと私を見透かすように見つめていた。
「珍しくあんた、目標持ってたのにもったいないね。無難な生き方しかしてこなかったあんたが」
「無難な生き方って……」
百々の指摘通りであった。
なんの目的もなくただ大学行って、周りと同じように就職した。
就職活動にも軸なんてものはなくて、ただ内定が欲しくて手当り次第に受けていた。
周りがみんな事務職とか、そういうデスクワークを目指してたからなんとなくそうやってきた。
結局、事務職にはなれたものの自分のやりたいことかもわからずに目の前の業務をこなす。
それでも働くうちに目標は出来ていき、それを達成するために必死だった。
だけど潰れてからはもうノルマでしかなかった。
私の目標には誰の支えもなく孤独なものだった。
「おねーちゃんの言うとおりだね。私は何がしたくてずっと生きてたんだろ」
見たくもなかった優しさの欠片もない世界。
そこにあったのは、個人の利益にもならない目標なんてものは不要な場所。
お金と名誉という利益を追求するだけのまさに「ビジネスの世界」であった。
「夢や目標がある人ほどいなくなるのはどうしてなんだろう」
何人も潰れていなくなった。
他人事にその背を見ていたらいつの間にかそれは自分になっていた。
見ていたはずの背中がなくなって、後ろから見えない顔に突き落とされる。
頑張ってたはずの人が残れず、社会への虚しさばかりが募る。
目標よりも生き残りをかけて自分の立ち位置を誇示し、他人事になっていくんだ。
打ち砕かれた希望を拾うことも出来ずにいる私を見て、百々は目を細めていた。
「別に目標や夢が全てじゃないでしょ。大切なものは人それぞれよ。でもあんた、誰かのために頑張ってるようだからさ。力になりたいがあんたの原動力かと思ってた」
その言葉に顔を上げると、百々は口角をあげて満足そうにニヤリと笑っていた。
「動画、見たよ。あんたあんなすごいの作ったんだね」
「あ……」
「モデルの子の協力なかったら作れなかったね。ポスターのデータも見た。あんたは人を生かす力があるんだって、そう思ったよ」
いつもなら見られたことに腹を立てる場面なのに、何故だか泣きたい気持ちになった。
目頭が熱くなって、喉の奥が痛くて、震える唇をギュッと結んだ。
ギシギシとなる古びた木造の階段をのぼり、すっかり位置感覚を覚えてしまった部屋の扉を開く。
「ただいま」
「遅くまで出てたね。まったく、ずいぶん待ったじゃん」
思わず肩があがる。
モコモコのヘアバンドで前髪をあげた羊並みのふわふわ感を身に纏う姉の百々がいた。
ベッドの上で胡座をかき、スマホいじりをしている。
いつも怒るか拗ねるかの姉が、珍しくなんとも言えない真面目な顔をしてこちらに目を向けてきた。
「おねーちゃん何して……」
「あんた、あたしのパソコンいつまで借りてるつもりよ。大学の課題出来ないじゃん」
「……もう返す。使わなくなったから」
受験生だというのに勉強をほっぽり出して無我夢中になってパソコンで動画を作成した。
とにかく可愛いを貫いてきた麻理子が殻を破って思いを吐き出してくれたというのに、無駄にしてしまったと申し訳ない気持ちとなる。
他にもポスターを作ってくれた倉田からも何件かデータが上がってきている。
責任もとれない言い出しっぺがたくさんの好意をぞんざいにした。
無駄ばかりで、黒咲くんを追い詰めて、何をしているのだろうと泣きたくなる。
拳を握りしめて、俯いた。
「あんなに頑張ってたのに捨てるんだ」
その言葉に顔を上げる。
百々は首を傾げて、ジッと私を見透かすように見つめていた。
「珍しくあんた、目標持ってたのにもったいないね。無難な生き方しかしてこなかったあんたが」
「無難な生き方って……」
百々の指摘通りであった。
なんの目的もなくただ大学行って、周りと同じように就職した。
就職活動にも軸なんてものはなくて、ただ内定が欲しくて手当り次第に受けていた。
周りがみんな事務職とか、そういうデスクワークを目指してたからなんとなくそうやってきた。
結局、事務職にはなれたものの自分のやりたいことかもわからずに目の前の業務をこなす。
それでも働くうちに目標は出来ていき、それを達成するために必死だった。
だけど潰れてからはもうノルマでしかなかった。
私の目標には誰の支えもなく孤独なものだった。
「おねーちゃんの言うとおりだね。私は何がしたくてずっと生きてたんだろ」
見たくもなかった優しさの欠片もない世界。
そこにあったのは、個人の利益にもならない目標なんてものは不要な場所。
お金と名誉という利益を追求するだけのまさに「ビジネスの世界」であった。
「夢や目標がある人ほどいなくなるのはどうしてなんだろう」
何人も潰れていなくなった。
他人事にその背を見ていたらいつの間にかそれは自分になっていた。
見ていたはずの背中がなくなって、後ろから見えない顔に突き落とされる。
頑張ってたはずの人が残れず、社会への虚しさばかりが募る。
目標よりも生き残りをかけて自分の立ち位置を誇示し、他人事になっていくんだ。
打ち砕かれた希望を拾うことも出来ずにいる私を見て、百々は目を細めていた。
「別に目標や夢が全てじゃないでしょ。大切なものは人それぞれよ。でもあんた、誰かのために頑張ってるようだからさ。力になりたいがあんたの原動力かと思ってた」
その言葉に顔を上げると、百々は口角をあげて満足そうにニヤリと笑っていた。
「動画、見たよ。あんたあんなすごいの作ったんだね」
「あ……」
「モデルの子の協力なかったら作れなかったね。ポスターのデータも見た。あんたは人を生かす力があるんだって、そう思ったよ」
いつもなら見られたことに腹を立てる場面なのに、何故だか泣きたい気持ちになった。
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