拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜
第7話-2「携帯電話2010」
昼休み、お昼を食べ終えたあと屋上で麻理子と奏でおしゃべりをしていた。
麻理子は腕を揺さぶって、じっと上目遣いで見つめてくる。
「ねーねー! 動画、どんな感じになったー?」
「ま、まだ出来てないよぉ! 夜にでもメールで送るから!」
頬を膨らませ、テンプレのように腕を結ぶ麻理子。
あざとくて、まるで攻略キャラクターのようだ。
いや、彼女はヒロインビジュアルなのだからきっとこの先、ドラマティックに恋愛をして綺麗になっていくのだろう。
美人エキストラのように見えて、彼女という人生の主役を歩んでいく。
未来ですれ違ってもきっとお互いに気づかないだろうが、それぞれの人生は必ずあった。
どうして一目で相手の人生や性格がわからないのだろう。
すれ違う人は同じ人間なのかわからないとき、その人生はどんな色をしているのか。
同じように私も背景の一部の存在かと思うと色褪せる。
高校生としてみんなで過ごすカラフルな時間が愛おしかった。
同時に麻理子にも奏にも、他のみんなにもカラフルを忘れないで欲しかった。
「ちゃんとかわいく編集してよねー!?」
「麻理子はかわいいから大丈夫だよ!」
「今度、奏も入ってよー!」
「えーっ!? じゃ、じゃあ後ろの方で盛り上げ役で……」
「いっそ当日のアナウンスでもやったら? 奏、声いいし歌うまいし」
それは新情報であった。
たしかに奏の声はアナウンサー向きの上品な声をしていた。
「ちょっ! そ、それはちょっと無茶ぶり……」
「奏に褒められるとまじで星の女王の気分になれるからよろ〜」
「……麻理子がそう言うなら、やるよ」
照れながらも頑張ろうとする奏。
ニマッとして奏に擦り寄る麻理子。
女の子ってかわいい。
存在が神だ。
「君たち仲いいねぇ!」
「「オッサンかよ!!」」
そのツッコミですら愛おしいほど、私の心は枯れていてオアシスを見ている気分であった。
放課後、私は星祭りで使う神社横の川に訪れていた。
風が吹き、草と土、臭い匂い、独特の匂いが鼻をくすぐった。
私は石を拾って、川を見据える。
「ここに小石投げるんだよね」
大きく足を上げ、腕をあげ、投げてみる。
よく見る弾ける小石のようには上手くいかず、一発で落ちて波紋を広げるだけであった。
川のせせらぎ音だけが残る。
「地味だなぁ。投げる人そんなにいないからただの数人で石投げの動画になっちゃう」
(とはいえ、大人数で投げるのは川の魚にご迷惑かけそうだし)
みんなでせーの、石投げ!  終わり!
究極のつまらなさである。
今までよくこれをお祭りにしてたなと正直呆れてしまうレベルである。
「困ったなぁ」
「とーきもりっ! こんなとこで何してるの?」
「ぴゃあっ!! く、黒咲くんっ!?」
もう、いつ心臓が爆破されてもおかしくない。
常に爆発三秒前状態のため、黒咲くんの気配なきアサシンぶりは恐ろしかった。
「そこまで驚かなくても……」
強烈な反応に黒咲くんは唖然。
リアクションに困って、口角の歪んだ笑いをしている。
といっても嫌な笑い方ではなく、面白がっていることは読み取れた。
私は慌てて軌道修正をし、高校生らしい愛らしさ満点スマイルを浮かべた。
お互い微笑みあって、黒咲くんは川の水辺へと目を向ける。
「で、何してたの?  石投げてたみたいだけど」
「あー、石投げをまずはやってみないと感覚がわかんなくて。やってみたけどあっさりしてるねー」
まさかポチャンで終了とは思わなかった。
これでは黄昏に小石を投げる少年である。
昔懐かしい小石を投げて夕日に叫ぶあの感覚がくるかと思ったが、ただただ地味で虚しかった。
「あー、そうかもな。 夜だと余計に石なんて見えないし」
もっと最悪だった。
もはや何をしているかわからない。
目的は願いを込めて投げることなのだろうが、これでは夢も希望もない。
そういえば投げたなで終わってしまう感動のなさ。記憶の片隅からも外れてしまうレベルだ。
黒咲くんもそれをわかってはいて、苦悩しているのが見て取れた。
あくまで黒咲くんは補助要因だったので、口出ししなかったのか、それとも聞いてもらえなかったのか。
良くも悪くも高校生ボランティアを集めるための看板でしかなかった。
「ライトアップも視界確保のためだしなぁ」
「ライトアップかぁ。 理想はプロジェクトマッピングみたいなのだけどそれはさすがに無理があるね」
「そうだなぁ」
川に星空のプロジェクトマッピングをして、そこに石を投げると光が波紋するとかなら映えるというのに。
プロジェクトマッピングは作成時間と費用、構成と様々な要因でハードルが高すぎた。
この貧乏集落にそこまで余裕はなかった。
だからこそ、今お金をかけずに出来る方法を模索しているというわけだが。
唸り考えていると、黒咲くんが目を大きくして瞬きを繰り返す。
夕日に照らされた長いまつ毛の憂いが美しく、釘付けになってしまう。
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