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拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜

星名 泉花

第5話-1「BREAK OUT!2010」

「いいなー! アタシも早く変えたーい!」


麻理子の友人、お団子頭にシュシュをつけた遠藤  かなでが羨ましがる。

過疎化に向かうこの田舎ではスマートフォンの普及はかなり遅かった。

ほんの少しの最先端が町では憧れの対象となっていた。

それはかつて渋谷のコギャルがカリスマだったかのように崇拝されていた。

私が進学で都会に出たときにはもうスマホになってる人が多かった。 

つまり田舎は今が変化するときである。

これから急速にガラケーからスマートフォンの所有率があがっていく。

すでに都会は進んでいて、時代は変わりだしているんだ。

私は時代の波にのろうと麻理子のもとへ駆け出していた。


「麻理子様にお頼み申すっ!」

「キャッ!?  と、時森さん!?」

「どうかそのスマホ様麻理子様のお力をお貸しください!!」

「きゃあああ!?」


クラスメイトとは言え、ほぼ関わりのなかった中間女子が体当たりしてくる。

それはキャピキャピしてかわいいクラス女子でさえ、ホラー映画を見た時のリアクションをとっていた。

社会人たるもの、苦手な相手にも営業スマイルは貼り付けるものだ。

なりふり構っていられない私は大の苦手なセールストークなるものをはじめた。

ようするに事情を説明しただけである。

話し終えると麻理子はニヤリと笑い、肉食女子の表情を浮かべた。


「ふーん、黒咲くん困ってるんだ」


あ、女王様が降臨した。

昔の勘が語りかけてきた。


「いいよ? 力貸してあげても」

「ありがとう女王じょおう様!」


また麻理子は悲鳴をあげる。

だが懐かれて邪険にするほど麻理子はあからさまないじめっ子ではなかった。

むしろ打算的、いわゆるあざとい女子であったようだ。


「女王様ぁ……」


当時は群がるカースト上位としか思ってなかったかなでが、私の暴走に苦笑いをしていた。







授業を受けたりと、しばらく時は流れ休み時間。

麻理子はスマートフォン片手に強調しながら私の席までかなでをつれてやってきた。


「で? 動画ってどんなもの撮るつもりよ?」


高圧的な態度に私は口を大きく開く。


(しまった、その辺考えてない)


肝心なところでポンコツを発揮していた。

考えなしに猪突猛進な性格はなかなか治らない。


「えーっと……」


ヘラヘラと笑いながらパッと思いつきの発言をする。

アタマに思い浮かんだのはショート動画でありそうな小石投げで何回跳ねるかチャレンジであった。


「なんかいい感じの曲にのって小石投げるとか?」

「意味わかんねぇ」

(ですよねー)


この時代にバズるとか、映えとか、そういった言葉はまだないはずだ。

注目を浴びることを美徳としていない。

学生は箱庭が世界であり、ネットで繋がるのも結果は顔見知りの枠であった。



「んー、でも編集次第ではリズミカルな映像になるんじゃない?」


未来を知らないはずの麻理子が未来の学生発想を口にする。

魅せることを常に考えている現役女子高生の柔軟さは素晴らしいものだ。

カーストトップの言葉は簡単に賛同を得てしまう。


「たしかにー! 麻理子まりこなら映像でも絶対かわいいし、みんな食いつくんじゃない?」

「えー? そうかなぁ?」


頬を染めて腰をくねくねする麻理子。

それをみて私は音と映像美が融合した幻想世界を想像した。


「そうよ、それ! 星の女神ってことでどうかな!? いや、星の女王!!」


麻理子の手を取り、私ははしゃぎ出す。

だがかなでが容赦なく私の手をたたき落とす。

まさに麻理子はアイドルなのだ。

カースト上位でしか近づけない鉄壁に守られた存在であった。



「あんたさっきから女王女王って何なわけ!?」

「いや、いいよ。なんか女王様じょおうさまって悪くない」


怒るかなでに対し、麻理子は冷静に腕を組む。

そして妖艶に、愉悦に浸っていた。


「姫より身分高いじゃん?」

(上から目線だぁ)


意外とやべぇ奴だったと思った。

さすがにそれは口にしないことにした。


「でも石投げる女王ってどうよ? なんかダサくない?」

「うん、意味わかんないわ」


しかしかわいいことに厳しいかな、麻理子は私のアイディアを容赦なく斬り捨てる。

麻理子の壁は高かった。

結局、アイディアはここまでしか出ず。


それでも確かな進み具合に高揚し、私はトリプルアクセルさえこなす感動に舞い上がっていた。


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