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拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜

星名 泉花

第3話-3「crossroad2010」

授業と授業のあいまの休み時間。

黒咲くんの友達の山村 拓司がしょんぼりとした顔をして近づいていく。

そういえば小さくて能天気な顔した騒がしい男子がいたなと思い出す。


「どうした?  拓司」

「由利、ごめん。今年の祭りは手伝いに行けんわ」


拓司は毎年祭りの手伝いに参加していた。

私たちが小学生の頃はもっとたくさんの人がボランティアにきていたが、今では昔からの住人と高校生ボランティアだけ。

その頼りの高校生ボランティアも参加人数は年々下降続きであった。


「母親が受験勉強に専念しろって」

「あー、そっか。 それは仕方ないよな」


拓司の背中を叩き、凛々しく口角をあげる。


「勉強、がんばれよ」


その言葉に拓司はバツが悪そうに泣き真似をしながらも、黒咲くんに励ましをもらっていた。

本当は断られて励まされたいのは黒咲くんではないだろうか、と思ってしまった。

人集めの苦労はよくわかる。

余計なことに関わりたくない人が多いからだ。

そして大人になるほど私たちはみんなで協力し合う無償の行為から遠ざかっていく。

儚く、切なく、ノスタルジックなものだった。




(そういえば黒咲くんって進学しないで家業継いだんだっけ?)

芽々めめってば見すぎ~」

「ええ?」

「さっさと告白しちゃいなよ。もうずっと片想いしてんじゃん」

「告白……はしないかな」

「えーっ!  なんでぇ!?」


笑って誤魔化す私に、里穂は納得せずにオーバーに腹を立てている。

告白をしたい気持ちはある。

だがいざやれと言われて中々出来ないあたり、私は生粋の臆病者だ。

どうせ私は来年の春、ここを去る。 

そうやって告白しないための言い訳ばかりを探していた。

高校生だろうが、アラサー女だろうが、根本の性格は変わらない。

大人になったら出来るようになるなんてものは幻想で、理想論に過ぎなかった。


(それに黒咲くんにはもっとお似合いな子が……)

黒咲くろさきくーん」


ロングポニーテールをし、ピンクのシュシュで飾りつけをした女の子が私の横を通過して黒咲くんへと向かっていく。

細くて長い足を惜しみなく出している。

パッチリ二重の大きなつり目。

美人寄りのアイドル顔をしたこの学校で一番かわいいと評判の女の子・北島 麻理子だ。

カースト上位の麻理子は自信満々にキャピキャピとしながら黒咲くんに話しかけていた。


「北島、どうした?」

「あのさぁ、クリスマスイヴって予定ある?」


麻理子の言葉にドキッとする。

クリスマスという単語は意識せざるを得ない。

黒咲くんがどういう答えを出すか気になってしまい、年甲斐もなく耳をすまして横目に見てしまった。

黒咲くんは困ったように目をぱちぱちとさせて口を開く。


「な、ないけど……」

「よかったー! ならさ、みんなでクリパしよって話しててー! 黒咲くんも来てほしーなって!」


(うわ、リア充やん。誰かとクリスマスなんて陽キャようきゃか)


麻理子は陽キャようきゃだった。

考えて自滅してしまう。

この頃は彼女のようなタイプをキャピ系と呼んでいた覚えがある。

後にこの学校独自のものと判明するが、陰キャいんきゃは闇系とグルーピングされていた。


「あー。 うん、じゃあ行こういこうかな」

「やった! あとで詳細メールするね!」


黒咲くんの返事にご機嫌な様子でかわいらしくガッツポーズをとり、顔を赤らめてガラケーを握りしめる。

そして胸の前で小さく手を振り、女子グループのところへ戻っていった。


「ほーら、うかうかしてるから女王様じょおうさまにとられちゃったじゃん」

(そういえば女王じょおう様って呼んでたわ) 


華やかな容姿にクラスの中心人物。

優しく見えて陰キャいんきゃを見下す黒い一面があったはずなので、勝手に女王様じょおうさまと命名していた。

そんな麻理子も卒業してしまえば、女王様じょおうさまの殻から出ていき1エキストラへと世の中に溶け込んでいく。

短大卒業して、県外出て結婚したと里穂が連絡をくれた覚えがあるが何年も前の話なので曖昧だ。

縁もない人間関係だが、地元の同級生の話題は稀に出てくるものだ。

そうやって過去編登場人物を酒のツマミにする。

過去に思いを馳せる行為に酔いしれるのだ。

田舎は結婚が早い。

都会に飛び出した私だけ奥手のままで、みんな高校を卒業したら派手に恋愛して、性の解放をしていた。

いまだ年齢=彼氏なしの私より高度なスキルを身につけていく年下たちになるわけだ。


「高校卒業したらみんな開放的になっちゃうもんなぁ。奥手とか嘘やん」

芽々めめ、独り言多くない?」


感傷に浸りたくもなる。

誰も好きにならなかったとはいえ、どうしようもない寂しさはある。

だが長年の拗らせと素直になる機会を逃したアラサー女には今さらどうしたらよいかわからなかった。

勢いだけでは生きていけないがんじがらめである。

だから里穂の突っ込みさえ流せるスキルくらいは身につけていた。

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