拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜
第3話-2「crossroad2010」
学生というものは走る生き物かもしれない。
走ってこそ青春あり。
懐かしいガラガラと音を立てる引き戸を開き、私はつい陸上選手のゴールの瞬間ポーズをとった。
(ギリギリセーフ!!)
学校近い、これ最高。
片道一時間以上かけて通勤する私、本当に頑張ってる。
えらい。通勤するだけでえらい。
通勤時間も定時内にしてくれと吐血して言いたかった。
「芽々、おはよー」
声をかけてきたのは、未来でも連絡をとっていた芝田  里穂。
焦げ茶髪の前長めのボブ頭。
真面目そうな形の良い縁どりの目で私を見ていた。
「里穂、わっっっかい!?」
私が若ければ周りも若くなる。
ここにいるのは若い高校生で理解を得られないが、いつか過去の自分を見てそう思う私の心情がわかる日がくる。
親戚のおばちゃん心理のようなものだ。
「何言ってんだ?」
「若いってええのぉ。なんかそれだけでいいわぁ」
「おじさんみたいなこと言わないでよ」
パパ活するおじさんが言いそうだと思って私は梅を食べたような酸っぱい顔をした。
この時期はまだ援交呼びのはず。
パパ活とはずいぶんとかわいらしい呼び方で、ハードルの低くなったものだ。
価値観が変わっているのがよくわかるものの一つだった。
「時森、おはよう」
「黒咲くん!!」
背後からひょっこり黒咲くんが現れる。
陽の光の中の黒咲くんは爽やかで、清く美しい。
ミステリアスな雰囲気はなく、清廉潔白は美男子であった。
「昨日、大丈夫だったか? その……怒られなかった?」
「あーはっはっ、大丈夫。うちその辺ユルいから!」
帰って何も言われなかったから少し笑った。
家族のゆるさはとてもありがたいものだった。
「そっか、ならよかった」
そこでチャイムが鳴る。
建物の中で聞く生チャイムにほんの少し高揚した。
「それだけ!  また!」
黒咲くんがヒラヒラと手を振り、自席に座る。
私も座ろうと思ったが、黙って聞いていた里穂が目を輝かせて遮ってきた。
「え、なになに? 昨日なにがあったの?」
「べ、別になんでもないよ! 早く座らなきゃ!!」
(うへぇ、里穂って人のことめっちゃ知りたがるタイプだったわぁ)
直視する里穂の性格が懐かしいようで変わってない。
こればかりは安堵した。
「………高校生、か」
変わるもの、変わらないもの。
 
こんなに明確なのにその時を生きる私たちにはそれが全くわからないんだ。
ここにいる人は未来を知らない。
見た目は高校生、中身はアラサー女の私だけが黒咲くんの結末を知っている。
「おはよー。えー、みんな体調は大丈夫かー?」
教師の橋場がオールバックの髪を撫でながら教室内全員を見渡す。
無反応の私たちに先生は決められた連絡事項を告げる。
「来月にはセンター試験もあるから体調管理には気をつけるように」
(センター試験、懐かしい響き。 今ってなんていうんだっけ、共通テスト?)
言葉の変化には本当についていけなくなる。
流行語大賞にノミネートされる言葉でさえ、知らないとなることも増えていった。
「そういえば年末年始、恒例のふたご町星祭りが行われるぞ」
学校があるのは地方の片隅にあるふたご町。
ふたごの昔話が由来だろうがよくわからない。
そんなふたご町では年末年始にお祭りが行われ、屋台やちょっとした伝統行事が行われ、プチイベントとなっていた。
「まー、毎年のことだけどボランティア募集してるからよろしくな。 詳しいことは先生たちか、黒咲に聞いてくれればいいから」
(黒咲くんに?)
妙にその言葉が引っかかった。
黒咲くんは立ち上がり、みんなにサービススマイルを振りまく。
アイドル級に眩しく、素晴らしかった。
「あー、みんな今年もよろしくな! なんでも聞いてくれ!」
(そっか、黒咲くんって地元の復興会会長さんがお父さんなんだっけ)
「……地元、か」
ふと私は感傷に浸る。
未来にいた私はもう何年も帰ってきてない。
だけどこれからどんな風に変わっていくかを知っている。
この町はどんどん人が過疎化していき、商店街は潰れ、やがて隣町の大型ショッピングモールに人は流れていく。
(星祭りって、いつまでやるんだったかな?)
今、盛り上がろうと準備をしている星祭りの結末も知る身としては切なく悲しいものだった。
走ってこそ青春あり。
懐かしいガラガラと音を立てる引き戸を開き、私はつい陸上選手のゴールの瞬間ポーズをとった。
(ギリギリセーフ!!)
学校近い、これ最高。
片道一時間以上かけて通勤する私、本当に頑張ってる。
えらい。通勤するだけでえらい。
通勤時間も定時内にしてくれと吐血して言いたかった。
「芽々、おはよー」
声をかけてきたのは、未来でも連絡をとっていた芝田  里穂。
焦げ茶髪の前長めのボブ頭。
真面目そうな形の良い縁どりの目で私を見ていた。
「里穂、わっっっかい!?」
私が若ければ周りも若くなる。
ここにいるのは若い高校生で理解を得られないが、いつか過去の自分を見てそう思う私の心情がわかる日がくる。
親戚のおばちゃん心理のようなものだ。
「何言ってんだ?」
「若いってええのぉ。なんかそれだけでいいわぁ」
「おじさんみたいなこと言わないでよ」
パパ活するおじさんが言いそうだと思って私は梅を食べたような酸っぱい顔をした。
この時期はまだ援交呼びのはず。
パパ活とはずいぶんとかわいらしい呼び方で、ハードルの低くなったものだ。
価値観が変わっているのがよくわかるものの一つだった。
「時森、おはよう」
「黒咲くん!!」
背後からひょっこり黒咲くんが現れる。
陽の光の中の黒咲くんは爽やかで、清く美しい。
ミステリアスな雰囲気はなく、清廉潔白は美男子であった。
「昨日、大丈夫だったか? その……怒られなかった?」
「あーはっはっ、大丈夫。うちその辺ユルいから!」
帰って何も言われなかったから少し笑った。
家族のゆるさはとてもありがたいものだった。
「そっか、ならよかった」
そこでチャイムが鳴る。
建物の中で聞く生チャイムにほんの少し高揚した。
「それだけ!  また!」
黒咲くんがヒラヒラと手を振り、自席に座る。
私も座ろうと思ったが、黙って聞いていた里穂が目を輝かせて遮ってきた。
「え、なになに? 昨日なにがあったの?」
「べ、別になんでもないよ! 早く座らなきゃ!!」
(うへぇ、里穂って人のことめっちゃ知りたがるタイプだったわぁ)
直視する里穂の性格が懐かしいようで変わってない。
こればかりは安堵した。
「………高校生、か」
変わるもの、変わらないもの。
 
こんなに明確なのにその時を生きる私たちにはそれが全くわからないんだ。
ここにいる人は未来を知らない。
見た目は高校生、中身はアラサー女の私だけが黒咲くんの結末を知っている。
「おはよー。えー、みんな体調は大丈夫かー?」
教師の橋場がオールバックの髪を撫でながら教室内全員を見渡す。
無反応の私たちに先生は決められた連絡事項を告げる。
「来月にはセンター試験もあるから体調管理には気をつけるように」
(センター試験、懐かしい響き。 今ってなんていうんだっけ、共通テスト?)
言葉の変化には本当についていけなくなる。
流行語大賞にノミネートされる言葉でさえ、知らないとなることも増えていった。
「そういえば年末年始、恒例のふたご町星祭りが行われるぞ」
学校があるのは地方の片隅にあるふたご町。
ふたごの昔話が由来だろうがよくわからない。
そんなふたご町では年末年始にお祭りが行われ、屋台やちょっとした伝統行事が行われ、プチイベントとなっていた。
「まー、毎年のことだけどボランティア募集してるからよろしくな。 詳しいことは先生たちか、黒咲に聞いてくれればいいから」
(黒咲くんに?)
妙にその言葉が引っかかった。
黒咲くんは立ち上がり、みんなにサービススマイルを振りまく。
アイドル級に眩しく、素晴らしかった。
「あー、みんな今年もよろしくな! なんでも聞いてくれ!」
(そっか、黒咲くんって地元の復興会会長さんがお父さんなんだっけ)
「……地元、か」
ふと私は感傷に浸る。
未来にいた私はもう何年も帰ってきてない。
だけどこれからどんな風に変わっていくかを知っている。
この町はどんどん人が過疎化していき、商店街は潰れ、やがて隣町の大型ショッピングモールに人は流れていく。
(星祭りって、いつまでやるんだったかな?)
今、盛り上がろうと準備をしている星祭りの結末も知る身としては切なく悲しいものだった。
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