閉じる

拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜

星名 泉花

第2話-2「流星2010」

(こんな穏やかな気持ちは久しぶり。ずっとピリピリしてたから)

 何年も社会人やっておきながら、私はなんの価値も見出せなかった。

電話に出ては謝って、上司に相談してはため息をつかれ、周りの女性に助けを求めれば睨まれ拒絶。 


忙しい。

自分でやれ。

なんでそれくらい出来ないの?

迷惑かけてるのわからないかなぁ。

空気読めよ。

そこまでしがみつかなくても若いんだから。

本当に幸せなの? 

社員ではやってけないよね。

田舎あるんでしょ?

実家頼ったら?

帰ればいいじゃん?

生きていく力のない奴の価値ってなに?

生きてて幸せ?





「ふ、ふはっ……!」


(無価値だって……他人にまで言われたらどうしたらいいかわからないよ)


頭の中にぐちゃぐちゃしたノイズが走る。

たくさんの声が再生されて、年代もバラバラで冷静な思考を奪おうとしてくる。


ずっと何か得体の知れない黒いものに追われている気分になる。



「時森? 大丈夫?」 



黒咲くんの優しいテノール声で我に返る。


背中に冷たい汗が流れていた。



「うん、大丈夫」



ヘラっと笑い、頬をポリポリとかいた。



「ありがとね。黒咲くんに会えてよかった」

「なんか、いつもと違うな」


「え?」

「ちょっと……か、かわいい、かも……?」



言われ慣れない単語に喉から心臓が飛び出た気がした。


いや、矢で射られたと例えた方が良いだろうか。


枯れに枯れた私にはほんのちょっとの甘い言葉と態度でさえ、吐血物だった。



(か、かわ、かわ、かわいい!!!?)



そんな単語、言われなくなってXX年だ。


いや、案外思春期ゆえのかわいいがこそばゆい現象なのかもしれない。


リアル男子高校生にしか出せないピュアな囁きは、全国アラサー喪女の会(仮)でリピート再生待ったナシである。


今度は心の中で鼻息を荒くし、デロデロになる私がいた。



(何せ私は年齢=彼氏なしのアラサー)


だが心の私はワタワタと慌て出す。


(そもそもこの言い方は死語? ダメだ、若者言葉がわからない)



頼むから私をおばちゃんと呼ばないで。 


高校生とはそれだけで破壊力があるのだから優しい目で見てほしい。


と、拗らせたアラサー女は血を流し続けていた。



「ね、ところでさ、ポケットの中に何入れてるの?」

「ポケット?」


制服のスカートのポケットをあさる。

セーラーの形にかわいいリボンのついたやや古風なデザインの制服。


ブレザーに憧れたこともあったけど、これはこれで尊い。


制服を着れるのは現役か夢の中だけだった。

「拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く