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拗らせファーストラブ〜アラサー女は死んだ初恋相手を助けるためにタイムリープする〜

星名 泉花

第1話-3「First Love 2022」

降りた先は低い屋根の並ぶ住宅街で、少し歩けば山に繋がる郊外の未開発地域。

都会と自然の狭間にある人の少ない集落だった。

全く考えなしに来てしまったが、歩いてたどり着いた辺りを一望できる丘。

特別な夜だからか、なんだかんだで人がいる。

さすがに黒パンプスの女ひとりはいなかったが、意外と無心で丘を登れるものだと驚いてしまった。


(体力ないくせにこういう時だけは歩ける謎)


空を見ると星が輝いており、チラチラと流れ星が見えていた。


(みんな流星群見に来てるんだなー。でもやっぱり女一人で見に来てるのはちょっと恥ずかしいかも)


男性一人か、または大学生くらいの集団しかいない。

ポツンと立っているスーツジャケットを羽織った3センチヒールの独身女は私だけだ。

これが女の孤独というもの。

慣れたものだ。

未来予想図は結婚して子ども二人、ローンで家を買って仲睦まじく……なんていう昭和の好景気みたいだったはず。

好景気を知ることのなかった世代の私にはそれこそおとぎ話で、美味しい味かを問いたくなるものだった。


(穴場でもないかなー?)


あたたかさを求めたはずが冷えていく。

トホホと私は腰を曲げて草を踏み、その場から離れた。


「あ、こっちは人いない」


もう少し高いところへと登り、人目を避けるように歩いていくと小さな穴場スポットを発見する。

柵のない少し足場の悪い場所だが、そこから見えたものは世界を一変させるものだった。

下には住宅の明かり、上には星空、夜に駆けるは見飽きることのない光の競走。


(こんな満天の星空、こっち来て見るのはじめてだなぁ)


スマートフォンを点滅させると、時間は見頃を迎えたことを表示していた。


「見に来てよかった」


これは酔いしれたくなる光景だ。

誰にも縛られない、溶け込みそうになる幻想的なものだった。


「黒咲くんも、見たかっただろうな」


大人が子どもに言う亡くなった人の例え。

黒咲くんも星になったんだ。

もう、いない。

実感なんてないくせに、死を想うと涙が溢れた。

ボヤけた視界をそのままに私は流星群を見る。

小さい光がどんどん大きくなって、輪郭がはっきりと見えるようになっていった。


「わ、すごい! こんな近くに見えるものなんだ……」


だが夢から覚めるのも早いのが現実。

身に迫る危険にロマンティックなことを考えられるほど、思春期な脳は残っていなかった。


「……えっ?      ちか……」


真っ白な閃光が私を飲み込んだ。




「な、なんだったの?」


瞼を閉じても眩しかったそれが消えたのを感じると、ゆっくりと目を開く。

そこは流星群の空は同じでも、柵があり下に見える光景は全く異なるものだった。

それでも知っているセピア色になっていた記憶の景色。


「え、ここって……」

「時森?」

「えっ!?」

 
急に背後から呼ばれて心臓が跳ねる。

声を聞いただけで、まるで全身から涙が溢れそうな熱い情が込み上げる。

私は髪を乱す勢いで振り返った。



カーディガンを羽織り、ネクタイをゆるめた制服姿。


まだあどけなさの残る端正な顔に、やや長めの前髪をした夜に溶ける男の子がそこにいた。


「なんで時森がここにいるの?」


振り返るとそこには黒咲くんがいた。

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