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CrazyDoll-クレイジードール

360回転

サーストン家の日常

6「サーストン家の日常」

16月23日じゅうろくがつにじゅうさんにち

20時41分

シルバニア国北東部ほくとうぶ

フィナーレ・ルチアふぃなーれるちあ

サーストン宅

鶴子達と別れたサンデイは自身の家に帰宅していたサンデイの住む家は木製の建物で、サンデイが学園に通いたいかよいたいとお願いをした時に、父トーマスが知り合いから安く譲り受けた場所である
サーストン家は基本的に様々な国を転々としていた為、今まで自分達の持ち家と言うものを所持していなかった
宿を借りて暮らすのにもお金はかかるのだが、家を管理、維持するのにもお金はかかる
どうせすぐ離れるのだからと、宿を借りて暮らす生活を送っていたトーマス達だったが
学園に6年も通うかようとなれば話は別である
6年間同じ国で過ごすなら、安い家を買った方がなにかと便利だ
ミドルスクールとハイスクールの6年を終えて、更に上の教育機関を目指す可能性も考慮して、貯金を崩し、家を購入した
サーストン家は周りの人形達に比べて、経済的に劣ると言うことはない
どちらかと言えば、裕福な家庭だと言っても良いいいだろう
サンデイは父が家を買った理由を、子供ながらに、しっかりと把握していた
しかし、そのことが今現在のサンデイを苦しめている
自身のお願いから始まった学園生活を、今更辞めたいなどと言えるはずがない
今やめてしまったら、せっかく家を用意し、お願いを聞いてくれた父を裏切ることになる
そんなことは、サンデイには出来なかった
だからこそ、今、学園生活で地獄を見ているのだ
サンデイは自室に貰った聖本を置くと、台所に向かう
台所にはメイドのアンブレラが居た
アンブレラは腰元まで伸びた綺麗な白髪はくはつが特徴的な女性型ドールで、紫色の瞳をしている
サンデイより身長は大きく、年齢的にはトーマスと近いらしいが、詳しい数字は教えてくれない、謎のメイドであった
服装は紺色のワンピースに、白のエプロンだ
アンブレラはサンデイを認識すると、やわらかい表情をしながら彼に声をかける
「あら、お帰りなさい、今日は帰りが遅かったですね」
「うん、ちょっと友達とラクドガルドに行ってて」パリーン!
サンデイの台詞を聞いたアンブレラは、皿を落として、驚愕の表情を浮かべる
「ついに、お友達が出来たのですか?…」
「大袈裟、前から居るよ」
サンデイの強がりを聞いて、アンブレラは落とした皿を気にすることもなく、彼に詰め寄る
「そうなんですか?なんで今まで黙ってたんですか!」
「黙ってたって言うか、もう小人形しょうにんぎょうでもないんだし、わざわざ言わないよ」
「言ってくれないと困りますよ、私ずっと貴方あなたこと心配していたんですから」
アンブレラの表情は真剣そのもので、今にも泣き出しそうであった
「ごめん、今度からは言うようにするよ」
サンデイの謝罪を聞いて、アンブレラは自身の目の下にあった雫を払うと、彼のことを力強く抱きしめた
「ちゃんと言ってくださいね、サンデイと私は家族なんですから」
「うん、ごめん…」
「悩みがあったらちゃんと相談するんですよ?」
「……」
「分かりました?」
「うん、相談するから」
サンデイは言いながら、アンブレラを自身から引き剥がす
「そんなことより、割れたお皿…」
サンデイの指摘にアンブレラは
「すっかり忘れていました」と言い、皿を片付け始めた

21時05分

アンブレラとサンデイは食事をしていた
今日のメニューはカモノメの丸焼きであった
カモノメはシルバニア国を飛んでいる、飛行生物で、昔から人形達に人気の食べ物である
サンデイは皿の上に乗ったカモノメを、ナイフで一口ひとくちサイズに切り分けていく
カモノメをフォークで突き刺しつきさしてから、ホワイトソースに絡めて頂くと、口の中に甘辛いソースの味が広がった
カモノメのコリっとした食感がサンデイを癒しの世界へと連れて行く
彼はアンブレラの作る料理だけが毎日の楽しみであった
美味しそうに食べるサンデイを見て、アンブレラは言う
「お友達とは、どんな人形なのですか?」
「異国の人形だよ、京灯きょうてい出身なんだって」
「あらあら、京灯きょうていですか、あそこは治安が良いいい国でしたね」
「うん、マンジ餅、美味しかったな〜」
「サンデイは食べ物のことばかりですね」
京灯きょうていの食べ物は美味しいものが多かったから」
京灯きょうていでの暮らしを思い出し、頬を緩めるサンデイに、アンブレラはフォークでカモノメを突き刺しながら言った
「そうですね、ただ京灯きょうていは治安か良いいい国でしたから、シルバニアではカモにされる恐れがありますね、このカモちゃんみたいに」
サンデイは食欲の減退を感じながら、アンブレラの台詞に、耳を傾けていた
アンブレラは純粋な笑顔で発言した
「お友達が襲われそうになっていたら、サンデイが守ってあげてくださいね?」
「う、うん、その時は頑張ってみるよ」
サンデイがいじめられていることを知らないアンブレラに彼は苦笑いをしながら強がって見せた
ガチャリ
仕事を終えたトーマスが家に入ってきた
トーマスはサンデイと同じ白髪はくはつの男性型ドールだが、中性的な見た目のサンデイとは違い、男のなかの、男、と言うような見た目をしていた
身長はサンデイより遥かに大きく、トレーニングしているのか、体に力強さがある
瞳の色はサンデイと同じ緑色で、優しそうな目つきをしている
「あら、お帰りなさい」
アンブレラがトーマスに言うと、トーマスも返事をした
「ただいま」
突然の父の登場に、サンデイは戸惑いながら言った「お父様、お帰りなさい」
彼の言葉を聞いて、トーマスはサンデイの頭を撫でながら言った
「ただいま、元気にしてるか?」
「うん、お父様も元気だった?」
「ああ、仕事はいつも通りどおり大変だけど、サンデイが元気にしてるって思うと頑張れるよ」
トーマスが笑顔で言うと、アンブレラが嬉しそうに報告する
「サンデイに友達が出来たんですってよ!」
すると、トーマスは大袈裟なリアクションをしながら言った
「本当か?それはめでたいな!今日はお祝いでもするか!」
良いいいですね!私ケーキ買って来ますね!」
アンブレラはそう言うと、ケーキを買いに外へと出て行った
トーマスはアンブレラの座っていた席に座ると、一口ひとくちサイズに切られていたカモノメの丸焼きを口に運ぶ
「やっぱりアンブレラの作る料理は美味いな」
トーマスの言葉に、サンデイも同意の言葉を返す
「うん、僕はアンブレラの作る料理だけが生きがいだよ」
「大袈裟だな、それで学園生活はどうなんだ?上手く行ってるか?」
トーマスの質問に、サンデイは嘘をつくことなく答える
「一応、テストは毎回100点だよ」
「ほお〜そりゃ凄いな、流石俺の息子だ」
トーマスはそう言うと、再びサンデイの頭を撫でるしばらく無言で食事をしていると、アンブレラが戻って来て言った
「すみません、この時間にケーキ売ってるお店はなかったです」
アンブレラの真剣な顔に、サンデイとトーマスは笑顔をこぼした

22時39分

サンデイは自室のベットで考えごとをしていた
何故学園に通ってかよっているのか、何故世界は弱肉強食なのか、何故いじめや負の感情が存在しているのか、何故自分は生きているのか
意味のない思考だけがぐるぐると頭の中で回っている
このモードに入ると、悪いことばかりが頭を支配してしまう
好きなことや、お世話になってる人形のことに、頭をシフトしようとしても、簡単にはできない
トーマスやアンブレラの期待が重たい
家族の見ている自分と、自分の見ている自分には大きな乖離がある
味方は居るが、理解者は存在しない、そんな状況にサンデイは押し潰されそうになる
孤独感に苛まれるサンデイの目が、机に置かれていた聖本を捉える
鶴子が言っていたことを少しだけ、胡散臭いと感じていたサンデイだったが「100考は1文にしかずひゃくこうはイチブンにしかず」と言う名言を思い出し、読んでみることにした

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