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CrazyDoll-クレイジードール

360回転

放課後ティータイム

5「放課後ティータイム」

16月23日じゅうろくがつにじゅうさんにち

18時29分

シルバニア国北東部ほくとうぶ
フィナーレ・ルチアふぃなーれるちあ
ラクドガルド

放課後、サンデイの胸は高鳴っていた
学園に通ってかよって3年目、こんなにも胸が踊る放課後と言うのを、サンデイは体感したことがなかった
今まで生きてきた12年間、彼は同年代の友達と言うものが出来たことは、一度もない
それが今はどうだろうか?今朝不良達に命令されたことをきっかけにして、サンデイは今学園生活の絶頂と言って良いいい程の、高みにまで登り詰めていた
授業を終えたサンデイは、カシムの机に録音機を置いてから、先程鶴子に誘われていた"ラクドガルド"と言うみせに足を運んでいた
ラクドガルドは、シルバニアでは有名なお店で、美味しい紅茶やお菓子を安価に楽しめる、学生達の憩いの場であった
木製の店内はオシャレな照明にライトアップされており、壁には様々な写真や、絵画、有名なドールが来店したことを自慢するサイン色紙しきし、などが飾られていて、雑然としている
店内に入ったサンデイは鶴子の姿を探す
店の隅にある木製の丸テーブルに、彼女が腰掛けているのを見つけると、近くに歩み寄り声をかけた
「すみません、遅くなりました」
サンデイの姿を確認した鶴子は笑顔で返事をする
「大丈夫ですよ、私達も今来た所なので」
「私達?」
サンデイが首を傾げかしげながら、テーブルを見ると鶴子の反対側には二人の生徒が腰掛けていた
一人は短い金髪の男性型ドールで、四角い眼鏡をかけている
端正な顔立ちをしている彼の瞳は青色で、一部の女子からは人気者であった
彼は見た目の良さが逆効果となり、女子生徒じょしせいとからは声がかけにくい存在として扱われている
その為、彼自身にモテていると言う自覚は皆無だ
名前はアンソニー・ボルコフアンソニーぼるこふ
アンソニーはサンデイに向かって言った
「僕はアンソニー、よろしくね」
彼の挨拶にサンデイは会釈を返した
すると、アンソニーの横に座っていた女性型ドールが、サンデイに声をかける
「突っ立ってないで、座れば?」
緑色の髪をしていて、青い吊り目で、無愛想な彼女は、クラシカ・シュルマンクラシカしゅるまん、不機嫌そうに見られることが非常に多い女性型ドールだ普段、特に怒っている訳ではないのだが、周りは表情や態度から彼女のことを怖がり、あまり積極的に関わろうとしない
その為、クラスでも友達は居ない
友達が居ない彼女は、昼休みに、自身の机にぬいぐるみを置いてから食事を行う
ぬいぐるみに話しかけながら、食事を楽しむ彼女の姿を見た、他の生徒達は、彼女への恐怖心を更に強めた
休日に遊ぶ相手も居ない彼女は、部屋で一人ぬいぐるみを作っては、街に売り込みに行くと言う、変わった生活を送っている
クラシカに促されたサンデイは鶴子の隣の席に腰掛ける
アンソニーは微笑みながら、紙で出来たメニュー表をサンデイに渡した
サンデイはメニューを見てから、赤虫茶あかむしちゃとクッキーを注文することに決める
近くを通った店員さんを呼び止めてから、サンデイは注文内容を伝えた
店員は笑顔で注文を聞き、厨房のなかに入って行く
鶴子はサンデイに向かって尋ねた
「サンデイ君は、ここの店に来るのは初めてですか?」
「何度か来た事ありますよ、ここの赤虫茶あかむしちゃはとても美味しいです」
「赤虫ですか…確か、赤レンガ虫のエキスが入っているんでしたっけ?」
「そうです、健康に良いいいんですよ」
サンデイの台詞に、引き攣ったひきつった表情をした鶴子の横で、クラシカが言う
「よくそんなん飲めるな…私には無理…」
クラシカが飲んでいるのはブルークリーン茶と言う、青く透き通ったお茶であった
ブルークリーン茶を見てサンデイはお茶の解説を始める
「ブルークリーンだって、似たようなものですよ、ブルークリーンは名前こそクリーンですけど、元は青虫の排泄物から抽出を行っています」
サンデイの言葉を聞いて、クラシカは「え?マジ?…」と慌ててテーブルの上にカップを置いた
「サンデイ君詳しいんだね」
「昔本で読んだんだ、世界の飲み物100種って本だよ」
「へー面白そうおもしろそうだね、今度僕も図書館で探してみるよ」
盛り上がる男達の横で、クラシカが悲しそうに呟く
「て言うか、クリーンってなによ…詐欺商品じゃない…」
「世の中知らない方が良いいいこともあるよね」
鶴子はそう言うと、自身の注文した、ブラックリーンと言う飲み物を一口ひとくち飲む
サンデイは鶴子の飲み物を見て、口を開きかけるが、鶴子はサンデイに喋らせないようにと、話題を変える
「サンデイ君は、年齢はいくつですか?」
鶴子の問いかけに、サンデイは答えた
「今年で12と13になります、三人はいくつですか?」
「私は13と14なので、サンデイ君の一つうえですね」
鶴子が言うと、クラシカも言った
「私は鶴子と一緒」
クラシカに続いて、アンソニーが言う
「僕はサンデイ君と同い年だよ、クラスは違うけどね」
各々が年齢を伝えると、店員が赤虫茶あかむしちゃとクッキーを持ってやって来る
「お待たせいたしました、熱いのでお気をつけてお召し上がりください」
店員はサンデイにそう告げると、注文の品を置いて、店の奥に戻っていく
サンデイは赤虫茶あかむしちゃを飲み、一息つくと、自身でもよく分からない感情に襲われて、涙が込み上げそうになるのを感じる
彼は変な奴だと思われない為に、一度席から離れて、心を落ち着けると、何事もなかったかのように席に戻った

19時24分

しばらく雑談を楽しんでいた4人だったが、ここからが本題とばかりに、鶴子は真剣な表情をして、サンデイに尋ねた
「サンデイ君、貴方あなたなにか悩んでることがあるんじゃないかしら?」
「え?悩みごとですか…」
先程まで夢見心地だったサンデイは、急に現実に引き戻されたような気持ちになり、下を向く
そんな彼の姿を見て、悩みがあることを確信した鶴子は、自信に溢れた顔をしながら言った
「ええ、私には分かるんですよ、眼を見れば大抵のことは」
「眼ですか…それじゃあ僕がなにを悩んでいるのか、当ててみてください」
サンデイの言葉を聞いて、鶴子は緑色に輝くガラス製の瞳を見つめる
サンデイも鶴子の能力が本物なのかと、己の眼を逸らすことなく鶴子の黒い瞳を見ていた
貴方あなたには陰と陽インとヨウ二つの側面がありますね…気分が落ち込むこともあれば、そうじゃない時もある、貴方あなたは素晴らしい人形びとであるはずなのに、それを周囲も、貴方あなた自身もまだ気づいていないのではありませんか?」
鶴子は母親から叩き込まれたバルムと言う話術を使っていた
バルムとは、基本的に誰にでも当てはまるようなことを、あたかも自分だけに当てはまっていると錯覚させる話術だ
抽象的で曖昧なことを言っているだけなのに、言われた本人は、相手のことを良き理解者だと錯覚してしまう
陰と陽インとヨウ…僕自身も気づいてない僕…」
言われた言葉を吟味しているサンデイに、鶴子はまたしても誰にでも当てはまりそうなことを言った
「はい、あ、すみません、悩みでしたね、貴方あなたは今、人形関係に悩んでいませんか?」
鶴子の問いかけに、サンデイは、驚いた表情をしながら言葉を絞り出す
「なんで分かったんですか…?」
「眼を見たら分かるんです、もちろん分からないこともありますが、サンデイ君の瞳は綺麗で純粋ですね」
曖昧で甘い、そんな言葉がサンデイの心を掴む
「純粋だなんて、そんな…僕は確かに人形関係で悩んでいます、ただどうしたら良いいいのか、その答えがなかなか出せなくて…」
下を向きながら言うサンデイに、鶴子は分厚い本を差し出す
サンデイは本を受け取ると、訝しみいぶかしみながら言った
「この本はなんですか?」
「これは幻想教の、有難いお言葉が書かれた聖本です」
「幻想教?、聞いたことない宗派ですね」
「はい、まだあまり有名ではないのですが、これを読むと幸せになれると、私の住んでた京灯きょうてい国では噂になっていますよ、サンデイ君の悩みがどんなものなのかは分かりませんが、きっとこの本が力になってくれると思います」
鶴子の言葉に、先程から無言だったクラシカが口を挟む
「私とアンソニーは、鶴子から貰った、この本に感動して、この本を広める為に集まっているの」
「そうだったんですね」
サンデイが言うと、アンソニーは笑顔で言った
「そうさ、この本にはそれだけの価値があるんだ、サンデイ君の悩みだって、きっと解決できるはずさ」
サンデイは少しだけ怪しさを感じていたが、三人の真剣な表情を見て、考えを改める
「ありがとうございます、家に帰ったら読んでみますね」サンデイが、そう口にすると、鶴子は嬉しそうに微笑んだ


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