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CrazyDoll-クレイジードール

360回転

彼の住む世界


3「彼の住む世界」

シルバニア国
そこは人形達の住まう大きな国
広大な面積は世界ランキング3位と位置付けられていて、貴重な資源が豊富なこの国は経済的、政治的にも他国を圧倒していた 
経済の強さはそのまま科学技術や軍事力の強さにも繋がる
国を強くするには個々の力を上げなければいけない過去の歴史から学んだこの国は、様々な政策を行い、他国とは違う独自のカリキュラムを組んで、国力を高めていた

16がつ23日

7時05分

シルバニア国北東部ほくとうぶ
フィナーレ・ルチアふぃなーれるちあ

晴れた郊外に、ボロボロになった革靴を履き
石畳の道をトボトボと歩く、男性型ドールの姿があった
彼の名前はサンデイ
サラサラとした白髪はくはつが特徴的な、美しい顔立ちをした人形人にんぎょうびとで、アスチルーべ学園に通う学生だ
アスチルーベ学園には学生服と言うものが存在しない、故に生徒達は好きな服装を好きなように着ていた
サンデイは学校に通うことが決まった時に、父から襟付きの白いシャツを買ってもらって、それを着て学園に通っていたかよっていた
サンデイの着ている服は、襟が四角形になっており、肩から伸びたそれは胸元が隠れるぐらいの大きなサイズで、喉元には黒いリボンが結ばれており、リボンの中央には黄色いラインが伸びている
黒のコルセットにも同じように黄色の縦ラインが伸びており、お腹の部分は茶色の紐で縛られていた
グリーンのかぼちゃパンツとベレー帽は、サンデイの瞳と同じカラーリングで、ベレー帽の黒いリボンは歩く度に揺れている
「何故…人形人にんぎょうびとは学業に励むのか…」
照りつける太陽に不快感を覚えながら誰にともなく呟く
人形は何故学ぶのか、人形は何故生きているのか、我々何処へ向かって進んでいるのか、壮大なことを思考しながら、サンデイは通学路を進んでいる
哲学的な問いに対して、答えが出ることはない
それも当然だ、人形人にんぎょうびとがこの世に生まれ落ちた時の事を、現代に生きる人形人にんぎょうびとは知ることが出来ない
科学の発展によって、いくつかの仮説を立てる事は出来たが、何故生まれる必要があったのか、何の目的で人形人にんぎょうびとや動物やこの世界が生まれたのか、その理由を知る者は居ない
今まで沢山の人形達がこの事について考えてきたにも関わらず、今だに明確な答えが示されていないのである
この世に生を受けてからまだ13年しか経っていない、サンデイの頭では答えに辿り着く事が出来ないのは至極当然であった
彼は何故、そんな途方もない事を思考しながら、通学路を歩いているのか
答えは単純で、そうでもしなければ頭がおかしくなってしまいそうな程に、彼は疲弊していた
壮大な人形人にんぎょうびと全体の課題に目を向ける事、それは自身の置かれている状況から目を背ける為の自己防衛手段
自身の置かれている状況に目を向ける事、それは自身の惨めさを真っ向から受け入れると言うこと
そんな事が出来る余裕を、今のサンデイは持ち合わせていなかった
現実を受け入れるより、自分の力では及びもしない広く果てしない世界共通きょうつーの課題に、向き合っているホウが、自身の悩みがちっぽけに思えて、安心できると言うものだ
彼は現実逃避していることを頭の片隅では理解しつつ、吐き気が込み上げてくるのを我慢しながら、通学路を進んでいく
下を向きながら歩いていたサンデイは、足元に転がっていた空き缶を見つけると、それを拾い上げて近くの屑籠に放ったほおった
「全く…世界を汚すなよ…」
誰にともなく毒づいて、彼は学園へとあゆみを進めた

9時00分

シルバニア国北東部ほくとうぶ
フィナーレ・ルチアふぃなーれるちあ
アスチルーベ学園

アスチルーベ学園、そこは、シルバニア国、フィナーレ・ルチアふぃなーれるちあに建てられた、大きな学舎まなびや
レンガで出来た建物は歴史を感じさせるような貫禄があり、全体生徒数は今現在1400を超えていた
中等教育と高等教育が受けられる、エスカレーター式の学園で、生徒達は特に理由がない限り、6年間この学舎まなびやで過ごす事になる
エスカレーター式と言う名前だけを聞くと、スムーズに進級してそうな、イメージを抱いていだいてしまうが、世の中そんなに甘くはない
ミドルスクールからハイスクールに進級する際には、今までの成績と、現在の実力を調査されて、実力不足と判断された者には、留年の道が用意されている
アスチルーベ学園は教育方針に「自由と責任」と言う二つの文字を掲げており「基本的には自由を与えるが責任は自身が持つように」と言うスタンスで教育を行っていた
しかし、国のルールによって戦闘訓練の授業が追加されてからは、そのスタンスを変更している
生徒が銃火器を持つようになったことで、様々な問題が生じ、それに対処するには生徒達を支配し、管理する、強い先生が必要不可欠になったからである
先生の支配が強くなることで、学園の生徒達の自由は尊重されなくなってしまうのだが、銃火器の影響力と言うのは、そうまでしないと制御できないと、学園側は判断していた
教壇の前に立つ金髪の教師、カイン・ローランかいんローランが生徒達に話しかける
「おはよう、休みは満喫出来たか?それじゃあ今日も元気に始めろ、番号!」
カインの言葉に生徒達は自身の学生番号と名前を大きな声で叫び始める
「学生番号0806ケニー・シンプソン」
「学生番号0807アソギ・キャプラ」
「学生番号0808ケイト・カーペンター」
「学生番号0809スーナイン・エマーソン」
「学生番号0810サンデイ・サーストン」
「学生番号0811セブンリー・フォード」
これは毎朝行われる"名乗り上げ"と言う行為で、これによって先生達は生徒の出欠を確認していた
「学生番号0812ファイブレット・フューリー」
「学生番号0813アナザー・ハリス」
アナザーの名乗り上げを聞いて、先生が大声で言った「声が小さいぞ!」
「学生番号0813!アナザーハリス!」
大声で言い直したアナザーに続いて、他の生徒達も声を張り上げる
42名の生徒が名乗り終えると、先生は頷きながら生徒達に語りかけた
「よし、今日も欠席者は0だな、1時間目はシルバニア語の授業だ、しっかりと勉学に励むように」
カイン先生は朝の出欠確認を終えて、すぐに教室から出て行く
カイン先生と入れ違いに教室に入って来た、シルバニア語の先生、アーノルド・ケロッグあーのるどけろっぐが授業の開始を告げた

9時34分

「このようにして、シルバニア語は様々な国で使われるようになり、今では他国も積極的にシルバニア語習得に励んでいます」
アーノルド先生による、シルバニア語の授業は、シルバニア語がどのように生まれて、何処で使われているのかと言う、歴史的な背景を説明する授業であった
「みんなも正しいシルバニア語を学ぶことで他国とのコミュニケーションを円滑に進められるようになるでしょう、自分の国の言葉は自然に使えている人形がほとんどだとは思いますが、他の国の人と同じ立場で学ぶことで、普段無意識に使ってる言語の意味をしっかりと理解し、相手の伝えたい意味合いを正確に把握出来るようになると思います」
生徒達は無言で先生の言葉に耳を傾けていた
真面目な授業の最中さなか、一人のドールがサンデイの机の上に白い紙屑を放ったほおった
サンデイは机の上に投げられた、クシャクシャの紙屑を広げ、なかを確認する
紙屑には「なんで生きてるんですか?死んだら?」と、サンデイの存在を否定するような文が書かれていた
サンデイは受け取った紙屑を机の中に丸めて入れる周りの生徒数名スウメイが、サンデイのリアクションを伺い、下卑た笑みを浮かべている
サンデイは感情が溢れそうになるのを我慢しながら、授業を聞いているフリを続ける
先生はひたすらに喋り続けているが、サンデイの頭に内容は入って来ない
何故こんな状況になっているのかと自身の頭で考えようとするが、思考はまとまらず、何を考えようとしていたのかさえ分からなくなっていく
彼は生命を頂いてからの10年間、様々な国を転々としていた
彼の父であるトーマス・サーストントーマスサーストンはとてもグローバルな人材で、様々な国の言語が話せる人形人にんぎょうびとであった
その為、文化の異なる者同士を繋ぐ、繋ぎ人つなぎびと、の仕事をして生活を送っている
ある時は京灯きょうてい国、ある時はベリリン王国、またある時はロンドベルト国、新しい土地に行く度に新しい刺激があり、サンデイはそんな生活を楽しいものだと認識していた
彼は幼少期から国の教育機関などは利用せず、専属の教師に様々な知識を叩き込まれて育った
その為、教育機関で学びを得ている同年代の人形達とは少しだけ毛色の違う知識を蓄えている
その事で将来困らないようにと、一般的な価値観、教養はメイドのアンブレラ・ミナージュあんぶれらミナージュが、教えていた
そんな生活が続いたある日、サンデイは父親に、あるお願いをした
「お父様、学校に行ってみたいです!」
サンデイの言葉を聞いたトーマスは最初難しい表情を浮かべていたが、サンデイの熱意を感じ取り「10歳からは学園で勉学に励みなさい」と、彼の意見を尊重した
しかし、それが地獄の日々の始まりであった
学園に入った事で、彼の見えていた世界はガラリと色を変える
入学初日、サンデイが入ったCクラスでは親睦を深める為に自己紹介が行われた
Cクラスの子達は自己紹介に慣れているのか無難に自己紹介をこなしていたが、サンデイだけはそうではなかった
彼は周囲に同い年の子達が、大勢集まると言う状況に萎縮していた
そんな彼を生徒達は暖かい目で見守っていたが、彼が名前を告げると周囲の空気が変わった
サンデイは「なにかやってしまっただろうか?」と、少しだけ考えを巡らせたが、思い当たる事が全く浮かばなかった
困惑した彼の耳に生徒達の嘲笑の声が届く
「サンデイ…サンデイですってよ」
「あらあら、まぁまぁ、サンデイですか」
「サンデイ…うわ…」
サンデイは何故自分の名前が笑われているのか分からず、困惑するばかりであった
それからサンデイは、クラスメイトからいじめられる事になる
先輩達に呼び出されてサンドバッグにされる日もあれば、机に「バカなのに100点ひゃくてん」とか「PVC症候群」とか「3カードのザコ」などと書かれたりする日もあった
突然水を浴びせられ、その事で職員室に向かうと教師からは「汚い、ちゃんと汚した床は掃除しろよ」と叱られ
クラスの子に話しかけると無視をされ、大事にしていた革靴も「革靴は川で履く靴だ」と難癖を付けられた挙句、川に投げられた
学校に、彼の安らげる場所はなく、そんな日々が続いて2年
ようやく3年目に突入したサンデイの瞳に、入学当初のキラキラとした輝きはない
現在もいじめは続いていて、サンデイはそんな日々に限界を感じ始めていた

12時25分

昼休み、それは安らぎの時間、仕事や勉学や運動に励んだ者達が、己のエネルギーを蓄える為に、食べて飲んでお喋りをしてと、楽しく健やかに過ごせる癒しの時間、ある者は昼寝をし、またある者は読書、そしてある者はカードゲームに興じる
そんなハッピーな時間帯に、サンデイは、数名のドールに呼び出しを受けていた
呼び出しと言っても、一緒に飯を食べようだとか、一緒に昼寝をしようだとか、運動をして汗水を流そうなどの、平和なお誘いではない
サンデイは呼び出された倉庫に向かって歩みあゆみを進める
本来なら嫌な誘いなど断ってしまえば済む話ではあるのだが、サンデイは断ることが出来ない
何故断れないのかと言えば、それはメイドのアンブレラから貰った、大事なお守り、"ペリエストーン"を奪われてしまったからであった
ペリエストーンはアンブレラの住んでいた国、ベリリン王国では、神の石として崇められ、古くから大事な儀式に使われたり、お守りとして国民が持ち歩いたりしていた
サンデイはペリエストーンをとても大切にしている為、返して欲しいとお願いをしたのだが、彼らは聞き入れてくれず、サンデイに無茶な注文をするようになった
今日はどんなことをやらされるのかと、不安を感じながら倉庫の扉を開き、なかに入る
倉庫の中には学園の備品が沢山置かれており、先生や生徒達がたまに備品を持って行くが、お昼にこの場所に人形が来ることは少なく、Cクラスの不良4人組は、ここでたむろしていることが多かった
備品を熱で駄目にしないようにと、室内の窓には太陽光たいようこうを跳ね返す特殊な加工が施されており、お昼でも電気をつけないと、部屋は薄暗い
教室のなかには4名の男性型ドールが居て、入って来たサンデイに冷やかな視線を送っている
身長が高い金髪の男性ドール、カシム・モルガンが大声で言った
「おせーよ!!早く閉めろや!」
カシムは髪で左眼が隠れている、根暗な男性型ドールで、右眼は赤色をしていた
サンデイは急いで扉を閉めると彼らに向かって懇願する
「そろそろ良いいいでしょ、僕のペリエストーン返してよ」
サンデイの言葉に、茶髪チャパツの小太りドール、セブンリー・フォードせぶんりーふぉーどが言った
「おい、なんでお前が俺達に命令してんだよ!」
同じく茶髪チャパツの長身ドール、バナイン・エイブラムズばないんエイブラムズもサンデイに罵声を浴びせる
「それな!ザコは身の程を弁えろよ!」
バナインはサンデイの襟首を掴むと彼を床に叩きつけた
床に転がったサンデイのお腹にセブンリーが蹴りを入れる
サンデイは蹴られたお腹に手を当てながら、苦しげに咳を漏らす
そんな彼を見てカシムが笑いながら言った
「大丈夫だって、そのうち返してやるさ、俺は約束を破るようなドールじゃないぜ」
バナインがサンデイの髪を掴み上げて、耳元で囁いた
「そうそう、ちゃんと返すさ…お前が良いいい子にしてれば、そのうちな」
バナインが掴んでいた髪を離すと、サンデイは床に思いっきり倒れた
「それで今日はなにをやらせますか?」
セブンリーの問いかけに、カシムが考える仕草をしてから言った
「その辺に居る女に告白でもさせるか」
「うわ〜それきつ〜」
バナインのリアクションを見て、カシムは命令した
「セブンリー、告白の台詞を考えろ」
無茶振りぶりをされたセブンリーは「ずっと前から好きでした、とか?」と王道スタイルの告白を提案する
「うわ、それベタすぎ〜、でもサンデイ君にはお似合いかも?」
楽しそうに言ったバナインの横で、先程から無言を貫いてるドールに向かって、カシムは問いかける
「ジョセフはどう思うよ?」
ジョセフと呼ばれた男は不良達の中で1番身体からだが大きく、頭はツルツルのスキンヘッドであった眼光の鋭い青色の瞳は、12歳とは思えない程の凄みがある
カシムの問いにジョセフが重い口を開く
「俺は一途いちずな感じがして好きだな」
ジョセフの言葉を聞いて、カシムは言った
「決まりだ、サンデイ今から適当な女に告白して来い、この録音機に音声をしっかり残すようにな」
カシムは床に録音機を投げると、倉庫から出て行った
「ちゃんとやれよな!ずっと前から好きでした〜ってな」
「ウケるわ〜、本当に付き合うことになったりしてな?」
「そんときは、俺らも楽しませてもらおうぜ」
「そりゃ良いいい、頑張ってくれよ〜サンデイ君」
バナインとセブンリーも可笑しそうに喋りながら倉庫から出て行く
ジョセフは倒れているサンデイを少しだけ見つめていたが、何も言うことはなく、倉庫から出て行った


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