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CrazyDoll-クレイジードール

360回転

アリスの島

2「アリスの島」

12時44分

アリス島アリストウ

港に着いた船から、沢山の人形びとが降りて行く
整理番号順に並んだ人形達は不審な点を、検査員によって、細かくこまかくチェックされていた
荷物チェックと身体チェックを終えた鶴子は、検査員の指示に従い、怪しげな建物の中に案内された
暗い通路をしばらく進むと、大きな空間に辿り着く頭上には煌びやかきらびやかなシャンデリアがいくつかあり、床には赤色の絨毯が敷かれている
高級感が漂う室内の奥には、大きな階段があり、階段の頂上には貴族が座っていそうな金色の椅子が置かれていた
綺麗に統一された空間の中央には、場違いな鉄の機械が設置されており、鳥籠のような形をしたその機械は、ディスティニー装置と、呼ばれていた
検査員に促されて、機械の中に立たされた鶴子は、何が始まるのかと、不安にかられている
検査員がカタカタと機械を操作すると、鶴子の足元が白く発光し始める
「しばらく、そのままお待ちください」
検査員の指示に従い、大人しく待っていると
大きな階段から、二人のドールがゆっくりと降りて来た
綺麗に伸びた金髪に、水色に輝くガラス製の瞳
小柄こがらな体をぴょんぴょんと跳ねさせながら、一歩一歩階段を降りる姿は、天使と見紛う程に愛らしく、そして美しい
スカートと上着が一体型になった服は水色と白で構成されており、服の各所についた白いフリルが優雅に踊っている
貴方あなたね!アスチルーベ学園に入学予定の生徒は!」
鶴子を指差しながら、元気よく言った彼女は、この島の管理者にして、教育機関"アスチルーベ学園"に通う学生だ
彼女の家はシルバニアではとても有名な家柄で、アリス・マッカラーズと言う自身の名前を出せば、大抵のことはまかり通ってしまう、言わばお国の権力者であった
アリスの登場に、鶴子はきょとんとしていたが、アリスは構わずに話を続ける
貴方あなたの入国審査はこの私が直々に行っておこなってあげるわ、感謝して泣き喚きなさい!ナキワメキナサイ
アリスの言葉を聞いて、隣に居た白髪はくはつの女性型ドールが喋り始めた
「なにが感謝して泣き喚きなさい、ですか!、誰もアリス様に来て欲しいなどと思ってはいませんよ?正直に言ったらどうですか?勉学をサボる口実を作る為に来ました、と」
白髪はくはつのドールは、小柄こがらなアリスとは対照的で、身長が大きく、大人びた雰囲気をしている
赤いガラス製の瞳は鋭く、目付きが悪いせいで街なかで不良に絡まれることが非常に多い
名前は、アナベル・フィリップスあなべるふぃりっぷす
いつもアリスの面倒を見ている、雇われのメイドであった
服装は紺色のワンピースに白いエプロンのシンプルなメイド服だ
アナベルの言葉に、アリスは、悪戯がバレた子供のように言い訳を並べ始める
「ちょっと、違うわよ!私には学園に編入して来るのが、どんな奴なのか、しっかりと見定めないといけない義務があるのよ!、変な奴をこの国に招き入れる事は出来ないわ」
「変なのはアリス様ご自身では?、資料を見る限り、この者に不審な点はありません」
「資料では伝わらない事もありますわ…アナベル、貴方あなたに書類選考で判断を下される、人形びとの気持ちが分かりますの?」
真剣な表情をしながら言うアリスに、メイドのアナベルは呆れたように返事をした
「なんですかその、苦労人形の苦悩みたいな話は…それに彼ら彼女らだってアリス様だけには、そんな事言われたくないでしょう、それに身長制限でアトラクションを堪能出来ない事を、書類選考と呼ぶのは、流石に無理がありますよ」
「書類だけで判断されてるのは一緒でしょ?とにかく、私は書類だけで判断を下すような傲慢な事はいたしませんわ」
「………」
もう何も言うまいと、アナベルはアリスを呆れたような目で見つめていた
そんな視線に気づく事なく、アリスは本題に入る
貴方あなたの資料は頂いているわ、編入するのに申し分ない成績に、素行不良なども一切なし、本当なら私が直接出向いて確認する必要性もないのだけど……貴方あなたからは何かが匂いますわ…」
アリスの言葉に鶴子は、吐瀉物を自身の服にぶちまけていた事を思い出し、動揺していた
乗組員に貰った布巾で、しっかりと拭き取りはしたのだが、鶴子の服には、まだ、臭いにおいが残っている
鶴子の動揺を感じ取った、アナベルが鋭い目付きをしながら問いかける
貴方あなた、もしかして私達に、なにか隠してる事がありますか?」
「隠し事ですか?…」
目が泳いでいる鶴子を見て、アナベルはアリスに耳打ちをした
「アリス様、当たりかもしれません、この者は我が国を揺るがす為に送られてきた、スパイの可能性があります」
アナベルの考えを聞いて、アリスは少しだけ引きつった表情をしながら耳打ちを返す
「まぁ落ち着きなさい、それを見極める為に私がわざわざやって来たのですから」
ヒソヒソと話をする二人を見て、鶴子の不安は加速していく
これは完全に吐瀉物の臭いにおいについて、話し合っているなと、鶴子の頭は吐瀉物の事でいっぱいになっていた
ふいに、先程乗組員が口にしていた台詞が頭の中で再生される
「表面的に、どんな善人、どんな悪人でも、ディスティニー装置に体を通せば全ての事は暴かれてしまう」
全ての事は暴かれてしまう…
つまり現在彼女が吐瀉物の臭いにおいを撒き散らしていると言うことも、いずれは暴かれてしまう…
「いくつか質問して良いいいかしら?」
アリスの問いかけに、鶴子は無言で頷く
貴方あなたは何を目的にシルバニアに入国しようとしていますの?」
鶴子の本来の目的は世界征服であったが、吐瀉物のことで頭がいっぱいだった彼女は、目的の方にまで頭が回らず、来ることになった理由を話し始める
「父が仕事でシルバニアに行くことになったので、私も後を追って来ました」
「なるほど、シルバニアは貴方あなたが住んでいた、京灯きょうてい国より、治安が悪いことは承知しているのですか?」
「はい、承知しています、学校でも戦闘の訓練があるのですよね?」
「理解していて来たのですね、それでは最後の質問です、私達に何か隠していることがありますか?」
先程アナベルがした質問を再度、アリスが尋ねる
鶴子は少しの間無言だったが、やがて諦めたように白状した
「すみません、私…、船の中で吐瀉物を服にぶちまけてしまいました…こんな大事な時に、こんな匂いを漂わせてしまい、本当に申し訳ないです…」
鶴子の台詞にアリスとアナベルは顔を見合わせる
アナベルはおかしそうに笑ってから、鶴子に言った
「吐瀉物…それで挙動不審だったのですね」
「すみません…」
謝る鶴子を見て、アナベルがアリスに向かって言った
「アリス様、この者は確かに臭いにおいますが、心の中は潔白でしょう、ディスティニーの数値も彼女のことを肯定しています」
「それもそうね、ディスティニーが認めてるのだから、悪い人形人にんぎょうびとじゃないでしょう」
アリスは鶴子の入国申請書にハンコを押すと
「それでは学園で会いましょう」と別れを告げて去っていった
この時の判断が、のちのシルバニアに、大きな影響を及ぼすと言うことを、アリスとアナベルは、想像していなかった

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