CrazyDoll-クレイジードール
世界征服の一歩
クレイジードール
1「世界征服の一歩」
11時12分
平漁海域
ゆらゆらと、一隻の船が大海を進んでいる
白い船舶のボディーには黒く荒々しい文字で、"優磨"と言う文字が書かれていた
船の中には沢山の人形人がおり、各々が好き勝手に船旅を満喫している
優雅に過ごす人形達とは裏腹に、ふらふらになりながら船内を歩く女性の姿があった
彼女の名前は大和鶴子、京灯国に生まれ京灯国で育った、13歳の女性型ドールだ普段は美しい顔立ちをしていて、異性からもてはやされる彼女だが、現在の姿は酷い有様だった
先程までベッドで横になっていた事で、髪の毛は乱れ、ガラス製の黒い瞳が、忙しなく動き回っている、半開きになった口からは小さく嗚咽が漏れており、いつもなら、ほんのり朱色に染まっている頬も今は青色に変色していた
「何処だっけ…」
彼女が広い船内の中を歩き回ってから、既に30分の時が経過していた
目的の場所を探して、辺りをうろうろとしていた彼女だが、未だに目当ての場所は見つからない
30分もあれば、余裕で船内を周回する事も出来るし、目的の場所は船内に複数設置されている為、普通の人形人なら簡単に見つけられるはずなのだが、彼女は見つける事が出来ない
何故そのような不思議現象が起きているのか
答えは簡単である、彼女は周りの人形人が引くぐらいの、方向音痴ドールなのである
それに加えて、今現在は正常な判断をする余裕すらも、彼女は失っていた
「お客様、どうかしましたか?」
挙動不審な彼女に乗組員の男性ドールが声をかける乗組員の問いかけに、鶴子は自身の胸元に手を当ててから、気分が優れない事を伝える
乗組員は鶴子の状態を瞬時に察して、彼女を個室へと案内した
この世の終わりみたいな顔をしながら、個室のドアに手をかける
ガチャガチャ
「え、嘘?…」
鶴子は絶望感に苛まれる
個室には既に先客がおり、鶴子の体は限界を迎えようとしていた
船内を汚す訳にはいかないと、外の甲板まで走った彼女は、ハンドレールに捕まり、海を見つめる
口元まで込み上げてきたモノをギリギリの所で飲み戻すと、甘酸っぱい匂いが口の中に広がった
自身が生物である事を再認識した鶴子は、綺麗な海を汚す事と、お世話になってる船を汚す事を天秤にかけた挙句、自身の着ていた勝負服に向かって、吐瀉物をぶちまける事を選択した
「やってしまいました……」
鶴子が着ていた服は、京灯で有名なフラワーと言う衣装で、服の袖がとても長く、ゆらゆら踊る袖が特徴的な服装であった
クリーム色をベースにした花柄の上着は、胸元でクロスされており、鮮やかな赤色をしたスカートは腰元の大きな帯で縛られている
真っ直ぐに伸びたスカートの裾は、膝の位置まであり、健康的な素足は靴下を履く事もなく、下駄を履いていた
勝負服を汚し、床に尻餅をつきながら項垂れる鶴子の元に、先程の乗組員が駆け寄ってくる
「お客様、大丈夫ですか?」
懐から布巾を取り出した乗組員は、彼女にそれを差し出した
布を受け取ってから、吐瀉物を拭き取ると鶴子は乗組員にお礼を伝える
「ありがとうございます、助かりました」
「いえ、仕事ですから、気分が優れないようでしたら、お部屋まで付き添いましょうか?」
「そうですね…ではお願いします」
ふらふらと立ち上がった鶴子の手を取り、乗組員の男は船内の中を進んで行く
「お客様、お部屋の番号は?」
「315号室です、あの、アリス島って、あと、どのくらいで着くのでしょうか?」
「アリス島への到着時刻は12時40分頃になります」
「あと少しで着くのですね…」
「はい、入国審査がありますので、それまでに体調を整えて頂けると幸いです」
男の言葉に、鶴子は気になっていた事を尋ねた
「入国審査って具体的にはなにをチェックされるのでしょうか?」
「うーん、そうですね、国から発行された身分証明書は当たり前として、持ち物検査と身体検査がありますね、入国審査ではじかれた場合は、元々居た国へ強制的に送られる事になります」
「持ち物検査と身体検査と言う事は、変なモノさえ持っていなければ大丈夫って事でしょうか?」
「そこまで単純なものでもありませんよ、デスティニー装置の事はご存知ですか?」
聞き慣れない単語に鶴子は首を傾げる
「ディズデニー?」
「どうやら知らないようですね、この国ではディスティニーの教えに逆らう事は出来ません、表面的に、どんな善人、どんな悪人であっても、ディスティニー装置に体を通せば全ての事は暴かれてしまう」
「シルバニアの科学技術は凄いと聞いていましたが、まさかそのような機械があるなんて…」
「シルバニアの発展はこの装置があったからと言っても過言ではありません、詳しい話をすると長くなってしまうので、もし興味がありましたら船内に読書コーナーがございますので、そちらで調べてみてください」
話の区切りがついたタイミングで二人は315号室の前に着いた
「ありがとうございました、少しだけここで待っていてください」
鶴子はそう言うと、部屋の中から分厚い本を一冊持って来て、男に差し出した
「この本は?」
男の質問に鶴子は得意げな顔をしながら答える
「ここまで付き添って頂いたので、お礼に差し上げます」
「ありがとうございます、どう言った内容の本なんですか?」
「これは幻想教の有難いお言葉が書かれた聖本です、読むと幸せになれると、京灯では噂になっているんですよ」
「げんそうきょう?聞いた事ありませんね」
「まだ知名度はありませんが、これは素晴らしい本なのです!」
語気を強めた彼女を微笑ましく思ったのか、乗組員の男は笑顔で答えた
「なるほど、分かりました、今度時間がある時に読んでみますね」
「はい、これで貴方も、幸せになる事間違いなしです!」
自信満々に断言する鶴子に、軽く頭を下げてから、男は仕事へと戻っていった
部屋に備え付けてあるベッドに腰掛けてから、鶴子は呟く
「シルバニアの民…まずは一人目、幻想教の教えをしっかりと伝える事が出来ました…」
壁に向かって、祈るようなポーズをしながら、鶴子は一人語りを続ける
「人形人にとっては小さな一歩かもしれませんが、幻想教にとってこれは、とても大きな一歩です、我々が世界を征服する日は近いかもしれません」
そこまで言って、ベッドから立ち上がり、彼女は再び個室探しの旅へと向かっていくのだった
1「世界征服の一歩」
11時12分
平漁海域
ゆらゆらと、一隻の船が大海を進んでいる
白い船舶のボディーには黒く荒々しい文字で、"優磨"と言う文字が書かれていた
船の中には沢山の人形人がおり、各々が好き勝手に船旅を満喫している
優雅に過ごす人形達とは裏腹に、ふらふらになりながら船内を歩く女性の姿があった
彼女の名前は大和鶴子、京灯国に生まれ京灯国で育った、13歳の女性型ドールだ普段は美しい顔立ちをしていて、異性からもてはやされる彼女だが、現在の姿は酷い有様だった
先程までベッドで横になっていた事で、髪の毛は乱れ、ガラス製の黒い瞳が、忙しなく動き回っている、半開きになった口からは小さく嗚咽が漏れており、いつもなら、ほんのり朱色に染まっている頬も今は青色に変色していた
「何処だっけ…」
彼女が広い船内の中を歩き回ってから、既に30分の時が経過していた
目的の場所を探して、辺りをうろうろとしていた彼女だが、未だに目当ての場所は見つからない
30分もあれば、余裕で船内を周回する事も出来るし、目的の場所は船内に複数設置されている為、普通の人形人なら簡単に見つけられるはずなのだが、彼女は見つける事が出来ない
何故そのような不思議現象が起きているのか
答えは簡単である、彼女は周りの人形人が引くぐらいの、方向音痴ドールなのである
それに加えて、今現在は正常な判断をする余裕すらも、彼女は失っていた
「お客様、どうかしましたか?」
挙動不審な彼女に乗組員の男性ドールが声をかける乗組員の問いかけに、鶴子は自身の胸元に手を当ててから、気分が優れない事を伝える
乗組員は鶴子の状態を瞬時に察して、彼女を個室へと案内した
この世の終わりみたいな顔をしながら、個室のドアに手をかける
ガチャガチャ
「え、嘘?…」
鶴子は絶望感に苛まれる
個室には既に先客がおり、鶴子の体は限界を迎えようとしていた
船内を汚す訳にはいかないと、外の甲板まで走った彼女は、ハンドレールに捕まり、海を見つめる
口元まで込み上げてきたモノをギリギリの所で飲み戻すと、甘酸っぱい匂いが口の中に広がった
自身が生物である事を再認識した鶴子は、綺麗な海を汚す事と、お世話になってる船を汚す事を天秤にかけた挙句、自身の着ていた勝負服に向かって、吐瀉物をぶちまける事を選択した
「やってしまいました……」
鶴子が着ていた服は、京灯で有名なフラワーと言う衣装で、服の袖がとても長く、ゆらゆら踊る袖が特徴的な服装であった
クリーム色をベースにした花柄の上着は、胸元でクロスされており、鮮やかな赤色をしたスカートは腰元の大きな帯で縛られている
真っ直ぐに伸びたスカートの裾は、膝の位置まであり、健康的な素足は靴下を履く事もなく、下駄を履いていた
勝負服を汚し、床に尻餅をつきながら項垂れる鶴子の元に、先程の乗組員が駆け寄ってくる
「お客様、大丈夫ですか?」
懐から布巾を取り出した乗組員は、彼女にそれを差し出した
布を受け取ってから、吐瀉物を拭き取ると鶴子は乗組員にお礼を伝える
「ありがとうございます、助かりました」
「いえ、仕事ですから、気分が優れないようでしたら、お部屋まで付き添いましょうか?」
「そうですね…ではお願いします」
ふらふらと立ち上がった鶴子の手を取り、乗組員の男は船内の中を進んで行く
「お客様、お部屋の番号は?」
「315号室です、あの、アリス島って、あと、どのくらいで着くのでしょうか?」
「アリス島への到着時刻は12時40分頃になります」
「あと少しで着くのですね…」
「はい、入国審査がありますので、それまでに体調を整えて頂けると幸いです」
男の言葉に、鶴子は気になっていた事を尋ねた
「入国審査って具体的にはなにをチェックされるのでしょうか?」
「うーん、そうですね、国から発行された身分証明書は当たり前として、持ち物検査と身体検査がありますね、入国審査ではじかれた場合は、元々居た国へ強制的に送られる事になります」
「持ち物検査と身体検査と言う事は、変なモノさえ持っていなければ大丈夫って事でしょうか?」
「そこまで単純なものでもありませんよ、デスティニー装置の事はご存知ですか?」
聞き慣れない単語に鶴子は首を傾げる
「ディズデニー?」
「どうやら知らないようですね、この国ではディスティニーの教えに逆らう事は出来ません、表面的に、どんな善人、どんな悪人であっても、ディスティニー装置に体を通せば全ての事は暴かれてしまう」
「シルバニアの科学技術は凄いと聞いていましたが、まさかそのような機械があるなんて…」
「シルバニアの発展はこの装置があったからと言っても過言ではありません、詳しい話をすると長くなってしまうので、もし興味がありましたら船内に読書コーナーがございますので、そちらで調べてみてください」
話の区切りがついたタイミングで二人は315号室の前に着いた
「ありがとうございました、少しだけここで待っていてください」
鶴子はそう言うと、部屋の中から分厚い本を一冊持って来て、男に差し出した
「この本は?」
男の質問に鶴子は得意げな顔をしながら答える
「ここまで付き添って頂いたので、お礼に差し上げます」
「ありがとうございます、どう言った内容の本なんですか?」
「これは幻想教の有難いお言葉が書かれた聖本です、読むと幸せになれると、京灯では噂になっているんですよ」
「げんそうきょう?聞いた事ありませんね」
「まだ知名度はありませんが、これは素晴らしい本なのです!」
語気を強めた彼女を微笑ましく思ったのか、乗組員の男は笑顔で答えた
「なるほど、分かりました、今度時間がある時に読んでみますね」
「はい、これで貴方も、幸せになる事間違いなしです!」
自信満々に断言する鶴子に、軽く頭を下げてから、男は仕事へと戻っていった
部屋に備え付けてあるベッドに腰掛けてから、鶴子は呟く
「シルバニアの民…まずは一人目、幻想教の教えをしっかりと伝える事が出来ました…」
壁に向かって、祈るようなポーズをしながら、鶴子は一人語りを続ける
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