負けず嫌いでツヨツヨな人魚姫は、絶対に隣国の王女なんかに王子さまを渡さない!
四話 真実の暴露
その夜、城で舞踏会が開催された。
リオニーの父王より、婚約発表の場を設けてはどうかと話が来たからだ。
ヴィンセントは、将来的にリオニーと結婚する気はないので必要ないと蹴ったが、体裁を気にした父がこれまた引き受けてしまったのだ。
命の恩人を邪険に扱うなど、王族としてあってはならないと言うが。
ヴィンセントは最近、リオニーが本当に命の恩人なのか疑い始めている。
きっかけはノアだ。
どうしてノアは俺に会いに来たのか?
どこでノアと俺は知り合ったのか?
なぜ俺はノアの声を知っているのか?
そしてそれを聞いて心が震えた理由を考えれば、おのずと答えは見えてきた。
しかし今日は父の手前、仕方なくリオニーを婚約者としてエスコートする。
父には婚約発表の場で、約束したのは婚約までであって、そこから先は本人たちの気持ちを優先すると告げてもらうことになっている。
そこは絶対に線引きをしたい部分だ。
普段リオニーは修道院から出られない決まりだが、今日だけは本人の婚約発表の場であることから、舞踏会参加の許しが出た。
万が一、ここで騒動を起こせばどうなるかくらい、本人も分かっているはずだ。
分かっているよな?
傲慢なリオニーの態度を思い出し、ヴィンセントの脳裏に不安がよぎる。
今夜が終われば、もうリオニーとの会談をしなくていいと父の言質を取った。
つまり俺がリオニーに会うのは、これが最後だ。
ヴィンセントは気を引き締めて、この舞踏会を乗り切ろうとしていた。
◇◆◇
ノアは舞踏会の会場の隅で、侍女たちにたくさんのスイーツを持ってきてもらって大喜びだった。
ヴィンセントからは、この舞踏会を最後にリオニーとはもう会わないと聞いていた。
だから心置きなく舞踏会を楽しんでいたのだ。
『もしリオニーが不服に思って何か仕掛けてきたら、私が反撃してやるわ! 準備はしっかり侍女さんたちにしてもらったんだから! これだけの大勢の前で恥をかきたいのなら、遠慮なくかかってくるのね!』
すっかりお気に入りになった苺のムースをパクつきながら、国王陛下の発表を聞く。
ちゃんと「本人たちの希望がない限り、婚姻にはいたらない」と説明があった。
命の恩人であることを盾に、婚約を無理強いしてきたのはリオニー側だ。
ヴィンセントが飲める要求にも限度がある。
双方の性格の不一致により婚約を解消する形でヴィンセントは収めようとしてる。
そのためにも、出来れば体裁を気にする国王陛下には海難事故の真実を知ってもらいたいのだが。
ノアはヴィンセントにもまだ本当にあったことを伝えることが出来なかった。
もし伝えたら、今度はノアと婚約するの?
それは命の恩人だから?
リオニーと同じ理由で?
そんなの嫌だとノアの心が思ってしまったのだ。
ヴィンセントのことが大好きだ。
初めは金髪がキレイだと思ったから。
次は紫色の瞳が美しいと思ったから。
だけどだんだん、外見じゃないとこが好きになっていった。
脚を痛がるノアを、どこに行くにも抱いて運んでくれるとこも。
いっぱい練習して真っ黒になったノートを見て、褒めてくれるとこも。
優しくて温かくて、心がホッとする人。
ヴィンセントにとって、私はそんな人になれているだろうか。
ノアは、恋に恋をしているだけではなく、全身全霊でヴィンセントを愛したいと思った。
そのためならなんだってする!
決意も新たに、苺のムースのおかわりをするのだった。
◇◆◇
リオニーは仕込みがうまく行ったことにご機嫌だった。
こうした舞踏会に出るのは久しぶりで、気分も高揚していた。
したたかに酔っ払い、さてそろそろ引導を渡そうと、ヴィンセントを呼びつける。
「舞踏会なのですから、もちろん私と踊ってくれますよね?」
「気乗りはしないが、仕方がない。一曲だけだ」
リオニーとヴィンセントのダンスが始まる。
リオニーはダンスには自信があった。
これで数々の男を落としたものだ。
今夜も、背の高い男性からはバッチリ胸元が見える特注のドレスを着ている。
それにこのドレスはターンを決めるたびにふくらはぎがチラリと見えて、とても煽情的なのだ。
私たちのダンスを見る観客にも、お似合いの二人だと思ってもらわなくてはならない。
華やかに、美しく、愛し合っているかのように。
決して脚の悪い人魚には出来ないことでしょう?
リオニーは周囲を恍惚とさせるダンスを披露する。
終わったときには拍手喝采だった。
満足げにしているリオニーを放って、ヴィンセントはすぐにノアを迎えにいった。
そしてなんとノアを抱きかかえたまま、ダンスホールの中央で踊り始めたのだ。
さきほどのダンスを圧倒する印象と驚き、なによりヴィンセントが楽しそうだ。
ノアもきゃあきゃあ言っているのか、口がパクパクしている。
お互いしか見えていないように何曲も踊る二人に、ヒソヒソと貴族たちが話し始める。
「やはり、リオニー王女殿下との婚約は強要されたものなのでは?」
「あまりいい噂のない方ですからな……我が国に輿入れされてもねえ」
「ヴィンセント王子殿下も、とんだ外れくじを引いたものですよ」
「ちなみに今、踊ってある相手はどのような方なのです?」
リオニーの顔がどす黒く憤怒に染まる。
カッカッとヒールを鳴らし、踊る二人に突進していった。
「ちょっと! わきまえなさい! あなたの命を救ったのは誰だと思っているの! 私がいなければこの国は王子を一人失っていたのよ! それなのに、どいつもこいつも!」
王女らしさをかなぐり捨てて、ヒステリックに叫ぶリオニー。
驚いてヴィンセントにしがみついたノアの姿が、さらに油に火を注いだ。
「離れなさい! 下賤な人魚のくせに!」
『人魚が下賤!? 頭に来た! 侍女の皆さ~ん! 出番ですよ!!』
ノアが侍女の皆さんに手旗信号のような合図を送る。
ヴィンセントは何も知らされておらず、これからノアが何を始めるのか興味津々だ。
国王陛下も騒ぎを聞きつけやってきた。
侍女の皆さんは、紙芝居のように紙の束をそれぞれ両手に持ち、一列に並んだ。
『今から始まるのはあなたの断罪よ! 命の恩人ぶっていられるのも、今日までなんだから!』
ノアは侍女の一人に3本指を立てて見せる。
するとサッと侍女は3枚目の紙を見えるように掲げる。
そこに書かれていた文字は――。
「ヴィンセントをタすけタノは、りおにーではない」
ヴィンセントの文字だけ、練習回数が桁違いなので達筆だが、それ以外の文字はたどたどしく、だが読めないほどでもない。
これがノアの用意したリオニー対策だった。
声が出せない代わりに、ヴィンセントに教えてもらった文字で対抗する。
その場でスラスラ書くことができないノアは、あらかじめ告発に必要な文字を集め、書き溜めた。
そして侍女の皆さんの協力を得て、何度も練習したのだ。
どの侍女さんがどの文面をもっているのか、ノアはしっかり頭に叩き込んできた。
それもこれも、ヴィンセントを困らせるリオニーが、でかい顔をするのが気に入らないからだ。
何事もなく舞踏会が終わるのならば、ノアもせっかく用意したが、使わずにいるつもりだった。
しかし今、リオニーはノアに喧嘩を売ってきた。
負けず嫌いで強気と勝気には自信があるノアだ。
伊達に最強の末っ子を名乗っていたわけではない。
『こてんぱんにしてやる!』
会場が騒然としてくる。
「なんだ、なんだ?」
「なにが始まるんだ?」
貴族たちは侍女の掲げる文字に釘付けだ。
ノアが文字を書けるとは思っていなかったリオニーは、これから始まることに慄いた。
リオニーの父王より、婚約発表の場を設けてはどうかと話が来たからだ。
ヴィンセントは、将来的にリオニーと結婚する気はないので必要ないと蹴ったが、体裁を気にした父がこれまた引き受けてしまったのだ。
命の恩人を邪険に扱うなど、王族としてあってはならないと言うが。
ヴィンセントは最近、リオニーが本当に命の恩人なのか疑い始めている。
きっかけはノアだ。
どうしてノアは俺に会いに来たのか?
どこでノアと俺は知り合ったのか?
なぜ俺はノアの声を知っているのか?
そしてそれを聞いて心が震えた理由を考えれば、おのずと答えは見えてきた。
しかし今日は父の手前、仕方なくリオニーを婚約者としてエスコートする。
父には婚約発表の場で、約束したのは婚約までであって、そこから先は本人たちの気持ちを優先すると告げてもらうことになっている。
そこは絶対に線引きをしたい部分だ。
普段リオニーは修道院から出られない決まりだが、今日だけは本人の婚約発表の場であることから、舞踏会参加の許しが出た。
万が一、ここで騒動を起こせばどうなるかくらい、本人も分かっているはずだ。
分かっているよな?
傲慢なリオニーの態度を思い出し、ヴィンセントの脳裏に不安がよぎる。
今夜が終われば、もうリオニーとの会談をしなくていいと父の言質を取った。
つまり俺がリオニーに会うのは、これが最後だ。
ヴィンセントは気を引き締めて、この舞踏会を乗り切ろうとしていた。
◇◆◇
ノアは舞踏会の会場の隅で、侍女たちにたくさんのスイーツを持ってきてもらって大喜びだった。
ヴィンセントからは、この舞踏会を最後にリオニーとはもう会わないと聞いていた。
だから心置きなく舞踏会を楽しんでいたのだ。
『もしリオニーが不服に思って何か仕掛けてきたら、私が反撃してやるわ! 準備はしっかり侍女さんたちにしてもらったんだから! これだけの大勢の前で恥をかきたいのなら、遠慮なくかかってくるのね!』
すっかりお気に入りになった苺のムースをパクつきながら、国王陛下の発表を聞く。
ちゃんと「本人たちの希望がない限り、婚姻にはいたらない」と説明があった。
命の恩人であることを盾に、婚約を無理強いしてきたのはリオニー側だ。
ヴィンセントが飲める要求にも限度がある。
双方の性格の不一致により婚約を解消する形でヴィンセントは収めようとしてる。
そのためにも、出来れば体裁を気にする国王陛下には海難事故の真実を知ってもらいたいのだが。
ノアはヴィンセントにもまだ本当にあったことを伝えることが出来なかった。
もし伝えたら、今度はノアと婚約するの?
それは命の恩人だから?
リオニーと同じ理由で?
そんなの嫌だとノアの心が思ってしまったのだ。
ヴィンセントのことが大好きだ。
初めは金髪がキレイだと思ったから。
次は紫色の瞳が美しいと思ったから。
だけどだんだん、外見じゃないとこが好きになっていった。
脚を痛がるノアを、どこに行くにも抱いて運んでくれるとこも。
いっぱい練習して真っ黒になったノートを見て、褒めてくれるとこも。
優しくて温かくて、心がホッとする人。
ヴィンセントにとって、私はそんな人になれているだろうか。
ノアは、恋に恋をしているだけではなく、全身全霊でヴィンセントを愛したいと思った。
そのためならなんだってする!
決意も新たに、苺のムースのおかわりをするのだった。
◇◆◇
リオニーは仕込みがうまく行ったことにご機嫌だった。
こうした舞踏会に出るのは久しぶりで、気分も高揚していた。
したたかに酔っ払い、さてそろそろ引導を渡そうと、ヴィンセントを呼びつける。
「舞踏会なのですから、もちろん私と踊ってくれますよね?」
「気乗りはしないが、仕方がない。一曲だけだ」
リオニーとヴィンセントのダンスが始まる。
リオニーはダンスには自信があった。
これで数々の男を落としたものだ。
今夜も、背の高い男性からはバッチリ胸元が見える特注のドレスを着ている。
それにこのドレスはターンを決めるたびにふくらはぎがチラリと見えて、とても煽情的なのだ。
私たちのダンスを見る観客にも、お似合いの二人だと思ってもらわなくてはならない。
華やかに、美しく、愛し合っているかのように。
決して脚の悪い人魚には出来ないことでしょう?
リオニーは周囲を恍惚とさせるダンスを披露する。
終わったときには拍手喝采だった。
満足げにしているリオニーを放って、ヴィンセントはすぐにノアを迎えにいった。
そしてなんとノアを抱きかかえたまま、ダンスホールの中央で踊り始めたのだ。
さきほどのダンスを圧倒する印象と驚き、なによりヴィンセントが楽しそうだ。
ノアもきゃあきゃあ言っているのか、口がパクパクしている。
お互いしか見えていないように何曲も踊る二人に、ヒソヒソと貴族たちが話し始める。
「やはり、リオニー王女殿下との婚約は強要されたものなのでは?」
「あまりいい噂のない方ですからな……我が国に輿入れされてもねえ」
「ヴィンセント王子殿下も、とんだ外れくじを引いたものですよ」
「ちなみに今、踊ってある相手はどのような方なのです?」
リオニーの顔がどす黒く憤怒に染まる。
カッカッとヒールを鳴らし、踊る二人に突進していった。
「ちょっと! わきまえなさい! あなたの命を救ったのは誰だと思っているの! 私がいなければこの国は王子を一人失っていたのよ! それなのに、どいつもこいつも!」
王女らしさをかなぐり捨てて、ヒステリックに叫ぶリオニー。
驚いてヴィンセントにしがみついたノアの姿が、さらに油に火を注いだ。
「離れなさい! 下賤な人魚のくせに!」
『人魚が下賤!? 頭に来た! 侍女の皆さ~ん! 出番ですよ!!』
ノアが侍女の皆さんに手旗信号のような合図を送る。
ヴィンセントは何も知らされておらず、これからノアが何を始めるのか興味津々だ。
国王陛下も騒ぎを聞きつけやってきた。
侍女の皆さんは、紙芝居のように紙の束をそれぞれ両手に持ち、一列に並んだ。
『今から始まるのはあなたの断罪よ! 命の恩人ぶっていられるのも、今日までなんだから!』
ノアは侍女の一人に3本指を立てて見せる。
するとサッと侍女は3枚目の紙を見えるように掲げる。
そこに書かれていた文字は――。
「ヴィンセントをタすけタノは、りおにーではない」
ヴィンセントの文字だけ、練習回数が桁違いなので達筆だが、それ以外の文字はたどたどしく、だが読めないほどでもない。
これがノアの用意したリオニー対策だった。
声が出せない代わりに、ヴィンセントに教えてもらった文字で対抗する。
その場でスラスラ書くことができないノアは、あらかじめ告発に必要な文字を集め、書き溜めた。
そして侍女の皆さんの協力を得て、何度も練習したのだ。
どの侍女さんがどの文面をもっているのか、ノアはしっかり頭に叩き込んできた。
それもこれも、ヴィンセントを困らせるリオニーが、でかい顔をするのが気に入らないからだ。
何事もなく舞踏会が終わるのならば、ノアもせっかく用意したが、使わずにいるつもりだった。
しかし今、リオニーはノアに喧嘩を売ってきた。
負けず嫌いで強気と勝気には自信があるノアだ。
伊達に最強の末っ子を名乗っていたわけではない。
『こてんぱんにしてやる!』
会場が騒然としてくる。
「なんだ、なんだ?」
「なにが始まるんだ?」
貴族たちは侍女の掲げる文字に釘付けだ。
ノアが文字を書けるとは思っていなかったリオニーは、これから始まることに慄いた。
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