面白い女〜不思議な溺愛物語〜

地野千塩

予感

 薄々、同棲している彼氏は変だと気づいていた。それでも、別れる事はできなかった。ギャンブルに狂い、時々私に手を上げるけれど、決して根は悪い人ではない。そう、思い込んでいた。

「いやいや、佐々木さん。その男やばいって」

 派遣先の上司とたまたま会い、二人で軽くお酒を飲んでいた。あまり綺麗ではない居酒屋だったが、お酒のせいで気がゆるみ、ペラペラと事情を語っていた。

 上司は社長の御曹司らしい。確かにどことなく育ちの良さを感じる。顔はイケメンではないが、くしゃりと笑う顔は可愛い。年齢もアラサーぐらいだが、童顔のせいで若くは見える。

「そうですかー?」
「そうだよ」
「根はいい人なんですよ」
「そう正当化しているだけだね。俺からはストックホルム症候群に見える」
「なんですか、それ」

 上司が言うには、被害者が犯人に好意を持ってしまう心理らしい。ストックホルムで実際に会った事件から生まれた言葉らしい。

「なんでそう思ってしまうのかしら」
「生き物としての本能だろうな」

 それと自分の状況は似ているとは思えなかったが、彼氏を正当化しているのは事実だった。自分の身を守るために。いや、身ではなくプライドかもしれない。自分の選択が間違っていないと自己保身に走っていた。

「私、間違ってますか?」
「そうだね。大いに間違ってるよ」

 そんな事を言われるのは初めてだった。上司はイケメンではないが、指が綺麗だし、声も良い方だ。何よりこんな風に耳の痛い事を言ってくれる人ははじめてだった。

「責めてるあわけじゃないないよ。人間ってなぜか悪いものを庇ったり、悪い人はいい人だったエピソードに弱いからね」
「ギャップ萌えってやつですかね」
「俺なんてずっと真面目に生きてたから、 納得いかないね。元から真面目に生きてる人のがいいっての」

 そう笑う上司は、少し良く見えてしまった。やばい、本格的に酔いが回っているのかもしれない。

 とりあえず、私の彼氏は根は良い人ではないのかもしれない。本当に根が良かったら、上司みたいに真面目に生きているだろう。酔っているのに目が覚めた気分だった。

 もう、彼氏とは別れる時期なのかもしれない。寂しくはあるが、なぜか次への恋の予感もしていた。

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