面白い女〜不思議な溺愛物語〜

地野千塩

マスクの下

 コロナ禍なんて早く終わって欲しい。学校行事もほとんど中止になったし、アクリル板つきの机は、黒板が見にくいし、掃除もめんどくさい。

 注射の副反応も辛いし、給食も黙って食べなければならない。

学校の前では反注射集団が、毎日のようにデモをたっていて鬱陶しい。

私は、彼らをチラリと見ながら、校門をくぐっった。

 誰もマスクをしていない。

 冴えない中年男女が多く、変なチラシを配っていた。

「一花、おはよう!」
「おはよう!」

 そこに友達の英美に声をかけられた。

 英美は、可愛い花柄の布マスクをしていた。本当は、布マスクはあんまり効果が無いというか、誰も文句を言わない。

 去年この公立中学に入学した私は、英美の素顔はほとんど知らなかった。

 長引くコロナ渦で、クラスメイトの顔もあんまり覚えられていないというのが、本音だった。

 この点からも早くコロナ渦など終わって欲しいと思うのだが。

「一花、目の下のクマすごくない?」
「え、そう?」

 英美から突然、顔の事を指摘されてドキマギしてくる。

「夜ふかしでもした? あはは」

 英美は笑っているが、私の心はかき乱されていた。

 部室に行くという英美と別れ、私は旧校舎にあるトイレに直行した。

 木造の旧校舎は、人気がいない。特にトイレとなると、とても静かだった。穴場スポットで、あまり知られていないはずだ。

 私は、トイレの鏡の前に立ち、自分の顔を確認した。

 マスクも外して、カバンにあるマスクポーチのつっこむ。

 確かに目の下のクマができていた。

 それにマスクのせいか、この一年ぐらい顎に頻発にニキビができている。

「あーあ、美人に生まれらかった」

 そんなボヤキが漏れる。

 鏡の中にいる自分は、決して美人ではなかった。

 目は奥二重、眉の形もいびつだ。校則でがメイクや眉の手入れも禁止なので、いじる事もできない。

 鼻は低くはないけれど、小さな黒子がポツポツある。本当はファンデーションで隠したいが、校則が気になってメイクなどできない。

 口もとも、歯並びが良くないせいでボコっとしている。ちょっとゴリラぽい。

 嫌な記憶が蘇る。

 コロナ禍になる前、小学生の時だった。

 軽いいじめのようかものにあった事があるクラスの目立つ女子から「あいつ、ゴリラっぽく無い?」と笑われた。あだ名も「ゴリラ」になった。

 幸い、担任の教師がいじめを止めてくれたので、良かったが、心の傷にはなっていた。

 一言で言えば自分の容姿に自信がない。芸能人やSNSのインフルエンサーはもちろん、クラスで一番可愛い子にも嫉妬してしまっていた。

 そんな時に始まったコロナ渦。

 全員マスクが強制になった。

 法律的には強制では無いらしいが、教師も生徒も街ゆく人もみんなしているマスク。同調圧力に弱い日本人にとっては、強制みたいなものだろう。

 本音では、マスク生活にホッとしていた。

 心の上の方では、コロナ渦がさっさと終わって欲しいと思っていたが、奥の奥では「ラッキー、顔隠せるじゃん!」だった。

 実際、このマスクのおかげか、「クラスで一番可愛い子」みたいな存在が、薄くなっていた。確かにモテる子もいるが、なんとなく目立っていないというか。

「ずっとマスク生活でいいわ」

 私はつい本音を漏らす。鏡の中にいる自分は、見れば見るほど可愛くない。

 カバンから新しいマスクを取り出し、装着した。自分の顔が半分ほど隠されて、心はとても安心した。

 口では、コロナ渦早く終わって欲しいなどと言っているが、マスク生活はいつまでも続いて欲しかった。

 そんな本音は誰にも言えないが、自分の顔はできるだけ隠したい。

 翌日、また学校の前で反注射集団が騒いでいた。

「子供に打たせるんですか!」

 誰もマスクをしていない。冴えない男女が、恥ずかしい顔を晒しながら、よく出来るものだと、私はある意味関心してしまった。

「あれ、一花じゃん」

 なぜかその集団の中に、幼なじみの翔がいた。

 翔は両親の仕草の都合で、よく海外に行っていた。父親はアメリカ人でハーフ。堀の深いイケメンであり、しょっちゅう女子から告白されていた。

「なんで、マスクしてるの?」
「っていうか、何で翔は反ワクチン集団にいるの? ツッコミどころ満載なんだけど」

 翔は女子ウケするイケメンではあったが、結構な変わり者だった。頭は良い方だが、都市伝説や陰謀論も好きだった事を思い出した。この集団にいるのも、そんな陰謀論にハマって拗らせたのは、安易に想像がついた。

「マスクはしなきゃいけないの。コロナにかかったらどうするの?」
「本当にそんな事思ってる?」

 色素の薄い茶色い目で見つめれた。どうも本心を見透かされたようで、私はドキマギしてしまった。

「どうせ一花は、外見のコンプレックス拗らせてマスクが外せないんだろ」
「ちょ、なんでそんな事わかるのよ」

 翔には完全に自分の本心が見透かされていた。

「僕は一花の事はゴリラだなんて思ってないよ」

 少し寂しそうに翔は言った。

 後日、小学生の時の同級生にあった。翔に再会した事を話すと、自分をゴリラだといじめていた女子について先生に告げ口したのは翔だったと教えてくれた。

「一花は、翔に好かれてるのよ。よくアイツ、一花の事を可愛いって言ってたもの」

 本当???

 信じられない。翔は、私の前ではそんな素振りは見せた事はなかった。飄々とした変わり者という印象しか無いのが。

 その次の日、また集団の中にいる翔に会った。

 私は遠回りに話すのが、嫌いなので、小学生の時の同級生から聞いた話について本人に真偽を確かめてみた。

 すると、意外な事に翔は顔が真っ赤になった。

「そ、そうだよ! 僕は一花が好きなんだよ!」

 しかも告白までされてしまった。人の多い校門の前で告白などされて居た堪れない。

「ど、どこがよかったの?」

 私も顔を真っ赤にさせて、翔に聞く。

「いや、一花は俺に靡かない面白い女だし」
「まあ、確かにあんたみたいな典型的なイケメンには、興味はないわ」
「そうそう、その毒舌っぽいところがいい。本当に面白い女だよ」

 なぜかプルプルと震え、翔は興奮していた。若干、気持ち悪い。

「それに顔も好きだ。特に笑った顔が」
「え、嘘でしょ……」

 そんな事を言われてしまうと、嬉しく無いわけがない。案外、私もチョロいのかもしれない。

「あとでマスク外してくれよ〜」

 翔が歌うように言い、私の心は揺れていた。本心は外したくない。

それでも、もう少し考えても良いと思った。

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