面白い女〜不思議な溺愛物語〜

地野千塩

鏡の国の王子様

 むかし、むかしある所に美しい王女様がいました。

 王女様は、鏡に向かって呼びかけます。

「あぁ。私はなんて美しいのかしらぁ。本当に世界で一番美しいわ。まるで私は神よ!」

 王女様の呟きは、鏡の中の世界にも届いていました。

 そこは鏡の国と言います。

 この世と全てがあべこべになっている世界です。

 この世で虐げられているような人、悲しんでいるような人こそが、幸せに暮らせる場所でした。

 鏡の国ではいくら稼いだか、容姿が優れているかは関係ありません。お金も地位も名誉もどうでも良いものです。子供のような心で他人を愛する事ができる者が一番尊いものとされていました。

 だから、鏡の国では争いも悲しみもありません。全ての国民が幸せに暮らしていました。

 そんな鏡の国王子様は、国一番の優しいお方でした。時には国民の為に命をはり、血を流した事もありました。

 ただ、一つ問題があります。

 それはお嫁さんが決まっていない事です。もう30歳を過ぎた王子様でしたが、まだお嫁さんを決めかねていました。

 そんな折、時々この世を覗いていました。

 鏡を通すとこの世と鏡の国が繋がり、見る事ができました。それは出来るのは鏡の国の王子様だけで、この世の人間はそんな事には気づいていません。

 鏡の国の王子様は、この世の美しい王女様の呟きを聞き、とても嫌な気分になりました。

 傲慢さしか感じず、心の美しさや優しさは全く感じません。

 おまけに王女様の秘密も発見してしまいました。娘のお姫様をいじめているのです。

 お姫様は王女様に似た美しい娘でしたが、内面は優しい娘でした。その容姿から白雪姫と呼ばれていましたが、控えめで恥ずかしがりやでした。

 貧乏なものや障害を持っているものにも会いにいき、助けていました。自分を低くし、とても謙遜でした。

 そんな所を見た鏡の国の王子様は、自然と白雪姫に好意を持ち始めました。

 鏡の国の王子様は、白雪姫がいじめられないかとても心配です。

 実際、王女様は相変わらず白雪姫をいじめ続けていました。

 ここで一つ、鏡の国の王子様は芝居を打ちました。

「鏡よ、鏡。鏡さん。世界で一番美しい女は誰? もちろん、この私よね?」
『そうです、あなたです。王女様』

 そんな言葉は嘘です。こんなお世辞を鏡越しに言っておけば、白雪姫へのいじめは酷くならないだろうと考えました。

 しかし、元々正直な鏡の国の王子様は、本当の事をぽろっと言ってしまいました。

「本当に私は神みたいに美しいわよね?」
『いいえ。一番美しいのは王女様でなく、白雪姫です』

 この言葉を聞いた王女様は怒り狂いました。白雪姫に八つ当たりをして、城から森へ捨ててしまいました。

 可哀想な白雪姫は行くところがありません。

 鏡の国の王子様は、部下の7人の小人達をこの世に向かわせました。白雪姫を保護し、森で一緒に暮らすよう命令しました。

 おかげで白雪姫は7人の小人達と楽しく暮らしていました。

 楽しそうに暮らす白雪姫を見た鏡の国の王子様は、とても安心しました。

 元はといえば自分の失言の結果ですしね……。

 鏡の国の王子様は、ロマンチックな面がありました。

 白雪姫のウェディングドレスや住むところを鏡の国に用意し、ラブレターまで書き上げていました。

 ラブレターは便箋200枚にも及び、熱い愛の言葉が溢れていました。

 恥ずがりやの鏡の国王子様は、7人の小人にこっそりと手紙を託すのが精一杯でしたが。

「なに、なに、この手紙」

 手紙を読んだ白雪姫は、とても感動して涙を流しました。

 今までこんな陰から愛されていたなんて気づかなかった!

 この手紙を書いた方に会いたい!

 そう強く思いました。

 しかし、そんな時です。

 白雪姫のそばに王女様が近づいてきました。

 おばあさんの姿に変装していたので、白雪姫は王女様だとは気付きませんでした。

「白雪姫や。美味しい林檎があるよ。この林檎を食べると頭が良くなって、永遠の命も得られるんだ」

 もちろんそんな事は嘘ですが、純粋な白雪姫は騙されてしまいました。

 林檎をかぶりつくと、全身に毒が回って死んでしまいました。

 7人の小人達は、白雪姫をガラスの棺に入れ、泣いていました。

 いくら手を施しても白雪姫は起き上がりませんでした。

 鏡の国の王子様は、白馬に乗り、この世に急いで向かいました。白雪姫を助ける為です。

 もしかしたら、息を吹き返すかもしれない!

 白雪姫の前に現れた王子様は、心臓をたたき、その唇に息を吹き込みました。

 鏡の王子様からの口付けです。

 すると、白雪姫は目を覚ましました。奇跡です。愛の力が起こした奇跡かもしれません。

「あれ、私は何をしていたの?」
「君を助けにきたよ、白雪姫。実はあの手紙を書いたのは僕なんだ」
「本当? ああ、私は何をしていたのかしら。あんな林檎を食べてごめんなさい」

 鏡の国の王子様は、棺から白雪姫を抱えて起こしました。そして宝物のように大切に抱き上げました。

「会いたかったわ、王子様」
「さあ、僕の国に行こう。僕の国で永遠に暮らそう」
「ありがとう、王子様。手紙とっても嬉しかった」

 そばにいた7人の小人達は、声を上げて喜びました。

 こうして白雪姫は、鏡の国の王子様は結婚しました。二人は鏡の国で幸せに暮らしました。

 王子様が用意した白雪姫のウェディングドレスは、雪よりも白かったと言い伝えられています。

 めでたし、めでたし。

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