恋愛マッチングアプリ『Optiple(オプティプル)』
2話
翌日、自室のソファーで寝そべりながら俺は昨日教えてもらった『Optiple』を試しに始めてみることにした。昨日は結局、先輩が泥酔してしまったため、俺は自分の飲む量を極力抑え、先輩の介護に回ることとなった。
タクシーを呼び、先輩の家に着くと旦那さんが俺に何度も謝罪とお礼をしてくれた。先輩の言っていたとおり、本当に屈託のない優しい旦那さんであると一眼見ただけで分かった。あれは先輩が惚れるのも理解できる。
そう言うわけで俺は特に二日酔いになることはなく、優雅に休日を過ごすことができそうな状態だった。「素敵な女性はたくさんの男に狙われる」と先輩の言った言葉が気にかかり、始めるだけならいいかと思い、『Optiple』インストールをした。
恋愛マッチングアプリ『Optiple』。自分に合った最適な異性を選ぶことのできるマッチングアプリだ。普通のマッチングアプリでは、自分のタイプを測る際にいくつかの質問に対し、自分が当てはまるものを選択し、回答に応じて自分のタイプが診断される。
しかし、Optipleによるタイプ診断は一味違う。
まず、自分が自分のことをどう思っているかという質問は一切ない。あるのは、自分の持っているSNSのアカウントの登録。それから自分がどんな日常を送っているかと言う行動的な質問があるだけ。
自分の日常の行動をもとにAIが自分の性格を導き出してくれるようになっている。
そのため、自身の性格がより鮮明に浮き彫りにされるようになっている。聞いている限りだとなんだか恐ろしい感じがするが、パートナーを選ぶにあたってはそれくらい鮮明で合ってくれたほうが後々困る事はないのだろう。
俺はアプリを開いて設定を行っていく。自分の写真やプロフィールを設定、自分の持つSNSアカウントの登録、日常の行動についての質問の回答。それらを行うと、複数の女性が画面に現れた。彼女たちは顔写真と名前、年齢、及び自分との相性がパーセンテージで数値化されている。
特に指定もなく、まばらに並べられているため並び順を指定する。
住まいは俺が住んでいる地域、最終ログインは一週間以内に絞り、相性の高さ順に並び替える。
すると、一番上に出てきた女性の数値に目が止まった。
相性98パーセント。二番目の女性が87パーセントである事からかなりの高パーセンテージであることが分かる。
試しに絞っていた条件を外し、アプリに登録された全女性で相性の高さ順に並び替えてみた。それでも彼女は首位をキープしている。二番目の女性は92パーセントだった。アプリダウンロード数は500万を超えているため、その中で一番であると言う事は俺にとって『運命の相手』と言えるだろう。
運命の相手のプロフィールを覗く。社会人になって上京をしてきたようだ。ここは俺と一緒だ。しかし、出生地は異なっていた。今はイラスト関係の仕事を主に行っているらしい。趣味もまたイラストを描くこと。仕事とは違ったテイストの絵を趣味で描いているらしい。
プロフィールに映された彼女の写真はどれもマスクをつけていた。
仕方のないことだ。去年から数年間、ウイルスの蔓延によりマスクの着用が義務化されていた。それゆえに最近の外での写真はマスクをつけているものが多い。
それは他のユーザーも例外ではない。
俺のプロフィール写真もマスク姿のものが多い。幸い、一枚だけマスクなしの実家で撮った写真があったため、それを載せている。
それでも髪型と目元だけで彼女が綺麗な人である事はわかった。
俺にとっての運命的存在なのだ。試しに『いいね』くらいは押しておこう。ハートマークをタップし、彼女に『いいね』を送った。これで彼女から『いいね』の返しがあれば、マッチング成功。チャット等でお話ができるようになるみたいだ。
『いいね』の返しには、彼女がまず確認してから返事をするまでの時間を要する。俺はその間、他の女性のプロフィールを覗いていった。
相性の高さ順から見ようと上から下へとスライドしていく。面白いと思ったのは相性の高い人の方が容姿がタイプである確率が高いことだ。SNSの文章から性格だけでなく、容姿の好みまでバレるのかと思うとOptipleと言うアプリが末恐ろしく感じる。
ただ、相性が低い中でもとてもタイプな人もいる。おそらく万人受けのする美人さんなのだろう。そう言った人の場合は、シンプルに価値観や性格の不一致が原因で低くなっていると思われる。
いろいろな女性を見ることができ、なんだか楽しくなってくる。
気がつけば、数時間もの長い間、アプリに夢中になっていた。もうそろそろお昼としよう。そう思い、アプリを閉じようとすると、一件の通知が来ているのに目がいった。
通知を示す鈴のアイコンをタップすると、『いいねを送った方からいいねの返答が来ました。マッチングに成功したので、相手とのチャットが開かれております』とのメッセージが来ていた。俺は寝転んでいた状態から飛び上がり、ソファーであぐらをかく。
まさか、こんなにも早くマッチングが成功するとは思ってもみなかった。
マッチングが成功したかと思うと緊張感が高まる。相手に不節操のないように接しなければ。恐る恐るチャットのアイコンをタッチする。
いいねを返してくれた相手から最初のメッセージが送られていた。
「はじめまして。アヤサと言います。相性98パーセントの相手なんて今まで出会ったことなかったので、いいね返ししてしまいました。これからよろしくお願いします」
「はじめまして。孝也でたかやと言います。自分は今日始めたばかりで相性の数値については未だよくわかっておりません。ただ、他の女性に比べてアヤサさんがとても魅力的に見えたので、いいねさせていただきました。プロフィールの情報も自分好みだったので、これからお話しできたらなと思います」
送信して改めて自分の文章を確認するとなんだか恥ずかしさを覚える。
『他の女性に比べて魅力的に感じました』なんて初対面の相手に言っていいものだったろうか。なんだか胡散臭い人間みたいに思われたりしないだろうか。
「ありがとうございます! 孝也さんもイラスト描いたりするんですか?」
しかし、アヤサさんは特に気にする様子もなく、質問をしてくれた。
「どちらかと言うとイラストは見る専門ですね。友人がよくイラスト描いていて、その人の絵を見るのが好きだったので、それが転じて写真を撮るようになりました」
「そうだったんですね。友人さんはどんなものを描いたり、撮ったりしてましたか?」
「主に風景画ですね」
「風景画ですか。奇遇ですね。私も風景画を描くんですよ。仕事では、人物が多いので、趣味でやっている感じですが。だとすると、孝也さんが好みのものを見せられるかもしれないですね」
まさか沙恵からもらった趣味がここで役に立つとは思いもしなかった。まあ、でもそれもそうか。相性が98パーセントという事はある程度の趣味は一致しているはずなのだから。
ただ、こんなすぐに打ち解けられるとは思わなかった。アヤサさんのメッセージは接しやすく脳内で話口調に変換しやすい。
それからも俺たちはイラストや写真の話に耽った。
昼飯を食べようと思っていたが、空腹なんてすっかり忘れてしまって、話に熱中してしまった。それくらい彼女との会話は楽しかった。
タクシーを呼び、先輩の家に着くと旦那さんが俺に何度も謝罪とお礼をしてくれた。先輩の言っていたとおり、本当に屈託のない優しい旦那さんであると一眼見ただけで分かった。あれは先輩が惚れるのも理解できる。
そう言うわけで俺は特に二日酔いになることはなく、優雅に休日を過ごすことができそうな状態だった。「素敵な女性はたくさんの男に狙われる」と先輩の言った言葉が気にかかり、始めるだけならいいかと思い、『Optiple』インストールをした。
恋愛マッチングアプリ『Optiple』。自分に合った最適な異性を選ぶことのできるマッチングアプリだ。普通のマッチングアプリでは、自分のタイプを測る際にいくつかの質問に対し、自分が当てはまるものを選択し、回答に応じて自分のタイプが診断される。
しかし、Optipleによるタイプ診断は一味違う。
まず、自分が自分のことをどう思っているかという質問は一切ない。あるのは、自分の持っているSNSのアカウントの登録。それから自分がどんな日常を送っているかと言う行動的な質問があるだけ。
自分の日常の行動をもとにAIが自分の性格を導き出してくれるようになっている。
そのため、自身の性格がより鮮明に浮き彫りにされるようになっている。聞いている限りだとなんだか恐ろしい感じがするが、パートナーを選ぶにあたってはそれくらい鮮明で合ってくれたほうが後々困る事はないのだろう。
俺はアプリを開いて設定を行っていく。自分の写真やプロフィールを設定、自分の持つSNSアカウントの登録、日常の行動についての質問の回答。それらを行うと、複数の女性が画面に現れた。彼女たちは顔写真と名前、年齢、及び自分との相性がパーセンテージで数値化されている。
特に指定もなく、まばらに並べられているため並び順を指定する。
住まいは俺が住んでいる地域、最終ログインは一週間以内に絞り、相性の高さ順に並び替える。
すると、一番上に出てきた女性の数値に目が止まった。
相性98パーセント。二番目の女性が87パーセントである事からかなりの高パーセンテージであることが分かる。
試しに絞っていた条件を外し、アプリに登録された全女性で相性の高さ順に並び替えてみた。それでも彼女は首位をキープしている。二番目の女性は92パーセントだった。アプリダウンロード数は500万を超えているため、その中で一番であると言う事は俺にとって『運命の相手』と言えるだろう。
運命の相手のプロフィールを覗く。社会人になって上京をしてきたようだ。ここは俺と一緒だ。しかし、出生地は異なっていた。今はイラスト関係の仕事を主に行っているらしい。趣味もまたイラストを描くこと。仕事とは違ったテイストの絵を趣味で描いているらしい。
プロフィールに映された彼女の写真はどれもマスクをつけていた。
仕方のないことだ。去年から数年間、ウイルスの蔓延によりマスクの着用が義務化されていた。それゆえに最近の外での写真はマスクをつけているものが多い。
それは他のユーザーも例外ではない。
俺のプロフィール写真もマスク姿のものが多い。幸い、一枚だけマスクなしの実家で撮った写真があったため、それを載せている。
それでも髪型と目元だけで彼女が綺麗な人である事はわかった。
俺にとっての運命的存在なのだ。試しに『いいね』くらいは押しておこう。ハートマークをタップし、彼女に『いいね』を送った。これで彼女から『いいね』の返しがあれば、マッチング成功。チャット等でお話ができるようになるみたいだ。
『いいね』の返しには、彼女がまず確認してから返事をするまでの時間を要する。俺はその間、他の女性のプロフィールを覗いていった。
相性の高さ順から見ようと上から下へとスライドしていく。面白いと思ったのは相性の高い人の方が容姿がタイプである確率が高いことだ。SNSの文章から性格だけでなく、容姿の好みまでバレるのかと思うとOptipleと言うアプリが末恐ろしく感じる。
ただ、相性が低い中でもとてもタイプな人もいる。おそらく万人受けのする美人さんなのだろう。そう言った人の場合は、シンプルに価値観や性格の不一致が原因で低くなっていると思われる。
いろいろな女性を見ることができ、なんだか楽しくなってくる。
気がつけば、数時間もの長い間、アプリに夢中になっていた。もうそろそろお昼としよう。そう思い、アプリを閉じようとすると、一件の通知が来ているのに目がいった。
通知を示す鈴のアイコンをタップすると、『いいねを送った方からいいねの返答が来ました。マッチングに成功したので、相手とのチャットが開かれております』とのメッセージが来ていた。俺は寝転んでいた状態から飛び上がり、ソファーであぐらをかく。
まさか、こんなにも早くマッチングが成功するとは思ってもみなかった。
マッチングが成功したかと思うと緊張感が高まる。相手に不節操のないように接しなければ。恐る恐るチャットのアイコンをタッチする。
いいねを返してくれた相手から最初のメッセージが送られていた。
「はじめまして。アヤサと言います。相性98パーセントの相手なんて今まで出会ったことなかったので、いいね返ししてしまいました。これからよろしくお願いします」
「はじめまして。孝也でたかやと言います。自分は今日始めたばかりで相性の数値については未だよくわかっておりません。ただ、他の女性に比べてアヤサさんがとても魅力的に見えたので、いいねさせていただきました。プロフィールの情報も自分好みだったので、これからお話しできたらなと思います」
送信して改めて自分の文章を確認するとなんだか恥ずかしさを覚える。
『他の女性に比べて魅力的に感じました』なんて初対面の相手に言っていいものだったろうか。なんだか胡散臭い人間みたいに思われたりしないだろうか。
「ありがとうございます! 孝也さんもイラスト描いたりするんですか?」
しかし、アヤサさんは特に気にする様子もなく、質問をしてくれた。
「どちらかと言うとイラストは見る専門ですね。友人がよくイラスト描いていて、その人の絵を見るのが好きだったので、それが転じて写真を撮るようになりました」
「そうだったんですね。友人さんはどんなものを描いたり、撮ったりしてましたか?」
「主に風景画ですね」
「風景画ですか。奇遇ですね。私も風景画を描くんですよ。仕事では、人物が多いので、趣味でやっている感じですが。だとすると、孝也さんが好みのものを見せられるかもしれないですね」
まさか沙恵からもらった趣味がここで役に立つとは思いもしなかった。まあ、でもそれもそうか。相性が98パーセントという事はある程度の趣味は一致しているはずなのだから。
ただ、こんなすぐに打ち解けられるとは思わなかった。アヤサさんのメッセージは接しやすく脳内で話口調に変換しやすい。
それからも俺たちはイラストや写真の話に耽った。
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