海の民の乙女 ─王妃になりそこなった少女─

時野みゆ

第48話 流罪

 こうしてリシャールの冤罪事件は決着した。ジュリオから渡された手紙を持ち、彼が王宮に姿を現した時、王妃は自分が賭けに負けたと悟った。彼女はひとことも弁解せず、罪を認めた。
 その間に病に伏せていた国王が崩御した。宮廷で起きた事件──妻である王妃と息子であるリシャールの確執は知らされないまま、王は安らかに逝った。
 そしてリシャールは次期国王の座が決定したのである。

 陰謀が露見し、失脚した王妃はガンディアの領地であるクルス島へ流罪となった。
 とはいえ、島の気候は温暖で、そこに小さな館を与えられ、侍女たちにかしずかれて静かな生活が送れた。アレンの訪問も許された。
 リシャールの寛大な処遇であった。長い間、自分の母の面影に苦しめられてきたクリスティナを、憐憫こそ覚え、憎む気持ちになれなかった。
 そもそも最初に彼女を拒絶したのは自分なのだ。
 ──僕の母上はひとりだけだ!
 初めて会った彼女に幼い自分は言い放った。まだ年端のゆかぬ子供の言葉とはいえ、クリスティナはどれほど傷ついただろう。
 自分が彼女を受け入れていたら、悲劇は起こらずに済んだだろうか。今となっては詮無い問いだった。

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