海の民の乙女 ─王妃になりそこなった少女─
第42話 大きな借り
勇利はなんのかんの言って逃れようとするが、兵士が離してくれない。
こちらから声をかけた手前、無下《むげ》にもできず、仕方なく勇利は梨華とリシャールに目線を送ってよこした。ここは自分にまかせてジュリオを探しに行け、と訴える。
梨華は大きくうなずくと、リシャールと共にそうっと場を離れた。
目立たない程度に早足で石畳を歩きながら、リシャールが心配そうに訊いてくる。
「お兄さん、大丈夫かな」
「まあ、何とかなるでしょ。武術の心得もあるし、いざとなれば投げ飛ばして逃げられると思うわ」
梨華ほどの才はないが、だてに幼少より祖父に鍛えられてきたわけではない。
「あーあ、これで兄さまには大きな借りができちゃった」
帽子をかぶり直しながら、梨華がぼやく。が、すぐに真剣な表情になって、
「ジュリオは家にも王宮にも拘束されていないのよね?」
王宮に捕らわれていないのなら、まだ自分たちにも彼を見つけるチャンスがある。
「他に彼のいそうな場所、心当たり、ある?」
ひとつだけ、とリシャールは答えた。
「街外れの丘に彼の家の別荘があります。海の見える静かな場所で、子供の頃はよく三人で訪れては遊んだものです。もしかしたら……」
リシャールは慎重に言葉を紡いだ。彼には病気の妹がいて、おそらく一緒のはずだ。行ける場所は限られている。
「じゃ、そこに行ってみましょ」
あれこれ考えるより、動け。梨華のモットーである。
二人は人目につかない路地を選びながら、目的の場所へ急いだ。街から外れ、しばらく歩き続けると坂道に出る。登っていくと高台に何軒かの豪奢な別荘が並んでいる。その中の一番つつましいコテージだ。
こちらから声をかけた手前、無下《むげ》にもできず、仕方なく勇利は梨華とリシャールに目線を送ってよこした。ここは自分にまかせてジュリオを探しに行け、と訴える。
梨華は大きくうなずくと、リシャールと共にそうっと場を離れた。
目立たない程度に早足で石畳を歩きながら、リシャールが心配そうに訊いてくる。
「お兄さん、大丈夫かな」
「まあ、何とかなるでしょ。武術の心得もあるし、いざとなれば投げ飛ばして逃げられると思うわ」
梨華ほどの才はないが、だてに幼少より祖父に鍛えられてきたわけではない。
「あーあ、これで兄さまには大きな借りができちゃった」
帽子をかぶり直しながら、梨華がぼやく。が、すぐに真剣な表情になって、
「ジュリオは家にも王宮にも拘束されていないのよね?」
王宮に捕らわれていないのなら、まだ自分たちにも彼を見つけるチャンスがある。
「他に彼のいそうな場所、心当たり、ある?」
ひとつだけ、とリシャールは答えた。
「街外れの丘に彼の家の別荘があります。海の見える静かな場所で、子供の頃はよく三人で訪れては遊んだものです。もしかしたら……」
リシャールは慎重に言葉を紡いだ。彼には病気の妹がいて、おそらく一緒のはずだ。行ける場所は限られている。
「じゃ、そこに行ってみましょ」
あれこれ考えるより、動け。梨華のモットーである。
二人は人目につかない路地を選びながら、目的の場所へ急いだ。街から外れ、しばらく歩き続けると坂道に出る。登っていくと高台に何軒かの豪奢な別荘が並んでいる。その中の一番つつましいコテージだ。
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