海の民の乙女 ─王妃になりそこなった少女─

時野みゆ

第40話 ジュリオの家

 かくして女装三人組のお出かけと相成ったのである。よもや見張りの兵も長い金髪をなびかせ、リボンのわんさかついたドレスをきた別嬪《べっぴん》さんがリシャールだとは(多分)気づくまい。
 勇利はといえば、当然女装などしたくなかったのだが、その方が怪しまれないだろうと梨華が主張したのである。おまけに勇利が行かなければ、代わりに梨奈が行くと言い出す始末。
 可愛い大切な末っ子を危険にさらすなど、とんでもない! 梨奈を危ない目にあわせるくらいなら、女装でも何でもして自分が行く方がはるかにマシというものだ。
 というわけで勇利は胸元に純白のレース飾りのついた、品のいい紫のドレスを着る羽目になったのである。
 梨華は兄のドレス姿を眺めると、おおよそ悪気のない微笑を投げてよこす。
「兄さまもその恰好、似合ってるわよ」
 それにしてもリシャールといい、兄といい、自分よりドレスが似合っているように見えるのは気のせいだろうか……。
 ちらりと頭をかすめた疑問はしまいこみ、梨華は真顔になった。
「で、どこへ行くの、リシャール」
「まずはジュリオの家に行ってみようかと。不在でも何か手掛かりがつかめるとよいのですが……」
 ジュリオの家はコンテッサの街でも貴族や裕福な商人の家が並ぶ地区にあった。彼の家は代々医者を輩出しており、王宮にも出入りしていた。リシャールも医師である父に連れられて宮廷に来たジュリオと知り合ったのだ。
 角の建物の陰からそっと様子をうかがうと、見張りの兵士が屋敷の門の前に立っている。

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