海の民の乙女 ─王妃になりそこなった少女─

時野みゆ

第34話 思いがけない展開

 阿梨は夫の方を向き、
「勇駿、一緒に来てくれ」
 ああ、と短く答え、勇駿は阿梨を守るように寄り添った。二人は一度自分たちの部屋に寄って剣を携え、甲板へと歩いていく。
 思いがけない展開にあわてたのはリシャールである。美しく剛毅な梨華の母はいったい何を考えているのか。
「梨華、止めて! 相手は武装した正規軍だ。戦闘にでもなったら大変なことになる!」
 が、梨華は平然と、
「だーいじょうぶだって」
 動じる気配もなく、梨奈を連れて窓際に行くと、リシャールを手招きする。
「うちだってダテに世界中航海して回っているわけじゃないわ。寄港地では軍の反乱やら、市民の暴動やら、いろんな事件が起こるわよ。その度に母さまは水軍の船と皆を守ってきた。ほら、いらっしゃいよ。カーテンの陰から様子が見えるから」
 困惑するリシャールは言われるまま、姉妹の隣で船窓から外を窺う。
「姉さま……」 
 梨華は妹の頬に手を添え、安心させるように瞳をのぞきこんだ。
「心配しないで。今までもそうしてきたように、母さまは必ずこの状況を切り抜けてみせるわ。梨奈もよく知っているでしょ?」
 こくりとうなずく妹に、姉はわくわくした口調で、
「さあ、母さまがあの連中をどう追い払うか、楽しみね」

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