海の民の乙女 ─王妃になりそこなった少女─
第30話 殺人の動機
王妃は立ったまま、冷ややかな目線をリシャールに投げかけると、
「愚かな真似をしましたね、リシャール・ロウ・ガンディア」
「いったい何のことです?」
「しらを切るつもりですか? 人ひとり殺しておいて」
「わたしは誰も殺してなどおりません!」
「通報が入ったのですよ。宿で争う声と悲鳴が聞こえたと。そなたが殺したのでないのなら、なぜ、同じ部屋にモーリスの死体があったのですか」
扇を口もとに当てた、氷のように冷たい瞳と声。
「わかりません……ですが、わたしには彼を殺す動機がありません!」
「動機なら心当たりがあるのでは?」
リシャールは眼を見開いた。王妃の意図が全くわからない。
「なぜわたしがモーリス医師を殺さねばならないのです !?」
「あなたは自分に都合の悪い遺言を聞いたモーリスを買収しようとして断られ、口封じに殺したのです」
「わたしに都合の悪い遺言とは何なのです !?」
「まあ、とぼけて。王位をアレンに譲るというものですよ。あなたにとって不都合この上ないではありませんか」
リシャールは唖然とした。言葉も出ない。そもそも王位など欲しくもないのに。
そこでようやくリシャールはジュリオの存在を思い出した。
「待ってください! わたしは昨夜はジュリオと一緒にいました。彼に訊いてみてください」
「どこのジュリオです?」
「ジュリオ・マクギリスです。わたしの友人で医者の青年です」
子供の頃からの親友。彼には病弱な妹がいて、いつも気にかけていた。
「どうか彼に確かめてみてください。真相を知っているはずです」
よろしい、と王妃は扇を閉じた。
「では、ジュリオに確認させましょう。疑いが晴れるまで、そなたはこの部屋から出ないように」
「愚かな真似をしましたね、リシャール・ロウ・ガンディア」
「いったい何のことです?」
「しらを切るつもりですか? 人ひとり殺しておいて」
「わたしは誰も殺してなどおりません!」
「通報が入ったのですよ。宿で争う声と悲鳴が聞こえたと。そなたが殺したのでないのなら、なぜ、同じ部屋にモーリスの死体があったのですか」
扇を口もとに当てた、氷のように冷たい瞳と声。
「わかりません……ですが、わたしには彼を殺す動機がありません!」
「動機なら心当たりがあるのでは?」
リシャールは眼を見開いた。王妃の意図が全くわからない。
「なぜわたしがモーリス医師を殺さねばならないのです !?」
「あなたは自分に都合の悪い遺言を聞いたモーリスを買収しようとして断られ、口封じに殺したのです」
「わたしに都合の悪い遺言とは何なのです !?」
「まあ、とぼけて。王位をアレンに譲るというものですよ。あなたにとって不都合この上ないではありませんか」
リシャールは唖然とした。言葉も出ない。そもそも王位など欲しくもないのに。
そこでようやくリシャールはジュリオの存在を思い出した。
「待ってください! わたしは昨夜はジュリオと一緒にいました。彼に訊いてみてください」
「どこのジュリオです?」
「ジュリオ・マクギリスです。わたしの友人で医者の青年です」
子供の頃からの親友。彼には病弱な妹がいて、いつも気にかけていた。
「どうか彼に確かめてみてください。真相を知っているはずです」
よろしい、と王妃は扇を閉じた。
「では、ジュリオに確認させましょう。疑いが晴れるまで、そなたはこの部屋から出ないように」
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