海の民の乙女 ─王妃になりそこなった少女─
第24話 必要とされたのは
だが、胸をときめかせて宮廷に入った花嫁を待っていたのは、前王妃アンリエッタの亡霊だった。
宮廷の至る所に、美しく聡明だったアンリエッタの面影が残っていたのだ。
──まあ、前王妃さまでしたら……。
何をしてもアンリエッタと比べられる。人々の心ない言葉がクリスティナを苛《さいな》んだ。
そして何より彼女を苦しめたのは、夫がまだアンリエッタを愛しているという事実だった。
豪華な婚礼と祝いの宴が終わり、初めて共に過ごした夜。まどろみの中で夫がつぶやいたのは自分ではなく、アンリエッタの名前だった。
絶望の淵に突き落とされながら、クリスティナは知った。必要とされたのは自分ではなく「ガンディア王妃」であり、幼い王子の母親だと。
愛そうとしたのだ。血はつながらなくとも心は通い合えるだろうと。しかしリシャールは頑《かたく》なにクリスティナを拒んだ。
──僕の母上はひとりだけだ!
嫁いできた当初はほがらかに笑ったクリスティナも、だんだんと笑わなくなっていった。
宮廷という檻に閉じこめられ、誰にも頼れず、ひっそりと泣くしかなかったクリスティナを変えたのは懐妊だった。
屈してはならない。生まれてくる子のためにも強くならねば。クリスティナは前王妃の亡霊と戦う決意をした。
宮廷の至る所に、美しく聡明だったアンリエッタの面影が残っていたのだ。
──まあ、前王妃さまでしたら……。
何をしてもアンリエッタと比べられる。人々の心ない言葉がクリスティナを苛《さいな》んだ。
そして何より彼女を苦しめたのは、夫がまだアンリエッタを愛しているという事実だった。
豪華な婚礼と祝いの宴が終わり、初めて共に過ごした夜。まどろみの中で夫がつぶやいたのは自分ではなく、アンリエッタの名前だった。
絶望の淵に突き落とされながら、クリスティナは知った。必要とされたのは自分ではなく「ガンディア王妃」であり、幼い王子の母親だと。
愛そうとしたのだ。血はつながらなくとも心は通い合えるだろうと。しかしリシャールは頑《かたく》なにクリスティナを拒んだ。
──僕の母上はひとりだけだ!
嫁いできた当初はほがらかに笑ったクリスティナも、だんだんと笑わなくなっていった。
宮廷という檻に閉じこめられ、誰にも頼れず、ひっそりと泣くしかなかったクリスティナを変えたのは懐妊だった。
屈してはならない。生まれてくる子のためにも強くならねば。クリスティナは前王妃の亡霊と戦う決意をした。
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