海の民の乙女 ─王妃になりそこなった少女─

時野みゆ

第21話 生涯の伴侶として

 侍従の推測通り、リシャールは今日も水軍の旗艦にいた。毎日花束を持ってやって来るので、船の中は花だらけである。
 最近では梨奈がすっかりなついてしまい、応接間で三人でお茶を飲みながらおしゃべりするのが恒例となっている。梨華としてもリシャールと二人きりより、梨奈がいてくれた方が何かと気楽ではある。
 船には彼を歓迎しない男たちが約三名いるのだが、無邪気な梨奈の手前、追い返すわけにもいかず、歯噛みするばかりである。
「あなた、毎日遊んでばかりいて、仕事は大丈夫? 書類にサインするとか、あるんじゃないの?」
 連日やって来る王子さまに梨華が半ば呆れて訊くと、彼は少し寂しそうに笑った。
「国政は王妃さまが取り仕切っていて、わたしの仕事などないのですよ」
 他人行儀なもの言いに梨華はまばたきした。そういえば、リシャールの実母、先代の王妃は亡くなったと本人が言っていた。
「もともとわたしは国王になど向いていないのですよ」
 リシャール自身は王位など弟に譲ってもいいと思っている。学問熱心で賢明なアレンの方がよほど国王にふさわしいし、継母《はは》も本当はそう望んでいるだろう。だが王位継承権の序列が邪魔をして簡単にはいかないのだ。
「王子さまもいろいろ大変ね」
 梨華はいささかの同情をこめてリシャールの顔をのぞきこんだ。
 毎日ここに入りびたっているということは、確かに暇で、おそらく継母が取り仕切る宮廷は彼にとって居心地が良くないのだろう。
 ジャスミン茶のカップを受け取りながら、リシャールは切に思う。梨華のような芯の強い、たくましい……いや、生命力に溢れる女性がそばにいてくれたら、どんなにか心強いだろう。それも生涯の伴侶として。

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