海の民の乙女 ─王妃になりそこなった少女─
第17話 頑固親父
結局、その日はリシャールは「また来ます」と言い残して帰っていった。
彼を甲板から見送ると、食堂へやって来た梨華に家族が一斉に注目する。
「帰ったか?」
仏頂面で勇駿が訊く。
「うん。また明日来るって」
「明日も来るのかっ !?」
勇駿としては塩まいて二度と来るなと怒鳴りつけてやりたい気分だ。勇仁は渋面したまま腕組みし、勇利はどう言っていいものか、頭をぽりぽりとかいている。
家族の視線の集中砲火を浴びながら、梨華はテーブルの上にことり、と指輪を置いた。銀に海を思わせるサファイアがはめ込まれた美しい品だ。
「それは?」
一同を代表してたずねる母に、
「リシャールが置いていったの。彼のお母さまの形見ですって」
「ガンディア王妃は健在のはずだが」
「彼のお母さまは早くに亡くなって、今の王妃さまは再婚だそうよ」
母は指輪を見つめ、まろやかな笑みを浮かべた。
「そのような大切な指輪を置いていくとは、どうやら彼は本気らしいな」
そこで叫んだのは勇駿である。
「いかんいかん、絶対にいかーん!」
日頃は穏やかな父の変貌ぶりに梨華は眼を丸くする。
「どうしたの、父さま?」
「結婚なんて、絶対にいかん! だいたい昨日会ったばかりだろう? 軽薄すぎる。実にけしからん。人の大切な娘を何だと思ってる !?」
阿梨は息巻く勇駿をなだめるように、
「世の中には一目惚れ、というものがあるらしいぞ」
「第一、結婚など、まだ早すぎる!」
「別に早くはないぞ。梨華とて年頃の娘だ。求婚する男の一人や二人いてもおかしくはなかろう」
「いいや、梨華はまだ十八だ。誰が何と言おうと早すぎる!」
「あのな、勇駿、わたしが梨華の年にはそなたの嫁になっていたぞ」
勇駿はぐっと言葉につまるが、
「それでもダメだ! 梨華は勇利と共に水軍の後継者だ」
夫の頑固親父ぶりに阿梨は呆れ果てて、
「言っておくが、梨華の人生を決めるのは梨華自身だ」
再びぐぐっと言葉につまる勇駿をよそに、梨奈が無邪気に訊いてくる。
「姉さま、王子さまと結婚するの?」
「まさか、しないわよ」
梨華はさらりと答え、父を歓喜させる。
「あたしは海の民よ。リシャールにも言ったけど、海を離れて暮らすなんてできっこないわ」
彼を甲板から見送ると、食堂へやって来た梨華に家族が一斉に注目する。
「帰ったか?」
仏頂面で勇駿が訊く。
「うん。また明日来るって」
「明日も来るのかっ !?」
勇駿としては塩まいて二度と来るなと怒鳴りつけてやりたい気分だ。勇仁は渋面したまま腕組みし、勇利はどう言っていいものか、頭をぽりぽりとかいている。
家族の視線の集中砲火を浴びながら、梨華はテーブルの上にことり、と指輪を置いた。銀に海を思わせるサファイアがはめ込まれた美しい品だ。
「それは?」
一同を代表してたずねる母に、
「リシャールが置いていったの。彼のお母さまの形見ですって」
「ガンディア王妃は健在のはずだが」
「彼のお母さまは早くに亡くなって、今の王妃さまは再婚だそうよ」
母は指輪を見つめ、まろやかな笑みを浮かべた。
「そのような大切な指輪を置いていくとは、どうやら彼は本気らしいな」
そこで叫んだのは勇駿である。
「いかんいかん、絶対にいかーん!」
日頃は穏やかな父の変貌ぶりに梨華は眼を丸くする。
「どうしたの、父さま?」
「結婚なんて、絶対にいかん! だいたい昨日会ったばかりだろう? 軽薄すぎる。実にけしからん。人の大切な娘を何だと思ってる !?」
阿梨は息巻く勇駿をなだめるように、
「世の中には一目惚れ、というものがあるらしいぞ」
「第一、結婚など、まだ早すぎる!」
「別に早くはないぞ。梨華とて年頃の娘だ。求婚する男の一人や二人いてもおかしくはなかろう」
「いいや、梨華はまだ十八だ。誰が何と言おうと早すぎる!」
「あのな、勇駿、わたしが梨華の年にはそなたの嫁になっていたぞ」
勇駿はぐっと言葉につまるが、
「それでもダメだ! 梨華は勇利と共に水軍の後継者だ」
夫の頑固親父ぶりに阿梨は呆れ果てて、
「言っておくが、梨華の人生を決めるのは梨華自身だ」
再びぐぐっと言葉につまる勇駿をよそに、梨奈が無邪気に訊いてくる。
「姉さま、王子さまと結婚するの?」
「まさか、しないわよ」
梨華はさらりと答え、父を歓喜させる。
「あたしは海の民よ。リシャールにも言ったけど、海を離れて暮らすなんてできっこないわ」
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