海の民の乙女 ─王妃になりそこなった少女─

時野みゆ

第3話 母譲りの才

 最初は相手にしようとしなかった男たちも、口の悪い小娘に言いたい放題言われて表情が険しくなってくる。
「怪我しないうちに早く家に帰りな。それともお嬢ちゃんがこいつに代わって金払ってくれるかい?」
 青年の方を顎でしゃくる男たちに、
「お金なんて持ってないわよ。たとえ持ってたって、あんたたちみたいなのに払うお金はびた一文ないわ」
「……小娘がずいぶんと言ってくれるじゃないか」
「梨華!」
 勇利があわてて駆け寄り、止めに入ろうとする。
「おまえも仲間か? 最後にもう一度だけ言うぞ。怪我したくなかったら金出してさっさと行っちまいな」
「それが……誠に申し訳ないんですが、本当にお金は持ってないんです」
 停泊している船から降りて、その辺を散歩したらすぐ戻るつもりだったので、梨華の言う通り、兄妹は文無しなのである。
「何だって !? おまえら、俺たちを馬鹿にしてるのか !?」
 勇利は内心で大きくため息をついた。ここまで相手を怒らせてしまったら、もはや平和的解決は不可能だろう。
 腕には自信があるらしく、男たちがボキボキと指を鳴らす。
「恨むなら余計なお節介をした自分を恨みな!」
 叫ぶと同時に男のひとりが梨華につかみかかっていく。
 次の瞬間、男のみぞおちに梨華の強烈な蹴りが炸裂した。男は信じられないという風に眼を見開きながら、その場に崩れ落ちる。
 梨華は拳法の達人だ。拳法だけではなく、剣、弓、体術、あらゆる武術に秀でている。母譲りの才だ。
 それまではにやにやと笑って余裕をみせていた男たちの顔色が変わった。梨華を見る眼つきが真剣になる。
 勇利の背後にも男がひとり回り込んで襲いかかってくる。勇利はすっと身をかがめ、男の脇腹に的確な肘鉄(ひじてつ)をくらわす。

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