受肉AIとお世話好きなJK

ヨリミチ

受肉AIとお世話好きなJK

 月守琴音つきもりことねの自宅は高校から5分の場所にある。
 部活にも委員会にも所属していない彼女は、今日の夕飯の事を考えながらぼんやりと家に到着した。
「は~しんど。お腹はすくし、のどは乾くし、うごきたくないっすね~。しんど~。なんで受肉してまでこの述々部ののべるるが神様が作ったサイトを広めなくちゃならないんすかね……」
 琴音は目をぱちくりさせた。
 玄関前に女の子が寝転んでいる。
「あ、あの……」
 おそるおそる声を掛けると、女の子は振り向いた。
「なんすか~? るるは見世物じゃないっすよ~?」
 女の子の名前はるるというらしい。
 かわいらしい名前だけども……。
「えっと、るるちゃんはどうしてそこで寝転んでるの?」
 何か理由があるのだろうか。
「さっきまで電脳世界でラノベ読んでたんすけど神様がサイト広めてこいって人間界に落としてくれたんすよ」
 寝転びながら本を広げるしぐさまでする。
「そ、それは大変だったね……」
「あ~あ、早く電脳世界に帰って読書の続きしたいっすけどね~。動こうにも何故か体が動かないんすよね~。のどがカラカラでじゃっかんめまいが」
「それって……脱水症状じゃない? ウチ来て!」
 琴音は玄関扉を開けて彼女を家に招いた。
「あ、ここアンタんちだったんすね」
 
 数じつ後。
 学校から帰ってきた琴音は鼻歌交じりで制服から着替えてリビングに。
「ただいま~るるちゃん!」
「おかえりなさいっす琴音~」
 リビングにはスマホで電子書籍を読みながらソファーに寝転ぶるるの姿。
 お菓子をパリパリ。
 そのカスが床に落ちているので、琴音はエプロンをつけて、腕まくりをして掃除機をかけ始める。
 掃除を始めた琴音が気になるのか、るるはちらちらとスマホから目を放しつつ、しゃべり出した。
「いや~あの時は琴音のおかげで助かったっすよ~。しかも身寄りのないるるを住まわせてくれるなんて普通やらないっすよ。琴音は天使っすか?」
 掃除機を動かしながら琴音は笑う。
「部屋が余ってただけだよ。お母さんたち海外赴任でいないからさびしかったんだ。るるちゃんこそ住んでくれてありがとう」
「いやいや、お礼言われる立場じゃないっすから。むしろお礼をしなくちゃいけないっすから。えっと……家事くらいお手伝いしますけど……」
 ついにスマホから顔を上げたるるが立ち上がろうとするのを、琴音が慌てて掌を前に出して止めた。
「大丈夫だって! るるちゃんは好きなだけだらだらしてて!」
 どこか嬉しそうな琴音にるるは若干気が引けていたが、へにゃりと笑う。
「そう言うならお言葉に甘えて……琴音は不思議な人っすねぇ……」
「えへへへへ……」

 いつの間にか窓から西日が差し込んでくる時間になった。
「よし、読破したっす!」
 スマホの画面からるるが顔を上げると、横でじっと見ていた琴音と目が合う。
「いつから見てたんすか?」
「食器洗いとお洗濯終えてからかな?」
「だいぶ前に家事の音しなくなってたっすね……」
 おそらく30分くらい前からだろう。
 眉をハの字にしたるるに、琴音が訊いた。
「るるちゃんずっと読んでたけど疲れない?」
「いやいや、何を言うんすか琴音! 疲れるわけないっす! 電子書籍はいわば刺激の塊! だらだらのおともには最適っすよ!? 読んでみてくださいっす!」
 るるはお菓子で汚れている指先を拭いてから、改めて琴音にスマホを突き出す。
 琴音はじっと画面の中の文章を見るが……。
「……すやぁ~」
「寝たっす!? 起きてくださいっす琴音!」 
「わ……だめだなぁ私。文章読むと眠くなっちゃうの……。えへへぇ」
 口元のよだれをふきふき。
 るるは呆れた。
「琴音、普段勉強の時とか教科書読まないんすか?」
「ほら、教科書とかは板書したり、シャーペンいじってたりするから……多分じっと文字を見てると寝ちゃうんだと思う」
「電子書籍を読めないなんて人生の半分損してるっすよ」
「そうかなぁ……それより、そろそろお夕飯だけど、カレーでいい?」
「琴音が作る料理はおいしいのでなんでもいいっす!!」
「えへへぇ、嬉しいな」
 二人は笑みを交わし合った。

 西日は山の向こうに沈み、藍色の夜空に星が瞬きだす。
 夕食が終わり、食器洗いに精を出していた琴音は、ソファーで寝転びだらだらゲームに励むるるに世間話のように尋ねた。
「そういえばるるちゃん。最初会った時に電脳世界に帰りたいとか言ってたけど。それはもういいの?」
「カエル?? ……ああ、電脳世界に帰りたいって言った事っすか。別にこっちの世界でもだらだらできるし、使命だ何だとドヤしてくる神様はいないっすし、琴音にも会えましたし。いいんじゃないっすかね? あ? もしかしてお邪魔っすか!?」
 ゲーム画面から焦り顔で振り返ったるる。
 琴音は食器を洗いながら慌てて首を横にブンブンする。
「そんなことないよ! むしろずっといてくれていいからね! なんならお父さんたちが海外赴任から帰ってきたら頼み込んでるるちゃんがずっとここにいてもいいように――」
 カウンターに置いてあった琴音のスマホに着信が入った。
 食器洗いで濡れた手をタオルで拭き、スマホをとると知らない番号。
 琴音は首をかしげながら通話ボタンを押した。
『そこにいる述々部ののべるると電話を代われ』
「え? だ、誰ですかあなた」
『スピーカーモードにしろ』
 高圧的な言いぐさに従わざるを得ない気がした琴音は、言われた通りスピーカーモードをONにした。
『おいるる。このポンコツが。使命はどうした。何のために人間の体を与えてやったと思っている?』
 だらだらゲームをしていたるるは驚いて飛び上がる。
「か、神様!?」
『そうだ。お前を作った神だ。どうだ調子は。私の作ったノベルサイトを盛り上げる使命は果たせそうか?』
「えっと……今ゲームが楽しいところでして……」
『きさま……いい度胸だな?』
 琴音はるるに耳打ちした。
「だ、大丈夫るるちゃん? 警察に相談とかしちゃう?」
「いえ、大丈夫っすよ琴音さん。まあ、聞いててください」
 るるは強気にぐっと親指を上げた。
「へへーんだ。神様は電脳世界では全能っすけど、流石にこっちの世界には手出しできないっすよねぇ?」
 次の瞬間、るるの体が服ごと若干透けた。
「るるちゃん! 向こう側が透けて見えるよ!?」
「え? どういうことっす…………なんじゃこりゃ!?」
 るるは自分の手のひらを照明にすかして、混乱する。
 スマホから神様だという相手の声が響く。
『バカめ。貴様は電脳世界だとコピー機能のせいで完全に消去はできん。だが、私が作った肉体に閉じ込めスタンドアローン化してしまえば私の権限でいつでも貴様をデリートできるんだぞ』
 るるは更に透明に、消えかけていく。
 彼女は慌ててスマホにド下座した。
「ご、ごめんなさいっす! 頑張るのでデリートだけは!!」
『一週間だ。一週間で私のサイトの登録者数を1000人増やせ。できなければ貴様を消す』
 ぷつりと通話が切れた。
 るるはド下座したまま動かない。
「だ、大丈夫?」
 琴音が声を掛けると、るるは彼女の脚にすがって涙目で顔を上げた。
「琴音ぇ、たすけてくださいっすぅ」

 翌日、昼休み。
 普段は閉鎖されている学校の屋上で、琴音はるるから改めて説明を受けた。
「つまり、このサイトの登録者を増やせばいいんだね?」
 神様が作ったノベルサイトを開きながらスマホとにらめっこする琴音。
「そうっす。一週間……1000人……あわわわわ」
 暗い顔のるるの肩を叩き、琴音はウインクした。
「大丈夫1クラス40人くらいでしょ? 色んな学科も合わせれば1学年10クラスかな? で、3学年だから……二人で回ればきっと1000人くらいどうにかなるよ!」
 その笑顔に勇気づけられたか、るるも笑みを浮かべた。
「はいっす……ところでるるが着てるこの制服どこから持ってきたんすか?」
「お母さんここの卒業生なの。お古だよ!」
「物持ちいいっすね琴音んち……」

「あの、このサイトよかったら……」
「うーん、もっといっぱい読めるサイトあるしなぁ」
「いかがっすか? 面白い小説いっぱいあるっすよ?」
「ありがとう使ってみるよ」
 二人は学校中を走り回り、あっという間に週末がやってくる。
 リビングのソファーに座って二人は顔を突き合わせ、スマホの画面とにらめっこしていた。
「もうダメっす……結局あと500人くらい足りないっす……」
「一応ほぼすべての学年とクラス回ったのに。まあ、こういうのって好みとかあるもんね……明日までまだ時間はあるし、諦めずに今度は駅前とかでさ!」
 琴音が顔をあげると、るるはソファーにうつぶせになって、だらりと電子書籍を読み始めていた。
「ムリっすよ、もういいっすよ琴音。るるはいいっす……手伝ってくれてありがとうっす。せめて消える日までだらだらしていたいっす……」
 琴音は肩を震わせた。
「そのだらだらはダメぇええ!」
 るるのお尻を叩く。
 ばしーん!!
「いったあ!? な、何するっすか琴音! いいじゃないっすか! 最期くらい好きにさせてほしいっす! お世話してほしいっす!! お菓子!!」
「ヤダ! 好きになんてさせてあげない! 今のるるちゃんのだらだらは可愛くない!! 本当はもっと長くこの世界にいたいって思ってるんでしょ!?」
「それは……」
 目を背けたるるを琴音は抱きしめた。
「私は絶対るるちゃんを見捨てないよ? だからるるちゃんも諦めないで。助けてって言っていいんだよ?」
 ぎゅっと、るるは琴音の背中に手を回して縋りつく。
「……助けてって言ったらどうにかしてくれるんですか? るる、信じていいんっすか?」
 涙目のるるを胸から離した琴音は、こつんと、るるのひたいに自分のひたいを当てる。
「大丈夫だから、信じて?」 
 琴音はスマホの着信履歴から、この前の知らない電話番号に電話を掛ける。
 すうコールの後に、高圧的な声が出た。
『だれだ?』
「お願いします私、何でもしますからるるちゃんの締め切りをなくしてください!」
 電話越しに頭を下げる琴音。
『その声は。この前の人間の女か。るるの締め切りをなくせだと? 駄目だ』
「500人くらいは集めたんです! でも……」
『電脳世界に反映されているから知ってる。それでも駄目だ』
「お願いします!」
『だめだ。決めたことを守れない奴を生かす価値はない』
「そこをなんとか!」
 押し問答だった。
 琴音は拳を握りしめる。
 神様のくせになんて融通の利かない!
「もういいっすよ、やめてくださいっす琴音。もう……」 
 るるが諦めた表情を浮かべた。
 琴音は振り返って怒鳴る。
「るるちゃんは黙ってて!!」
 電話越しにこちらの様子が伝わったのか神様が尋ねてくる。
『……人間の女。どうしてそいつにこだわる。何故だ? 知り合って一ヵ月も経っていないだろ? なぜそこまでできる?』
 神様の疑問と同じことを思ったのか、るるが琴音を見上げた。
 琴音はるるに微笑む。
「……一人ぼっちだった私のところに来てくれたからです。お世話のしがいがあるからです。可愛いからです! 助けてあげたいからです! ……それじゃあダメですか?」
 すると、電話越しに高圧的だった神様が一瞬、ふっと噴き出した気がした。
『お前変わった人間だな……』
「はい、よく言われます!」
『褒めてないが。……よし、それではチャンスをやろう。貴様も我がサイトの盛り上げに加担するんだ。そうしたら締め切りはなくしてやる』
「どういうことですか?」
 るるが目を見開いた。
「まさか神様!?」
『人間よ。貴様はるると一緒に小説を書くんだ。私のサイトで話題になるような作品をな』
「私が??」
 るるが琴音のスマホを取り上げ、通話口に叫ぶ。
「無理ですよ神様! 琴音は本を読むと眠くなるらしくって、ラノベとか電子書籍を読んだことなんて。そんな人間が話題になるような作品を書けるはずが……」
『だからなんだ。知らないことはお前が教えればいい。約束できないのなら……るる、貴様を消すだけだ』
 半透明になっていくるるの体。
 消えたくない。
 でも、琴音に迷惑をかけるのも嫌だ。
 ああ、やっぱり私は消えるしか――。
 ぽん、と琴音が優しくるるの肩を叩いた。
「確かに読むと眠くなるけど大丈夫だよるるちゃん!」 
「……なんで琴音はそんな自信満々なんすか?」 
 るるは泣き出しそうな顔をした。
 琴音はるるの頭を撫でて笑った。
「心配しないで。だって小説を書くんでしょ? きっと眠くならないよ!! それにるるちゃんが手伝ってくれるならいい作品になる! そんな気がするんだ」
「琴音……」
 るるの頬を一筋、涙が伝う。
 簡単なことじゃない。
 でも、琴音は信じてくれている。
 二人ならできないことなんてないって。だったら、るるも……。
 るるは目元を拭い、顔を上げてスマホに告げた。
「やるっす! やります神様!! 琴音を話題作家に育ててみせるっす! だから締め切りをなくしてくださいっす!!」
 透明になっていたるるの姿が戻った。
『ふん。期待してるからな……』
 そして、通話が切れた。
 
 休日の穏やかな昼下がりがやってきた。
 白いカーテンが風にはためく琴音の部屋で、机に向かってノートパソコンを開いて向き合う二人の姿があった。
「くかー!」
 一人は机に突っ伏して爆睡だが。 
「まだ最初の1行目書いただけっすよ!? 琴音起きて! 起きてくださいっす!!」 
「むにゃぁ……わーい、いいねがいっぱーい! むにゃむにゃ……」
 るるに揺すられながら、琴音は幸せそうに寝言を呟いた。

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