離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

 ファルとアヤの女子二人組は、慌ててトゥールの腕を取るとその場から立ち去っていった。
 去って行く三人の背中が、どんどん小さくなっていく。

「……あの二人に勘違いさせたままでよろしいのですか?」

「アヤちゃんが楽しんでいるのなら、今はこのままでもいいと思うの。迷惑かしら?」

「いいえ。ライラ殿がそれでよろしいのでしたら、私は構いませんが……」

「ファルちゃんには後でちゃんと言っておくから、安心してね」

 ライラは三人の姿が見えなくなるまでしっかりと見送った。それから小さくため息をついて、エリクに声をかける。

「…………はあ、気のせいかしら。まだ視線を感じる気がするのだけれど?」

「奇遇ですね。私もそう思っていたところです」

 ファルとアヤの気配はもうしない。大人しく帰ってくれたらしい。
 
「今度のお客さまは、飴を買い与えたら追い返せるような方々じゃないような気がするわ。おじさんの意見はどうかしら?」

「……言っておきますけどね。私がおじさんなら、あなたは」

 ライラはエリクにそれ以上は言わせず、抱き着いていた彼の腕をおもいきり抓った。

「──っそうですね! とりあえず適当におびき出しましょうか」

 エリクは痛みをこらえながら、表情を崩さずに微笑みを浮かべている。そんな彼を見て、ライラは鼻で笑った。

「あら、大胆ね。様子見をしなくていいのかしら?」

「様子見していてボロを出すような雰囲気でもありませんしね。時間の無駄になるのは避けたいです」

 エリクはそう言ってから、ライラの手を包み込むようにしっかりと握った。彼はそのままライラの手を引いて速足で歩き出す。

「街中では市民を巻き込んでしまいます。街の外におびき出しましょう」

「賛成。今度は大人しくついて行きますわね」

 にこりと満面の笑みを浮かべて、ライラはエリクを見上げた。尾行されていることに気が付いていると悟られないように、デートのふりを継続する。

「街の外だったら多少は無茶しても構わないのかしらね」

「……多少ですか? ほどほどになさってくださいね」

「ふふふ、それは相手次第じゃないかしら?」

 エリクは諦めたように肩を落としてから、ライラに微笑み返してきた。
 
 そうして、エリクは街の外へ出るため、街を囲む城壁にある通用門にライラを連れてきた。
 エリクはそこで警備兵から馬を一頭借りると、ライラを乗せて街の外にある森へ向かった。

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