離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

「あのー、侯爵さまってどんな方なのですか?」

 すっかり執務室の空気が冷え切った頃、ファルが唐突に尋ねてきた。
 ファルの目は真剣だった。マスターのようにライラをからかうような雰囲気は一切ない。
 真っすぐに見つめられて、ライラはどう答えたものかと迷ってしまう。

「軍人として優秀な男です。領主としても品行方正で領民に好かれていますし、基本的に悪い男ではありません」

 ライラが戸惑っている内にマスターが話だした。

「ただ、異性関係に少し不器用なところがありまして……。本当に根は悪い男ではないのですよ」

「それって女にだらしないってことだろ。品行方正って言えねえじゃん」

 イルシアがずばりと言った。ファルが顔を青褪めさせて慌ててイルシアの口を塞ぐ。

「あは、あははははー……。いいのよファルちゃんそんなに慌てなくて。その通りだから」

 ライラはファルに向かって苦笑いをする。
 すると、マスターがやれやれと頭を振って呆れながら口を開いた。

「別に友人だから肩を持つというわけではないですけど、ライラさんはあいつと話をした方がよいと思いますよ。せっかくですからこの機会に……」

「私は何度も話そうとしたわよ! だけど、あの人はちっとも私の話を聞いてくれなかったの 」

 ライラはマスターの話を遮って大きな声を出した。
 
「だからあいつは不器用なのですよ。愛する女性の前で隠し事ができない男なのです」

「──知ったような口を利かないで!」

 ライラはそう叫んで勢いよくソファから立ちあがった。

「あなたは当事者じゃない。勝手なことを言わないで!」

「当事者じゃないからこそ知っていることがあります。だから話し合えって言っているのです」

 マスターも続いて立ちあがる。彼は真剣な顔をしてライラの目を見つめてくる。

「……ふーん、素敵な友情ね」

 ライラはマスターを見上げながら鼻で笑った。

「話はこれだけね。わざわざ知らせてくれてどうもありがとう」
 
 ライラはそう言ってマスターに背を向けた。
 そのまま部屋を出ようと扉に向かう。今度はセアロも止めにこなかった。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品