離婚したので冒険者に復帰しようと思います。
3
冒険者登録試験のあった翌日、目覚めたライラの顔は酷いものだった。
いつもにまして顔色は白いのに、目は充血して赤い。
「久しぶりの憑依の影響かしら? 老いって恐ろしいわね」
ライラは顔を洗って身支度を整えると、頬を叩いて気合いを入れた。
「おっはよー。てゆうか、もうお昼になるけどね。調子はどうよ?」
ライラが食堂フロアに顔を出すとルーディにそう声をかけられて壁の時計を見た。
時刻は午前十一時。
寝過ごしてしまった自覚はあったが、それにしても遅い時刻にライラは目を疑った。
「うそでしょ……。私ったらそんなに寝ていたのね。ごめんなさい、あと三十分で営業が始まるわね」
ライラは開店準備の邪魔をしては悪いとすぐに食堂フロアを出ていこうとするが、ルーディは笑って引き止めた。
「そんなの気にしないの。試験前は余裕そうにしていたのにさ。いざ受けて帰ってきたらへろへろだねえ」
ルーディは豪快に笑ってライラの背中を叩く。
それを見ていたジークが苦笑いしながらカウンターに食事の乗った皿を並べていく。
「……いつもありがとう。いただくわね」
ライラは食事の用意されたカウンターの席に向かう。
食事はいらないと伝えたはずなのに、どうして今日は用意してくれるのだろうと不思議に思いながら椅子に座った。
せっかく用意してくれたのだし、無碍にするのは悪い。スープだけでも一気に飲み干せば大丈夫だろうと、自分に言い聞かせる。
ライラはおそるおそるスープの入ったカップに手を伸ばして口をつけた。
「……あれ? どうして……」
スープの味を舌で感じて、ライラは衝撃を受けた。それと同時に、昨日ここに帰ってきてからの出来事をぼんやりと思いだす。
「……そうだ、昨日もはちみつの味がしたんだ。でも、その後はどうしたんだっけ……?」
試験が終わり、ここへ帰ってきたことまでははっきりと覚えている。
しかし、そのあと何をしていたのかまったく思い出せない。
「あ、ライラさんやっと起きてきたのですね! もう大丈夫ですか?」
ライラが考え込んでいると、店の扉が開く音がした。
そのすぐ後にファルの声が聞こえて、ライラはゆっくりと視線を店の入り口に向ける。
「……お、おはようファルちゃん。えっと、どうしてここに?」
「おはようございます。もうこんにちはのような気がしますけどね。あれ、昨日も来たのですけど、忘れちゃいましたか?」
「え、そうだったかしら? ごめんね、なんだか昨日帰ってきてからの記憶が曖昧なの」
「なんだか混乱されてましたもんね。もう落ち着きましたか?」
ファルはルーディとジークに会釈をしながら、カウンターに座るライラの元までやってきた。
「私が、混乱していたの? どうしよう、何も思い出せないわ」
ライラが腕を組んで昨日の出来事を思いだそうとしていると、ファルのあとをついてきていたイルシアが顔をしかめて面倒くさそうに言った。
「んなのどうでもいい。待ちくたびれたから、さっさと行こうぜ!」
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