離婚したので冒険者に復帰しようと思います。

黒蜜きな粉

 女の手がライラの肩に触れようとしたそのとき、慌てた様子の使用人が二人ほど食堂の中に飛び込んできた。
 使用人たちは食堂内の様子を目にして、さっと顔を青褪めさせる。この場でなにが起きているのかを、瞬時に理解したらしい。
 使用人の二人は顔を見合せて互いに大きく頷いてから、取り乱している女に飛びついて動きを封じてしまう。二人が食堂に姿をあらわしてからあっという間の出来事だった。

「アンタたち何をするのよ、ちょっとやめて! 離しなさいよおおおおお ︎」

 ライラが使用人たちの動きを眺めながら、息がぴったりだなと呑気に考えていると、女が大声でわめきだす。
 女は使用人の二人にがっちりと身体を押さえつけられて、まったく身動きが取れなくなってしまっている。
 女は自分にしがみつく使用人たちを、ふりほどこうとして暴れはじめた。必死の形相で身体を動かしているが、華奢な女一人では大人二人相手にどうしようもない。
 女は悔しそうにうめき声を上げて身体を捻りながら、するどい視線でライラを睨みつけてくる。

 使用人たちが身体を張って女を止めてくれたおかげで、彼女の手がライラの身体に触れることはなかった。
 ライラは心の中でそっと安堵の息を吐きながら、若く美しい女のみっともない姿をただ黙って横目で眺めていた。
 しかし、いつまでもこうしていたって仕方がない。
 使用人たちは、ライラが指示を出さなければいつまでもこの場に女を拘束したままなのかもしれない。

 ライラは女から視線を逸らし天井を見上げた。そこに施されたきらびやかな装飾を眺めながらゆっくりと腕を組むと、これからどうしたものかと考え始める。

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