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理想の下半身と出会った

ヨリミチ

理想の下半身と出会った

 桜の木々に囲まれた深夜の公園に人間の影はない。
 点いては消える照明が、遊具を照らしているだけ。
 あとはキイキイと、夜風に揺れるブランコの一つに、誰かが乗っているだけだった。
「はぁ……どこかに落ちてないかなぁ」
 彼女は透き通るような銀髪をなびかせて、物憂げにブランコを揺らす。
 10代後半~20代前半の女だ。
 純白のトップスの腰から下は存在しておらず、両腕の力だけでブランコを漕いでいた。
「私に合う下半身……落ちてないかなぁ。そうすれば見た目は人間に戻れるのに。野宿しなくて済むのに……」
 彼女は流れのはやい雲が浮かぶ夜空を見上げた。
 雲の切れ間に、一筋の流れ星が。
「!! きめ細やかな肌の下半身! 細身で健康的な下半身! すらりとしてキレイな下半身!!!!」
 両手を組み合わせて早口で一生懸命祈る彼女は、ブランコから投げ出され宙に舞った。
 目を閉じていたせいで気づかず、祈り終えて目を開けた彼女の目前には地面が猛然と迫っていた。
「あぁああああああああああ!?」
 顔面から砂場にダイブ。
 砂を払いながら両手で起き上がる。
「ぺっぺ! 最悪なんですけど!? うえぇ、口の中じゃりじゃりするぅ」
 目をこすりながら、手を動かして砂場から脱出した彼女は、汚れた白いトップスもよく手で払った。
 もう一度夜空を見上げるが、雲が星を覆ってしまい、流れ星は見えそうにない。
「はぁ~~~~帰ろう……」
 よっこらせ、と彼女は重い上半身を上げてテケテケと両手で歩き出す。
 ヒュウウウウウゥ……ドジャアアアアァ!!
 公園の地面をえぐりながら、何かが着弾した。
「なになになに!?」
 土煙にせき込んで、収まるのを待っていた彼女は、地面に着弾したモノに唖然とする。
 ショートパンツからのぞく太ももは細身できめ細やかなお肌が輝かんばかり。
 すらりとした曲線を描くふくらはぎは程よい肉付き。
 それは、全体的に血色のいい健康的な下半身だった。
 その証拠に、ちょうどちぎれたばかりなのか勢いよく血を噴き出している。
 明らかに事件の匂いがするが、彼女は目を丸くしただけだった。
「これって……私にピッタリな下半身じゃない! 流れ星さんありがとう!!」
 テケテケと、両手で歩み寄った彼女は新鮮な血肉がのぞく断面に己の断面をくっつける。
 もちろん遺体損壊、遺棄、横領などという言葉を彼女が気にすることはない。
 常識なんて言葉は両手のみで歩くようになってから捨てている。
「ふふふ、あははは! 馴染む! 馴染むわこの下半身!! これでやっと人並みの生活ができる!!」
 そうして二本脚で立ち上がった『ニンゲン』は新生活を求めて深夜の街へと駆け出した。

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