17.

皆一様にこちらを睨んでいる。
その視線に恐怖を感じていると、父が口を開いた。
「いいか、よく聞け、貴様はもう、この国に必要ない、よって、ここで処刑する」
その言葉に耳を疑った。
まさか、本気で言っているのだろうか？
そう思った次の瞬間、兵士たちが一斉に襲いかかってきた。
必死に抵抗するものの多勢に無勢であっさりと取り押さえられてしまった。
「離せ、離してくれぇぇ！」
そう叫ぶが聞き入れてもらえるはずもなく、俺は連行されていった。
連れて行かれた先で待っていたのは魔王の娘である、ミレアさんだった。
ミレアさんは悲しげな表情でこちらを見つめている。
そんな彼女に父が言った。
「すまないが、頼む」
ミレアさんは頷くと俺の方を見た。
その瞳には涙が浮かんでいる。
それを見た瞬間、嫌な予感がした。
そして、その予感は当たっていた。
彼女は俺に向かって呪文を唱えたのだ。
「我が力よ、彼の者に加護を与えよ、《ギフト》」
その瞬間、俺の意識は闇に飲まれた。
次に目を覚ました時、俺は見知らぬ場所に立っていた。
周りを見渡すが誰もいない。
どうやら一人でここに居るようだ。
辺りは薄暗く、不気味な雰囲気が漂っている。
その時、突然背後から声をかけられた。
驚いて振り返るとそこには、一人の男が立っていた。
男は微笑みながら言った。
「やあ、こんにちは、君は誰かな？」
その質問に俺は答えた。
「俺はリュート、今日からここにお世話になることになりました」
そう言ってお辞儀をすると、男も同じように返してきた。
それを見て俺は思う。
（この人は悪い人じゃないみたいだ）
そう判断して話しかける。
「それで、ここはどこなんですか？」
そう聞くと男は言った。
「ここは、私が管理している空間だよ」
その言葉に首を傾げる。
（どういうことだ？）
そう思っていると男が説明してくれた。
「簡単に言うと、夢の中みたいなものかな、まあ、深く考えなくていいさ」
そう言われて納得した。
（なるほど、夢か）
そう思うと、そっと、微笑まれる。
「その、どうして、俺は父さんに見捨てられたのでしょうか？」
「リュート、君は、魔王クロード・エルジオル・ヴァンデリアの本当に息子だと思うかい？」
「えっ、どういう意味ですか？」
訳が分からず聞き返すと、彼は言った。
「つまりね、君には本当は父親なんて居ないんだよ」
その言葉を聞いた瞬間、目の前が真っ暗になった。
（父さんが本当の父親ではない？）
混乱する俺に向かって彼は言う。
「君の父親の名前は、エル、一般的には、英雄と呼ばれているらしいね、そして、君の母親であり、先代の聖女でもある女性が母親だ」
それを聞いてさらに混乱した。
（母さんが、聖女？）
その事実を受け入れる事が出来ずにいると、彼が言った。
「信じられないのも無理はない、でも、リュートというのは、偽りの名で、君は、偽りの世界に置かれている」
「そんな」
「君は、ただ拾った、クロード・エルジオル・ヴァンデリアに恩を感じ、たまたま、偽りの母親の言葉で父親と信じ込んだに過ぎない、たって君の本当の父親は、英雄エルなのだから、君が手にできた聖剣が何よりのあかしだろう、まぁ、それも、今や、魔族の君には、装備出来ぬ代物だな」
「如何して、クロード・エルジオル・ヴァンデリアは俺にそんな事を……」
「聖剣は、唯一、魔王を殺す剣なんだ、だから、それを持つ君を、飼い殺しにする事にしたのだろう、だって、君は魔族に成っているのだから、聖剣の力は引き出せないだろうからね」
「嘘だ、そんなのは嘘に決まっている」
そう言って俺は駆け出した。
だが、すぐに追いつかれてしまう。
そして、押し倒されてしまった。
馬乗りになりながら、俺の首に手を掛ける。
徐々に力が込められていき、呼吸が苦しくなる。
「くっ、はな……せ」
抵抗しようとするも、びくともしない。
意識が遠退いていく。
「大丈夫か？　リュート」
「え？　父さん」
思わず、そう言ってしまった。
すると、次第に視界が開けて、目を覚ます。
目の前には心配そうにこちらを覗き込むアリアと父クロードの姿があった。
どうやら、彼女に膝枕されているようだ。
慌てて起き上がろうとすると止められた。
仕方なく横になっていると彼女が聞いてきた。
「大丈夫ですか？」
それに答える代わりに頷いてみせると、安心したのか微笑んでくれた。
（やっぱり可愛いなぁ）
そんな事を考えていると、不意に頭を撫でられた。
びっくりして見上げると、優しく微笑む彼女と目が合った。
なんだか恥ずかしくなって顔を背けると、くすくすと笑われてしまった。
（うぅ、恥ずかしい）
「人の前で、何をしているんだ、ちなみに、そこまで仲が良いのなら、娶れいいだろう、リュート」
唐突にそんな事を言われて驚くも、確かにその通りだと思った。
（こんな可愛い子と結婚できるなら悪くないかも）
そう考えた俺は、思い切って言ってみた。
「あの、アリアさん」
名前を呼ぶと首を傾げられたので、もう一度言う。
「アリアさん！」
そう言うと今度は伝わったようで返事をしてくれた。
「はい！ 何ですか？」
笑顔でこちらを見る彼女に意を決して言う。
「俺と結婚してくれませんか？」
そう言うと彼女の顔が真っ赤に染まった。
しばらく固まっていたがやがてゆっくりと頷いた。
父さんに言われて、半ば、強引な形で告白してしまったが、いいのだろうかと心配してから思い出すと父さんに聞いた。
「ねぇ、父さん、質問があるんだけど、俺の処刑はしなくていいの？」
そう尋ねると父さんは不思議そうな顔をして聞き返してきた。
「何を言っているのだ？　そんな物はとっくに取りやめにしたぞ」
それを聞いて安心すると同時に疑問に思った事を聞いてみることにした。
「それじゃあ何で俺をこんなところに連れてきたの？」
すると父さんは言った。
「ああ、それはな、お前への罰なのだよ」
それを聞いて唖然とする。
（それってどういう事だ？）
そんなことを考えていると更に続けた。
「お前をここに閉じ込めておく事でお前の行動を制限し、心を折るためのものだ」
そう言われて絶句する。
（そんな理由でわざわざこんな事をしたのか？）
あまりの理不尽さに怒りが込み上げてくる。