追放騎士のダンジョン探索記
14話
気持ち悪い。
胃の中がグルグルとして、嘔吐感が込み上げてくる。頭がガンガンと痛い。二日酔いをさらに悪化させたような症状だ。
体調は最悪。だが四肢は思いのままに動く。ここはどこだ? 『地界の迷宮』か? それとも外か?
“魔剣 レーヴァテイン”を使った代償に、魔剣を握った腕が死ぬ可能性があったのだが──右腕は問題なく動かせる。つまり、回復薬か『回復魔法』による治療をされたという事だ。
朦朧とした意識の中、思っている以上に動く右腕を動かし──何かに当たった。
……なんだ、これ。柔らか──くない。多少は柔らかくはあるが、その面積が少ない。手のひらに余裕で収まる程度の面積だ。精々、フニフニとした感触としか言えないだろう。
徐々に覚醒していく五感の内、視覚を何よりも真っ先に起こし──顔を真っ赤にしている見知った女性が視界に飛び込んできた。
後頭部に柔らかな何かが当たっている。枕ではない。こちらを見下ろしている女性を見るに、自分は膝枕をされているのだろう。
「……あなた……寝起き早々にセクハラとは、いい度胸ね……」
──回転しながら飛び起きた。
何を触っていた、とか認識している暇はない。今はただ、声の主に頭を下げるべきだと本能が告げたのだ。
着地の勢いそのままに、東端の国『ジパング』より伝わる最高峰の謝罪を体現する。
両膝と両手、そして額を床に擦り付け、ただひたすらに相手へ頭を下げるという謝罪。
すなわち──『ジパング』において土下座と呼ばれる謝罪方法であった。
「殺さないでください」
ケインの謝罪は、殺す以外ならば何をしてもいいという宣言だった。
ベッドに腰掛けていた女性は、体勢を変えて足を組んでケインを見下ろす。
「……それ以外に、感想は?」
「………………感想、ですか」
「そう、感想よ。うら若き女性の乳房を揉んで、どう思ったの?」
──思ったままを口にしたら殺される。
しかし、それ以外の表現が思い付かない。逆に、どう言葉に表したらいい?
たっぷり十秒、思考に思考を重ねたケインは──土下座の体勢のまま、呟いた。
「……私如きの童貞には、刺激が強すぎるものでした」
「あなた、童貞なの? ……ならいいわ。あなたが起きてくれたのが何よりだし」
童貞という言葉に、ならいいという返事はどういう事なのか──そんな事を思いながら、ケインはゆっくりと顔を上げた。
──見た事のない天井。見知らぬ室内。見覚えのないベッド。そのベッドに腰掛ける人物には、多少なりとも見覚えがあった。
シャルロット・アルルヴィーゼ──階級持ちの『探索者』。さあっと頭が冷えていく。
乳を揉んだ相手を認識し、ケインは再び額を床に押し当てた。
「……………」
「黙らないでもらえる? 私自身、体に自信がある方じゃないから。そこまで謝罪しなくてもいいわ」
確かに──いや、確かにと言ってしまったら殺されるのだが、シャルロットには乳房と呼ばれる部分が著しく不足していた。
だが、それでも男性を魅了するスラッとした手足。美しくもどこか幼さを感じさせるような顔。そんな顔に寄り添って育っているかのような、ほっそりとした胸部と臀部。
成人を迎えても未成熟と呼ばれるのは私だ──シャルロット・アルルヴィーゼという女性は、そう言われてもおかしくないほどの体格だった。
「……この度は、大変不躾な手癖でアルルヴィーゼ様に大変ご無礼を致しました。つきましては、ワタクシの命で払えるような対価を提示いただければと思います」
「さっきから何を言っているの? もう謝罪はいいから、顔を上げなさい」
シャルロットの許しをもらい、ケインは顔を上げる。
──本当にどこだろうか、ここは。ケインがいつも泊まっている安宿ではない。
キョロキョロと落ち着きなく辺りを見回すケインは、ふと何かに気づいたかのように目を見開いた。
「……階級持ちの生活拠点……?」
「そうよ。無理を言ってあなたをここに連れて来たわ。と言っても、あなたが起きるまでって条件だけど」
──生活拠点。
簡単に言うならば、それぞれの『探索者』が寝泊まりをしている場所の事だ。
階級持ちになると、無料の宿泊施設が提供される。ここは、階級持ちが暮らす生活拠点なのだ。
部屋の隅に置いてあった二本の魔剣と背嚢。そして右袖が焼けて無くなっている白いローブを見つけ、ケインは気になっていた事を問い掛けた。
「……俺、何日くらい寝てた?」
「一日も経っていないわ。時間的には半日くらいかしら」
「半日……ま、そんなもんか」
そんな事を話していると──コンコンと、部屋の扉がノックされた。
「空いているわよ」
「失礼しますね──あら? あらあらあら? その人、起きたのですね!」
扉の先から現れたのは──アクセルよりも幼い褐色肌の少女だった。
だが、細く尖った耳を見れば、幼いという感想は一瞬で吹き飛ばされるだろう。
腰まで伸びた長い銀髪をゆらゆらと揺らす幼女は、ケインの姿を見て嬉しそうに赤色の瞳を細めた。
ジャンヌ・ホープ──『銀級』の称号を与えられている『黒森精族』で、五種類の魔法を使う『五種魔法師』だ。
「良かったっ、とても良かったです! 魔力が欠乏し過ぎていたので、一時はどうなるかと思いました!」
「『人類族』は『森精族』と違って、魔力が無くなっても死なないと何度も説明したでしょう?」
「それはそれですけど、やっぱり心配になってしまいます! ……あれ? その人……よく見れば、魔獣化したフレア・ドレイクをシャルロットさんが討伐した時にいた方ではないですか?」
ズイッとケインの顔を覗き込んでくるジャンヌに、思わず体を引いてしまう。
「えぇ、あの時にいた『探索者』よ」
「やっぱり! ……というか、何故この人とシャルロットさんが一緒にいるんですか?」
「この人から、鍛えて欲しいって言われて。一緒に『地界の迷宮』を探索しているのよ」
「まあ、そうだったんですね! シャルロットさんに鍛えてもらうのは大変でしょうけど、お弟子さんも頑張ってくださいね!」
「は、はぁ……」
「それで、用件は? 私に何か用かしら?」
「あ、そうでした。下にお客さんが来てますよ? 『獣人族』っぽいような、『獣人族』っぽくないような……そんな感じの赤い髪の子です。階級持ちの方ではないので、外で待ってもらってます」
それでは、と言い残してジャンヌが部屋を出ていく。
「……『獣人族』っぽくて、『獣人族』っぽくないって……」
「間違いなくアクセルでしょうね。ケインがここにいる事は伝えていたから、心配で様子を見に来たんでしょう」
「なら、出迎えに行くか」
「悪いけれど、私は今から用事があるのよ。明日、また『地界の迷宮』の前で会いましょう」
「ああ」
背嚢を背負い、二本の魔剣を左腰に下げる。
ボロボロになってしまった白いローブを掴み、シャルロットの部屋を後にした。
近くにあった階段を下り始め──はあ、とケインはため息を吐く。
……とりあえず、上に着る物を探さないと。いつまでも半袖の黒シャツでいるわけにもいかない。
ケインの家族は、魔剣の柄を見るだけでヴァルハード家にあった物だとわかる。それを隠すために、わざわざ膝下までの長さのローブを着ていたのだ。
「……新しいの、買わないとな」
「──おや? キミは……ケイン、だったかな?」
階段を下り終えた直後、声を掛けられた。
視線を向けると──そこには、若い『人類族』の青年がいた。
綺麗に切り揃えられた金髪に、ケインと同じ淡い青色の瞳。腰には美しい装飾の施された剣をぶら下げており、鉄製の軽装備を身に付けている。
「あ、なたは……」
──エクスカリオン=ゼナ・ナイツフォルティ。『探索者組合』から『金級』の階級を与えられている最強の『探索者』だ。
「あれ? ケインで間違いないよね?」
「そ、そうです」
「良かった、目が覚めたんだね。話は聞いているよ、魔獣化したトレントの群れに襲われたんだってね」
「は、はぁ……」
「体の調子はどうだい? どこか痛む所はないかな?」
「無い……です。はい、問題ありません」
「それは良かった」
朗らかに笑うエクスカリオンに、釣られてケインも笑みを漏らす。
「あの、すいません。出口ってどこにありますか?」
「出口かい? こっちだよ、付いて来てくれ」
「あ、いや、案内なんてそんなっ……教えていただければ充分ですので」
「いいんだよ。この建物はどうにも複雑だからね。言葉で説明するのは、ボクとしても難しいんだ」
「……で、では……よろしく、お願いします」
「うん」
穏やかに笑うエクスカリオンに続き、ケインも長い廊下を歩き始める。
「それで……魔力不足になって倒れたと聞いたけど、本当に体は大丈夫なのかな?」
「多少は頭が痛いですけど、問題ありません」
「魔力不足になったという事は、魔法を使ったのかな? キミが使える魔法は確か……『土魔法』と『幻魔法』だったよね?」
「……よくご存知ですね」
「ボク個人としては、キミの事が気になっているからね」
「俺の事が?」
「うん。魔獣化フレア・ドレイクに、魔獣化ダークウルフ。そして昨日の魔獣化トレントの群れ……最近の魔獣の目撃情報の中には、必ずキミとシャルロットがいるから」
こちらを振り返るエクスカリオンの瞳に、ケインは一瞬だけ体を硬直させた。
──全部わかっているぞ?
そう語る瞳を正面から受け──ケインはヘラヘラと作り笑いを浮かべた。
「そうですね。毎回毎回アルルヴィーゼさんに頼りっぱなしで」
「そうなんだね。そう言えば、最近はシャルロットと一緒に探索をしているみたいだね。キミは一人で探索する事を好んでいると思っていたのだけど……何かあったのかな?」
「大した理由はありません。魔獣化したフレア・ドレイクから助けてもらった時に、弟子入りしたんですよ。俺が使えるのは『土魔法』と『幻魔法』だけなんで、最低でも自衛ができるようにはなろうと思って」
「その『土魔法』と『幻魔法』で、十四回も魔獣から逃げているだろう? フレア・ドレイクに遭遇した時は、逃げなかったのかい?」
「逃げられませんよ。俺の魔法はそこまで万能ではありませんから」
そんな事を話していると、生活拠点の出口に辿り着いた。
ケインの姿に気づいたのか、外にいたアクセルがブンブンと手を振ってくる。
「それでは、俺はこれで。案内していただきありがとうございました」
「なんて事ないさ。これからもシャルロットと仲良くしてやってくれ」
アクセルに手を振り返し、エクスカリオンの元を離れる。
遠ざかって行く二人の背中を見つめるエクスカリオンは──小さく呟いた。
「──次の『大規模攻略』には、彼も誘おうかな」
胃の中がグルグルとして、嘔吐感が込み上げてくる。頭がガンガンと痛い。二日酔いをさらに悪化させたような症状だ。
体調は最悪。だが四肢は思いのままに動く。ここはどこだ? 『地界の迷宮』か? それとも外か?
“魔剣 レーヴァテイン”を使った代償に、魔剣を握った腕が死ぬ可能性があったのだが──右腕は問題なく動かせる。つまり、回復薬か『回復魔法』による治療をされたという事だ。
朦朧とした意識の中、思っている以上に動く右腕を動かし──何かに当たった。
……なんだ、これ。柔らか──くない。多少は柔らかくはあるが、その面積が少ない。手のひらに余裕で収まる程度の面積だ。精々、フニフニとした感触としか言えないだろう。
徐々に覚醒していく五感の内、視覚を何よりも真っ先に起こし──顔を真っ赤にしている見知った女性が視界に飛び込んできた。
後頭部に柔らかな何かが当たっている。枕ではない。こちらを見下ろしている女性を見るに、自分は膝枕をされているのだろう。
「……あなた……寝起き早々にセクハラとは、いい度胸ね……」
──回転しながら飛び起きた。
何を触っていた、とか認識している暇はない。今はただ、声の主に頭を下げるべきだと本能が告げたのだ。
着地の勢いそのままに、東端の国『ジパング』より伝わる最高峰の謝罪を体現する。
両膝と両手、そして額を床に擦り付け、ただひたすらに相手へ頭を下げるという謝罪。
すなわち──『ジパング』において土下座と呼ばれる謝罪方法であった。
「殺さないでください」
ケインの謝罪は、殺す以外ならば何をしてもいいという宣言だった。
ベッドに腰掛けていた女性は、体勢を変えて足を組んでケインを見下ろす。
「……それ以外に、感想は?」
「………………感想、ですか」
「そう、感想よ。うら若き女性の乳房を揉んで、どう思ったの?」
──思ったままを口にしたら殺される。
しかし、それ以外の表現が思い付かない。逆に、どう言葉に表したらいい?
たっぷり十秒、思考に思考を重ねたケインは──土下座の体勢のまま、呟いた。
「……私如きの童貞には、刺激が強すぎるものでした」
「あなた、童貞なの? ……ならいいわ。あなたが起きてくれたのが何よりだし」
童貞という言葉に、ならいいという返事はどういう事なのか──そんな事を思いながら、ケインはゆっくりと顔を上げた。
──見た事のない天井。見知らぬ室内。見覚えのないベッド。そのベッドに腰掛ける人物には、多少なりとも見覚えがあった。
シャルロット・アルルヴィーゼ──階級持ちの『探索者』。さあっと頭が冷えていく。
乳を揉んだ相手を認識し、ケインは再び額を床に押し当てた。
「……………」
「黙らないでもらえる? 私自身、体に自信がある方じゃないから。そこまで謝罪しなくてもいいわ」
確かに──いや、確かにと言ってしまったら殺されるのだが、シャルロットには乳房と呼ばれる部分が著しく不足していた。
だが、それでも男性を魅了するスラッとした手足。美しくもどこか幼さを感じさせるような顔。そんな顔に寄り添って育っているかのような、ほっそりとした胸部と臀部。
成人を迎えても未成熟と呼ばれるのは私だ──シャルロット・アルルヴィーゼという女性は、そう言われてもおかしくないほどの体格だった。
「……この度は、大変不躾な手癖でアルルヴィーゼ様に大変ご無礼を致しました。つきましては、ワタクシの命で払えるような対価を提示いただければと思います」
「さっきから何を言っているの? もう謝罪はいいから、顔を上げなさい」
シャルロットの許しをもらい、ケインは顔を上げる。
──本当にどこだろうか、ここは。ケインがいつも泊まっている安宿ではない。
キョロキョロと落ち着きなく辺りを見回すケインは、ふと何かに気づいたかのように目を見開いた。
「……階級持ちの生活拠点……?」
「そうよ。無理を言ってあなたをここに連れて来たわ。と言っても、あなたが起きるまでって条件だけど」
──生活拠点。
簡単に言うならば、それぞれの『探索者』が寝泊まりをしている場所の事だ。
階級持ちになると、無料の宿泊施設が提供される。ここは、階級持ちが暮らす生活拠点なのだ。
部屋の隅に置いてあった二本の魔剣と背嚢。そして右袖が焼けて無くなっている白いローブを見つけ、ケインは気になっていた事を問い掛けた。
「……俺、何日くらい寝てた?」
「一日も経っていないわ。時間的には半日くらいかしら」
「半日……ま、そんなもんか」
そんな事を話していると──コンコンと、部屋の扉がノックされた。
「空いているわよ」
「失礼しますね──あら? あらあらあら? その人、起きたのですね!」
扉の先から現れたのは──アクセルよりも幼い褐色肌の少女だった。
だが、細く尖った耳を見れば、幼いという感想は一瞬で吹き飛ばされるだろう。
腰まで伸びた長い銀髪をゆらゆらと揺らす幼女は、ケインの姿を見て嬉しそうに赤色の瞳を細めた。
ジャンヌ・ホープ──『銀級』の称号を与えられている『黒森精族』で、五種類の魔法を使う『五種魔法師』だ。
「良かったっ、とても良かったです! 魔力が欠乏し過ぎていたので、一時はどうなるかと思いました!」
「『人類族』は『森精族』と違って、魔力が無くなっても死なないと何度も説明したでしょう?」
「それはそれですけど、やっぱり心配になってしまいます! ……あれ? その人……よく見れば、魔獣化したフレア・ドレイクをシャルロットさんが討伐した時にいた方ではないですか?」
ズイッとケインの顔を覗き込んでくるジャンヌに、思わず体を引いてしまう。
「えぇ、あの時にいた『探索者』よ」
「やっぱり! ……というか、何故この人とシャルロットさんが一緒にいるんですか?」
「この人から、鍛えて欲しいって言われて。一緒に『地界の迷宮』を探索しているのよ」
「まあ、そうだったんですね! シャルロットさんに鍛えてもらうのは大変でしょうけど、お弟子さんも頑張ってくださいね!」
「は、はぁ……」
「それで、用件は? 私に何か用かしら?」
「あ、そうでした。下にお客さんが来てますよ? 『獣人族』っぽいような、『獣人族』っぽくないような……そんな感じの赤い髪の子です。階級持ちの方ではないので、外で待ってもらってます」
それでは、と言い残してジャンヌが部屋を出ていく。
「……『獣人族』っぽくて、『獣人族』っぽくないって……」
「間違いなくアクセルでしょうね。ケインがここにいる事は伝えていたから、心配で様子を見に来たんでしょう」
「なら、出迎えに行くか」
「悪いけれど、私は今から用事があるのよ。明日、また『地界の迷宮』の前で会いましょう」
「ああ」
背嚢を背負い、二本の魔剣を左腰に下げる。
ボロボロになってしまった白いローブを掴み、シャルロットの部屋を後にした。
近くにあった階段を下り始め──はあ、とケインはため息を吐く。
……とりあえず、上に着る物を探さないと。いつまでも半袖の黒シャツでいるわけにもいかない。
ケインの家族は、魔剣の柄を見るだけでヴァルハード家にあった物だとわかる。それを隠すために、わざわざ膝下までの長さのローブを着ていたのだ。
「……新しいの、買わないとな」
「──おや? キミは……ケイン、だったかな?」
階段を下り終えた直後、声を掛けられた。
視線を向けると──そこには、若い『人類族』の青年がいた。
綺麗に切り揃えられた金髪に、ケインと同じ淡い青色の瞳。腰には美しい装飾の施された剣をぶら下げており、鉄製の軽装備を身に付けている。
「あ、なたは……」
──エクスカリオン=ゼナ・ナイツフォルティ。『探索者組合』から『金級』の階級を与えられている最強の『探索者』だ。
「あれ? ケインで間違いないよね?」
「そ、そうです」
「良かった、目が覚めたんだね。話は聞いているよ、魔獣化したトレントの群れに襲われたんだってね」
「は、はぁ……」
「体の調子はどうだい? どこか痛む所はないかな?」
「無い……です。はい、問題ありません」
「それは良かった」
朗らかに笑うエクスカリオンに、釣られてケインも笑みを漏らす。
「あの、すいません。出口ってどこにありますか?」
「出口かい? こっちだよ、付いて来てくれ」
「あ、いや、案内なんてそんなっ……教えていただければ充分ですので」
「いいんだよ。この建物はどうにも複雑だからね。言葉で説明するのは、ボクとしても難しいんだ」
「……で、では……よろしく、お願いします」
「うん」
穏やかに笑うエクスカリオンに続き、ケインも長い廊下を歩き始める。
「それで……魔力不足になって倒れたと聞いたけど、本当に体は大丈夫なのかな?」
「多少は頭が痛いですけど、問題ありません」
「魔力不足になったという事は、魔法を使ったのかな? キミが使える魔法は確か……『土魔法』と『幻魔法』だったよね?」
「……よくご存知ですね」
「ボク個人としては、キミの事が気になっているからね」
「俺の事が?」
「うん。魔獣化フレア・ドレイクに、魔獣化ダークウルフ。そして昨日の魔獣化トレントの群れ……最近の魔獣の目撃情報の中には、必ずキミとシャルロットがいるから」
こちらを振り返るエクスカリオンの瞳に、ケインは一瞬だけ体を硬直させた。
──全部わかっているぞ?
そう語る瞳を正面から受け──ケインはヘラヘラと作り笑いを浮かべた。
「そうですね。毎回毎回アルルヴィーゼさんに頼りっぱなしで」
「そうなんだね。そう言えば、最近はシャルロットと一緒に探索をしているみたいだね。キミは一人で探索する事を好んでいると思っていたのだけど……何かあったのかな?」
「大した理由はありません。魔獣化したフレア・ドレイクから助けてもらった時に、弟子入りしたんですよ。俺が使えるのは『土魔法』と『幻魔法』だけなんで、最低でも自衛ができるようにはなろうと思って」
「その『土魔法』と『幻魔法』で、十四回も魔獣から逃げているだろう? フレア・ドレイクに遭遇した時は、逃げなかったのかい?」
「逃げられませんよ。俺の魔法はそこまで万能ではありませんから」
そんな事を話していると、生活拠点の出口に辿り着いた。
ケインの姿に気づいたのか、外にいたアクセルがブンブンと手を振ってくる。
「それでは、俺はこれで。案内していただきありがとうございました」
「なんて事ないさ。これからもシャルロットと仲良くしてやってくれ」
アクセルに手を振り返し、エクスカリオンの元を離れる。
遠ざかって行く二人の背中を見つめるエクスカリオンは──小さく呟いた。
「──次の『大規模攻略』には、彼も誘おうかな」
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