無崎くんは恐すぎる ~~見た目だけヤクザな無能男子高校生の無自覚な無双神話~~

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30話 無崎くんの日常。


 30話 無崎くんの日常。

 保健室で二時間ほど寝てから、無崎は教室に戻った。

 六限目、本日最後の授業中、
 無崎は、スマホでWEB小説のサイトを開き、

(おっ、『蛍光(けいこう)戦争』の80話、更新されてんじゃん。タイトルは、『王者の風格』か。いいねぇ。ワクワクさせてくれるねぇ。つぅか、『蛍光』の投稿者、速筆だなぁ。文章うまくて読みやすいし。頼むから、あんただけは、エタってくれるなよぉ。毎週、楽しみにしてんだからさぁ。きっちりと完走してくれよぉ)

 ラノベやマンガの二次創作小説がいくつも投稿されているサイトで、『センエース』のSS(二次創作・同人)を読むのが、無崎の趣味の一つ。

 センエースは、『舞い散る閃光』という字名(あざな)の『魔王』が主役のダークファンタジー。
 『この世にはびこる悪の全て』を『比較にならない純粋な極悪』で切り裂く痛快無双世直しライトノベル。
 『主人公無双』と『ハッピーエンド』と『ピカレスク』と『ほんのりビターなシニカル』を求めている無崎の、『趣味嗜好ど真ん中』にクリティカルで突き刺さった作品。

 無崎は、センエースのウェブ版・書籍版・マンガ版・映画版・アニメ版などの正規作品はもちろん、山ほど投稿されている二次創作も、全て、もれなく読み込んでいるという、ガチマニア。
 有志がネット上に公開しているセンエース検定において、『常人では一問たりとも答えられない』とウワサされている『究極超神級』で、満点合格をたたき出しているという、とんでもないガチっぷり。

(SSは、沢山の人が書いているから、二年もあれば、大量に増えるんだよなぁ。しかし、目覚めてからのたった数カ月で、既にそのほとんどを読んじゃっている俺。ハンパねぇ。俺以上のマニアはこの世にいないと断言できるね。ふふふん)

 ホクホク顔でSSを読み込んでいる無崎。

 純粋アホの無崎くんは、
 基本、授業など聞いていない。
 ――そのため、

「じゃあ、この問三を……えっと、今日は29日だから……む……無崎……くん……」

 教師は、出席番号の隣にある名前を、
 つい流れで口にしてしまった事を後悔する。

 一瞬で空気がピリついた。
 それまで、『どうにか全力で心を無にして、無崎を意識しないようにしていたクラスメイト達』は、一斉に背筋を伸ばして、冷や汗を流す。

 名前を呼ばれた無崎は、
 『慌てて(はた目には不動で)』、黒板に、チラと目を向ける。

(や、やばいよぉ……いっさい聞いてなかったから、全然わからないよぉ)

 動揺と緊張で、『わかりません』と口にする事すらできない。

 小学生の時から、どの教師も、無崎を当てる事はなかったので、これまで無崎は『授業中に答える』という経験がなかった。
 ドキドキの初体験が、無崎の表情を、より悪化させる。

(やばいぃ、やばいぃ……どうしよう、どうしよう……仕方ない。目線だけで分かってもらおう。佐々波ほど完璧に理解はしてくれないだろうけど、必死に訴えれば、俺の『泣きそうな気持ち』くらいは察してくれるはず)

 無崎は、その『グラサンにしか見えない色メガネ』を片手で下にソっとずらし、申し訳なさそうに、若干、顎を引いた。

 本人的には泣きそうな顔で、必死に『己の無能ぶり』を教師に訴える。

(すいません、先生。わかんないっす。他の人をあててください! おねがいします!)

 心の底から訴える。
 ――その姿は、他人視点だと、

(ひ、ひぃいいいいい)

 ガンをつけられているようにしか見えなかった。

(そ、そこまでキレなくてもぉおお!!)

 涙を浮かべて足を震わせる教師。
 これまでの人生における全ての恐怖体験が霞(かす)むほどの圧倒的な極悪オーラ。

「ひぃ……ひゅ――」

 ついには、耐えきれなくなって、
 ――その教師は気を失った。

(ぅわ、なに? 急に倒れたんですけど?! ぇ? なに? 貧血? 大丈夫か?)

 そこで、クラス委員をしている男子がバっと立ち上がり、

「先生!」

 駆け寄って、ペチペチと頬をたたきながら、

「先生? 先生?! ダメだ。完全に気を失っている! これは保健室に連れていかないとダメなパターンのアレだ!」
「よし。まかせて!」
「ぃや、俺がいく!」
「ざけんな、その役目は俺に決まっているだろう!」
「よし、じゃあ、みんなでいこう!」
「当たり前だ! 俺たちは盟友!」
「産まれし日は違えど、死ぬ日は同じと誓った絆を忘れはしない!」
「そうね! 死なばもろとも! それが、通すべき仁義であり、命の道理だよね!」

 怒涛の勢いで『優しさ』と『責任感』と『絆』と『仁義』を交わし合ったクラスメイト達は、無崎を残し、全力で教室を出ていった。

 一糸乱れぬ、見事な集団行動。

 教師想いの彼らは、教室を出て、
 20メートルほど歩いた所で、

「……ぁあ、怖かったぁ」
「見たか、さっきの無崎の顔。顔面に達筆で『殺すぞ』って清書してあったぞ」
「ううぅ、心臓が止まるかと思ったぁ……今もドキドキしているんだけどぉ」
「ていうか、バカじゃないの、この教師。なんで無崎に当ててんの。キレるに決まってんじゃん」
「責めてやるなよ、アリサ。完全に『ついウッカリ』って顔していただろ」
「ウッカリじゃ済まないっつーの。無崎の出席番号くらい知っておいて欲しいんだけど。もう少しで教室が血の海になるところだったのよ」
「まあ、とにかく、倒れてくれてよかったよ。おかげで逃げだせた」





 ――一方その頃。
 『ビビリまくって教室から逃げだしたクラスメイトたちの背中』を見送った後の無崎くんはというと、

(このクラスの連中、すげぇ先生想いだな。貧血で倒れたからって、全員で保健室に連れていくとか、正気を疑うレベルの連帯感だよ。――そんな優しさ値がカンストしているクラスメイトからもガン無視をされている俺って、どんだけ存在感薄いんだよ。……はっ……まぁ、いいや。おかげで恥をかかずにすんだし……さぁてと、続きを読もぉっと)


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