無崎くんは恐すぎる ~~見た目だけヤクザな無能男子高校生の無自覚な無双神話~~

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26話 佐々波は想う。


 26話 佐々波は想う。

「ぷはぁ……」

 スキットルのフタをしめて、カバンに戻す無崎。
 目を、こしこしと、こすりながら、

(ん、あー、こりゃ、ダメだな。眠気がまったく治まらない。ポカリじゃなくて、オロナ○ンCを入れてくればよかった。これ、また寝ちゃうな。さっきまでは、たまたま見つからなかったみたいだけど、寝ているのが山田先生にバレたら怒られちゃうな。山田先生、かなり怖い系の先生だから、目をつけられるのは避けたいなぁ。仕方ない……かなり恥ずかしいけど……)

 無崎は、スマホを起動させ、メモ帳を開き、『どの授業をあと何回休めるか』を確認してから、ガタっと立ち上がる。

「「「ひぇっ」」」

 無崎の行動は、いちいち心臓に悪い。
 誰もが姿勢を正して目線を外す。

 山田先生が、震えながら、

「ど、どうした、無崎……くん」

「ち……げろ……たぃ……ほ……ねむ……す(ちょっと、ゲロ出そうなくらい体調が悪いので、保健室で眠ってきます)」

 かすれた声でそう言い残し、
 そのまま、威圧感たっぷりの歩き方で教室を出ていった。

 無崎の姿が完全に消えたところで、山田は疲れ切ったような顔で、

「ふぅぅぅ」

 と息をつきながら、黒板にもたれかかった。

 その周囲では、クラスメイトたちが、ザワザワと、

「な、なんて? 無崎、なんて言った?」

「逮捕とか眠るとかゲロとか」

「俺、聞こえたぞ。組の誰かが逮捕されそうだから、捕まって余計な事をゲロっちまう前に、そいつを永遠の眠りにつかせてくる……って感じだった」

「スマホを見ていたのは、組のヤツからのメールをチェックしていたのか」

「ま、また、あいつは、その手を血で染めるのか」

「すでに真っ赤だから、もはや、気にもなんねぇんだろうな」

「あ、そう言えば、無崎と小学校が同じとか言っていた華村って人、今日、きてないけど、もしかして……」

 その発言に対し、女性陣のリーダーである亜里沙が、神妙な面持ちで、

「今朝、メールがきた。消えないと殺すって脅されたから夜逃げするってさ」

「ぇ、エグぅ……一度でも怒らせたら終わりってことかよ」

「マジで怒らせないように気をつけないとな……」

「もう、いっそ俺も転校しよぉかなぁ」


 ★


 佐々波恋は思う。
 自分に、生き甲斐と呼べるものは存在しない、と。

 産まれた瞬間からつい最近まで、人生のほぼ100%を、『優れた諜報員となるため』に費やしてきた。
 眠れない夜は、人を殺すための道具を抱いて、今まで壊してきたものを数えた。
 幼稚園でビーズの数え方を教わるよりも早く、
 裏の世界の偉いさんから、世界を転覆させる方法を学んだ。

 人の騙し方を、国の壊し方を、幸福の終わらせ方を……そんなものだけを叩き込まれてきた。

(まともでいられる訳がない)

 保健室のベッドに寝転び、天井を睨みつけている佐々波。

 現在、彼女が遂行している任務は、創世学園に隠されているオーパーツ『野究カード』を調査する事。
 ちなみに、誰の命令でもない。
 あえていうなら己が依頼者。
 この狂った人生から自分自身を解放するため、
 創世学園に潜入し、野究カードの回収作業を始めた。

(すでにボクは、『ボクを解放できるだけの力』――あのふざけた両親はもちろん、これまで敵に回してきた『世界の暗部』全てに狙われても、楽に撃退できるだけの野究カードを手に入れた)

 ピッチングマシンを有するハイランカー闘手の佐々波は、
 すでに、単騎で世界相手に戦える。

 もはや、誰も彼女を縛れない。
 佐々波は自由になった。

 下らない『業』から解脱し、
 気楽な女子高生になって気づいた事は、

(……退屈……)

 心が壊れている佐々波にとって、
 『自由』に価値などなかった。

 やりたい事などない。
 望むモノなどない。

 佐々波にとって、人生はモノクロ。
 色彩を失った、灰色の世界。

 まるで機械仕掛けの感情。
 意識は無意味に数学的。
 未来はどうにも五里霧中。

「無崎……」

 ふいに口をついて出た言葉。

 ハっとした顔になり、思わず口を閉じた。
 自分で自分が信じられない。

(なんで、あのアホの名前なんか……)

 朱色に染まる頬を自分ではたいて、

(ぁ、ぃや、まあ、別に、オモチャはヒマを潰すための道具……だから、あいつの事を考えても別にいいんだ。さ、さあ、今度は、あいつを使って、どうやって遊ぼうかなぁ)

 佐々波は気づいていないが、無崎の事を考えている間だけ、世界に色がついていた。

 酷く矛盾しているが、世界に色がついている事にも気づけないくらい、無崎を想っている時の佐々波は盲目的だった。

(ぁあ、くそ。なんで、こんな言い訳みたいな事を……ああ、ウザい。決めた。また、あいつの黒い噂を大量に流してやる。学校の裏サイトをクラックして、『無崎のヤクザ指数』が『天文学的領域に達している』という無実を全校生徒に拡散してやる)


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