無崎くんは恐すぎる ~~見た目だけヤクザな無能男子高校生の無自覚な無双神話~~

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13話 世界をかえる力。


 13話 世界をかえる力。

 上品は、この学園の秘密を知った時、心の底から歓喜した。

『ITも株式もカリスマ性もいらん! 野究カードさえあれば、余裕で世界を買える!!』

 この歓喜は、決して、『偶然』ではないと彼女は思う。
 絶対の運命。

 もし誰かに『超特待制度が導入されているとはいえ、あなたほどの人が、どうして、わざわざ、この伝統もブランドもない、偏差値的には半端な中堅高校を選んだのか?』と問われたら、超特別待遇生徒達は、そろって、こう解答する。

『特筆すべき理由はない。気付いたらここに入学していた』

 まるで、導かれるように、
 この学園に入学し、当然のように異世界の扉を発見した。
 その中の一人に自分がなっている。
 上品は、それを、己の宿命だととらえる。
 『自分は世界を買わなければいけないのだ』と強く再認識する。

『この力と、ウチの頭があれば、世界を買える! 世界を《変える》事ができる!』

 上品は貪欲に野究カードを求め、気付いた時には孤高の超人になっていた。

 だが、まだ足りない。
 この程度で世界は変えられない!

(こんな所で……死ぬ訳にはいかへん。世界を買うんや。そんで、『不条理を殺した世界』に変えるんや。理不尽な悪を根こそぎ撲滅したる。飢餓と疫病を漏れなく駆逐したる。イジメも差別も綺麗サッパリなくしたるんや! ……それまで、ウチは、死ぬ訳には――)

 死を前にして、なおたぎる高尚な思想。
 けれど、

(……死……死ぬ――ィヤ……)

 『己の死』が具体性を帯(お)びたことで超速回転する神経電位。
 スクリーンに写る、パノラマな解離。

(――イヤだ……たすけ――)

 三人称に届く夢見心地な離脱が、死の確信を深めていく。
 視界が白黒になっていく。


 ――助けて――


 『死にたくない』と上品のコスモが叫ぶ。
 パルスの慟哭(どうこく)。
 しかし、何もできない。
 明確な死を前にして、時間だけが引き延ばされていく。
 走馬灯。
 自分の命、人生の無意味さだけが脳内で募っていく。

 ――死ぬ。何もできなかった。何もできずに、ただ死ぬだけ。ウチの命に、なんの意味があったんやろうか。いや、命に意味なんてないか。そうやな。人間なんて、宇宙の視点では、ちっぽけな微生物でしかないし――

 オートマな悟りで不自由になる肢体。
 インパルスだけが、わずかに弾けた。
 涙が頬を伝う。

 『完全に終わった』と、前頭葉が諦念して、
 錐体路(すいたいろ)の接続がおざなりになった直後の事。
 ――脇腹に衝撃走る。

 ドンッッ!!

 ――すぐに気づく。
 『誰か』に突き飛ばされた。
 誰に?

(無崎?!)

 ……自分を突き飛ばしたのは鬼面のヤクザだった。
 その精神的衝撃のせいか、『引き延ばされていた時間』が正常に戻る。

(なんで?! まさか、ウチを助けた?!)

 『小刀だけで身を守っている無崎』を、Gのジャイロブレードが襲う。
 暴我のクロス。

 キュィイイイン!!

「ぐぇっ!!」

 なんとか、ギガロ・バリアを展開している小刀で受け止めたので、切り裂かれこそしなかったものの、当然、その『あまりにも膨大が過ぎるエネルギー』を受け流す事は叶わず、無崎の体は豪快に吹っ飛ばされる。

 ドゴンッ!
 と壁に激突し、

「ぐふっ……ぁ」

 ガクっとその場に倒れた。
 死んでもおかしくないほどの衝撃。

「む、無崎!」

 ピクリとも動かない無崎を見て、
 上品は、

「ひっ!」

 と小さな悲鳴をあげた。
 まさか、自分を庇って死んでしまったの?

 ギュっと縮こまる心臓。
 その直後の事だった。

 ――無崎は、スクっと立ち上がり、



「……なんという無謀。私がいなければ、死んでいたぞ。まったく」



 無崎は、何事もなかったかのように、腰や足の埃を払いながら、

「さて……この『輝く器』を壊されると困るので、少しだけ抵抗をさせてもらおうか」

 怜悧(れいり)で威圧感のある視線が、Gを補足する。

 その射抜(いぬ)くような瞳に、
 無人Mマシン‐ジャイアントは、
 ――おびえたように一歩引いた。

 ※ 本来の無崎と区別するために、あえて、今後は、彼のことを『イス無崎』と呼ぶことにする。

 ジャイアントは、まるで脊髄反射のように、イス無崎のサーチを開始する。

『警戒レベル計測不能の強大な反応を観測。情報取得モード。Ωアーカイブへ接続。アンノウン。GIKコード解析開始。アンノウン。対象の照合不可。アカシックレコード・リーディングコール。♪♪♪。強制切断。再コール。♪♪♪。接続不能。///再コール不可。ゾメガ・ブロックによる情報遮断を確認。全探知プログラム強制ダウン。一時的カウンターモードに移行します』

 ガシっと両手を交差させ、自身のボディを庇う。
 防御を固め、その場からピクリとも動かなくなるMマシン。

 ――つまりは、『単なる人工知能』が『暴利の恐怖』を感じている。

 その様を見て、『イス無崎』は、心の中で、

(ピッチングマシンの戦闘AIに恐怖心など組み込んではいないのだが、しかし、心を持たないデク人形でも、創造主の威光くらいは気づけるか。くく、愛(う)い、愛い)

 極めて優雅に、わずかの淀(よど)みもなく、
 イス無崎は、上品の眼前まで歩く。

 いつもの暴悪的なネコ背ではなく、
 スっと通った美しい神影。

 恐怖よりも威厳を感じさせるたたずまい。

「ちょっ……あんた……だ、大丈夫なんか……めっちゃ吹っ飛ばされてたけど……普通、死ぬんとちゃう? あんなん……トラックにはねられたみたいなもんやろ……」

 という、彼女の『無駄な心配』に対し、イス無崎は、

「この肉体の強靭さを侮ってはいけない。見て分かる通り、常軌を逸した破格のマテリアル。そうそう壊れはしない」

 などと言いつつ、イス無崎は、
 上品のカードホルダーに、スっと手を伸ばす。

「ぇ?! ぃ、いや、な、何やねん――」

「騒々しい。黙っていろ」

 有無を切り捨てる宣託(せんたく)が、上品の口をふさぐ。

 その、『比類なき超越者の風格』に気圧(けお)されて、
 懸念(けねん)もろとも、声が霧散する。

「この二枚で充分だな」

 イス無崎は、二枚の野究カードを選ぶと、
 残りを上品のカードホルダーに戻し、

「スキャナーを借りるぞ」

 返答を待たずに、上品の腕から腕時計タイプのスキャナーを奪いとり、

「さぁ、始めよう。ここからは、私の時間だ」


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