ノーフェイスノーネーム2 影使い

梓の写真集出版のお祝いの時　いつものラウンジで村井が話を持って来た
いや　村井は織田の話を拾って織田は弟子のエミリの雑談から　って事になるらしい

フィギュア？なんだ　それ

まあ　趣味性の高い精密な人形だな　オモチャ屋が出すように数は作らないし手間が掛かる上に手を抜くとコアなマニアが購買層だから　ソッポ向かれる

なかなかのリスクだな

しかし　日本のフィギュアには世界的にコレクターの評価が高い

ん？この話は何処に繋がってる？

いや　織田がエミリちゃんからそんな話を聞いて　な
ほら　あの子　何とか言う　あぁ　バーバリアンか
あのコスプレで撮影した時に理音ちゃんと衣装合わせて　感激して　さ
フィギュアが作れたら最高なのに！って騒いでたらしい
で　織田から作れないのかって写真　見せられた訳だ

作れないのか？

いや　俺も造形作家だから　作れるとも！しかし　一点物になるし　型を起こしても日本品質に求められているフィギュアに仕上げるのは一点物と変わらないくらい手間が掛かる

それで？

で　思い出したのがレール敷設して撮ったって言うその時のムービー
生身の人間　スキャニングして3Dモデリングすりゃいい　と！

そりゃいいだろうがスキャニングなんて時間と費用が掛かるだろう？

まあ　それなりの施設がいるし　な
しかし　ふた昔前の手法で色んな方向から写真を撮って同じようなデータを作る事は出来る
安くて時間も短い
ま　データの後修正　ブラッシュアップに時間は掛かるんだが

データ構成するソフトなんてどうする？

逆だ　そう言ったソフトを趣味で作ってる奴が知り合いの設計事務所やってる奴に居るんだ
だから　工房にレール敷設してドーリーに三脚とデジカメ積んでポーズつけたモデルの周りをぐるっと　そうだな　36枚も撮れば良いだろう
時間にして10分

10分は短いか？

スキャニングするなら30分じゃきかないぞ

で？エミリで作ってやるのか？

そこで相談なんだ
理音ちゃんにものって欲しいし　後　何人かやらないか？
等身大フィギュアで織田がコスチューム作って俺がマスク

う〜ん

後ろを振り返ってエミリに合図して　希子にも来て貰った

普段着の理音と飛鳥と一緒に並んで歩くと俺とほぼ同じ身長になり　いつもは怜子や誠みたいに150センチ台の猫たちと一緒にいる俺には新鮮な眺めだ
結局　やりたいやらせたい　で　エミリと希子が手を上げて他薦で飛鳥と理音の名前が上がった
エミリと希子は織田の付き添いで先週　村井の工房で撮影済みだ
今　データを構成して貰っているらしい

村井の工房に入るとほぼ　ブルーシートで覆われている

お〜い　来たぞ　村井

声を掛けると　ブルーシートの中から村井が現れた

いらっしゃい　こっちはセッティング済みだ　そこの隅にスペース作ってあるから順番に着替えて来てくれるか

確かにブルーシートに半ば隠れるように服屋にあるような着替えスペースがある
2人が順番にお臍が出るようなピッチリしたユニダードに着替えてブルーシートを潜ると丸く敷設したレールに上下3台のカメラをセッティングしたドーリーが待って居た

俺は頭を掻いて　

当然　ドーリーは俺が押す訳だ？

頼むよ　可愛いモデルの為だ
この位置から始めて黄色くマークした所で停めてくれ
三十六箇所だ

はいはい　で　どっちから？じゃ　理音
で　
ポーズはどうする？

ポージングは3Dモデルで弄れるから撮る時は脚は肩幅くらいに広げて　手は体側に垂らして身体に付かないように少し広げてくれれば
あ　そんな感じ
じゃ　行くか　顔は緊張しないでも　後でマネキンヘッドに差し替えるから大丈夫

バシャッと3台のシャッターが切れ　村井が　押せ！っと叫んだ

何が10分か　なんだかんだで2人撮り終えたら1時間が過ぎていた
俺がパイプ椅子でへたり込んでいるとユニダードのまま　上着を羽織った理音が珈琲を持って来てくれた
飛鳥が心配そうに

社長　大丈夫ですか？　と　聞いてくれた

俺は片手で　大丈夫と手を振り　珈琲を一口飲んだ

おい　村井　考えたらシャッターリモコンならおまえがドーリー押せただろう？

今　気がついたのか
織田は1人目で気がついたぞ
ま　アイツもエミリちゃんの手前　いいとこ見せようと2人目も押したから一緒だ

俺が睨むと　態とらしく理音や飛鳥に目を逸らして

最後に足型を取ったら終了だ

足型？

分かると思うけど今の写真データから起こすと足の裏がペッタンコの扁平足になるんだ
だから　足型から石膏モデル起こして撮影した奴を合成して貰う

本気だな？

当たり前だ　日本品質　舐めるなよ
あ　それから美和のスタジオでポーズの撮影　して来てくれ
さっき　連絡入れたからエミリが待ってる

なら　着替えても　と言う事でユニダードの上から私服を羽織ってタクシーを回して貰ってスタジオに入った

社長　楽しい！こんな楽しくていいんですか？

と　エミリがはしゃぐので

最初に　言っただろ　やりたい事を皆んなでやりたいようにやるってのがウチの方針だ
それが仕事になるか　ならないかは大人の仕事だからな

それからは織田はエミリと４人分のアーマーと武具のアイデアと作製
村井は3Dモデリングが上がった順にデータの修正と仕上げ
型起こし
当然　フィギュアの方が時間が掛かるので織田の方でコスチュームが上がった順に試着　調整　撮影とエミリと希子は段取りを仕切った
４人で何とか言うコミケにも参加して希子のsnsは今までに増して跳ね上がったらしい
半年で4体のプロトタイプを上げたのはさすが村井と言うべきだろう
バーバリアンシリーズモデルワンA.B.C.Dとは味気ないネーミングだが仕方ない
等身大は迫力がある

これは小さいモデルは作らないのか？

と　村井に聞くと

無茶言うな　仕上げに余計　手間が掛かるわ　しかも織田の方はパーツが既製品流用出来ないしコスト的に引き合わない

で　売るなら単価設定は？安くは無かろう

そりゃあ　なぁ
一体　150 で織田のコスチュームをセットしたら250くらいか？織田？

物によるなぁ　武具別で100から120は貰わないと引き合わない

なんちゅう世界だ
任せるけど　ウチの子の配当はどうなる？

しっかりしてるな
売り上げの3から5%でどうだ？

10万ちょいだぞ？
いいのか？

まあ　取らぬ狸なんて食えないからな
じゃ3でいいか？

いい　いい

そんな訳で村井と織田の店のホームページに受注生産品のコーナーにプライス300万から　と　写真を上げた
リンクを貼るまでもないだろう　と　キトゥンズテイルスには貼らなかった
良かった

最初はチラホラだったらしいが　マニアが貼ったリンクが拡散されて問い合わせが酷い事になった
そうなると取材の申し込みも増える
マニアのアンテナは鋭い
希子のsnsにも問い合わせが来た
無断で写真が使用されて商品写真と並べてアップされた
問い合わせとは別にオーダーも8体　入ったと言う

2400万だぞ！誰がそんな金持ちか！

と　俺は叫んだ！

直にマニアの世界に情報が周り　各国のマニアからオーダーが追加で20体　入った所で　村井も織田も受注停止のコメントと共に写真を消した
俺は最初の時点で嫌な予感がしてキトゥンズテイルスのホームページを停止させて更新中のアナウンスをさせた

キトゥンズテイルスの匿名性で救われた
事務所も看板を上げていないし所在地の表記もしていない
今までなら1番の不安要素だった岡は　皆んなから人が違ったのか　と言うほど
機敏に動き　仲間ウチからの問い合わせに悩まされている希子をキトゥンズテイルスに出向させるように働き掛けて箝口令を敷いた
美和のスタジオは客の事は守秘義務だ　と突っぱねた
暫く　狂乱の祭典だった