ちょっとHぃショートショート

双樹\u3000一

アバター

これを君に譲ろうと思う

と言って鈴木さんは低いテーブルの上にトランクを置いた
鈴木さんは何年か前に知り合ったカメラ仲間でフィルムカメラ使い同士 気が合った
だから ひょっとして写真機材だろうか と一瞬 期待した

トランクの蓋が僕の方に開いて 小柄な裸の女性が体を畳んで入っていた
僕が無言で凝視して叫ぶのを忘れている間に鈴木さんはトランクを締めた

す 鈴木さん

あ いや 言いたい事は分かるけど本物じゃ無いよ
僕の前の持ち主は『アバター』って言ってた
どこからどうやってかは彼も知らなかった
もう何代も持ち主が変わってるらしくて僕もさ もう歳だし万一の事があった時に親族にこれ見つけられるとさ 困るし山野くんは今まで見てて信用出来る感じだし 彼女を託すよ

え だって 何なんですか これ 生身じゃ無いとしたら人形ですか 

それは さ 持ち主によって変わるんだ
僕はモデルになって貰って あちこち行ったよ

え やっぱり生きてるんで…

いや 生きてるのとは違うみたいだよ
頼まないと食べも飲みもしないし 僕で10年 前の持ち主が18年くらいかなぁ その間 全然変わらないしね
あとは彼女に聞いてよ でも本当の事かどうかは分からないけど さ

釈然としないまま 鈴木さんの家を後にしたけど地下鉄に揺られながら座席横のトランクを見て 何か大変な物を押し付けられた事に気がついた
職質を受けたらもうアウトだ
挙動不審になるのを無理矢理抑えて出来るだけ自然な感じを心掛けたが三文芝居大根役者は否めない
マンションの自室のドアを閉めて やっとひと息ついた
そうなると やはり確かめたくなる
トランクを寝かせて そっと開けた
寝ている裸の女性
にしか見えない
そっと手を伸ばして触ってみようと…したら手を払われた

び びっくりした

トランクから起き上がりながら中の女がニヤッと笑って

エッチだね 

と 言った

いやだって起きてるとは思わないし

寝てたら触るんだ そうなんだ 気をつけよっと

いや だから一体君はなんなの 鈴木さんからはアバターとしか聞いてないけど アバターって何なの

ああ 鈴木さんも冷たいよね 適当な事言って 私の事 押し付けて

適当って 違うの

あのね 私が自分の事を知ってるかどうか何で あなたに分かる
まあ 代々のパートナーの中じゃ 調べてみる事に時間使った人もいるから『アバター』『依代』『ホムンクルス』色々 言うけれど私は私だけどね

兎に角 裸はいけない ウチは僕の服しか無いから何か羽織って

あ 服着るのがいいなら どんな服が良いか考えて



と言われるままにTシャツジーンズの活発そうな服を思い浮かべると 目の前の女の皮膚を包む様に
青い下着が現れ白Tとブルージーンズを着た姿になった

こう言うのが趣味ね 分かった

と いつの間にかショートの明る目の茶髪 目の大きな健康的に焼けた肌に変わっている

歳はどうする

僕は33だよ 今年
じゃ 妹が26だからその辺りで 妹が転がり込んで来た事にするよ

適応力が高いわね そう来るか お兄ちゃん

ふふん 妹にしとけば 要らない幻想は抱かないからな 特に君みたいな正体不明の

美女に でしょ

ふん 妹が美女じゃやり切れないな

こうして 正体不明ヘンテコアバター改め 擬似妹 緑はウチに居着いた
名付けのセンスの無さは散々 皮肉られたがそこは押し切った
 
休みが来る度 自然公園に行った
緑は僕が思い描いた活発な娘そのもので
青いオーバーサイズのシャツにショートパンツから素敵な焼けた脚を伸ばして遊歩道を駆けて行き息も切らさず駆け戻る
何年も胸に空いていた穴が塞がって行くのを僕は感じた

あなたは私をいやらしい目で見ないのね
何故

と緑はある時 聞いた

あ 妹をいやらしい目で見るなんて思春期のガキじゃあるまいし

と 読んでた文庫本から目も離さずに言った

変わってる

と緑の視線を感じる

僕が7歳の時に緑は来たんだよ

と 本を読みながら言った

僕が19になるまで一緒だった
可愛い子で自分の方が僕を世話しなきゃならないように思ってて朝になる度に僕を起こしに来た
腹の上に乗られると結構 効いたな
素敵な緑の瞳のロシアンブルーだったよ

緑の気配がすっと消えて 代わりに少し大柄な短毛種の猫が僕に擦り寄って来た
僕は消えないように そっと顎の下に指をやり 撫でた
以来 緑はずっとウチに居る
離れるつもりは 無い

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