ちょっとHぃショートショート
ピグマリオ
また 巨大なたい焼き器に身体を挟まれた
極薄全裸と言っても過言で無いユニタードを着て
プロトタイプとは言え全感覚投入型バーチャルリアリティ筐体が人間たい焼き器にしか見えないとは
将来的にはヘッドギアとこのユニタードを感覚器とする形に突き詰めて行くらしいが現状は私が挟み込まれている機器が最先端だと言う
両側のマット面は繊細な幾種類ものセンサーが仕込まれて身体に密着する
これが極薄ユニタードを着せられた所以だ
感覚調整の為に全身が圧迫され振動し温かく冷たくチクチクし…ウンザリしかけた頃に世界が開けて青い虚空の中に浮いていた
凄い
360度の星空 自分が上に進む感覚が生まれ進行方向へ目をやると小さく見える地球がドンドン大きくなる
いつか 上に進んでいた筈が頭を下に落ちていく感覚に変わりクルッと半回転して見えて来た群島の小島の一つに降りて行った
暑い砂浜に足が着く
身体を見下ろせば黒いワンピースの水着だ
冷たい波を分け入って 海中に身を潜らせる
無数の泡が静まると目の前を何匹もの鮮やかな色合いの魚が逃げて行く…
唐突に世界との接続が切れ たい焼き器が開いていた
目眩とか頭痛とかは大丈夫ですか
血圧心拍はモニターしていましたが正常値に落ち着いています
大丈夫です 比喩的な意味では目眩がしますが
でしょうねぇ モニター映像で見てても場面変換がめまぐるしい感じでしたね
まあ スポンサーにアピールする為に派手にやってますからねぇ
そうなんですね
後 医務室で診察を受けて 今回は終了です 次回のセッションはメッセージでお知らせします
はい じゃ樹 麻子さん結構です
セッション前と後で特に異常な所見は見られません
で 医務室を出たところで方向を間違えたらしく どこやらのラボに迷い込んだ
何か 自分の名前が聞こえたような気がしてラボの入り口の隙間から中を窺う
…被験者118 樹 麻子22歳セッション3  ですね
被験者数が伸びないな
上からは1000は最低セッション5まで持って行けって言われてるんだからな
まだ498人ですよ セッション5
全体数で2009人ですからね
物理的に被験者1人に掛かる時間ってのは短縮出来ないんですから残業してどうなるもんでも…
俺に言うなよ そんなの 分かりきってる事だろ
…スミマセン
クスッと笑いが出るところだったが堪えた
上司か 先輩研究員が伸びをして ラボの奥へ珈琲を飲みに消えるタイミングで麻子も身を引いて帰ろうとしたが 残った若い研究員がキーボードを打つとモニターに麻子の全身像が映し出された
全裸の3D映像が360度ぐるっと回転してバストアップに落ち着く
やあ
お疲れ様
と ちょっと合成音声的なニュアンスが残るが麻子の声だ
具合はどうだい
気分は上々よ あなたこそ どうなの 仕事し過ぎじゃ無いの
仕方ないよ スポンサーにプレゼンする期日は決まってるんだし
ちょっと待ってこの人私で何やってるのしかも真っ裸の セクハラ
ちょっと何やってるの
声に出てしまった
もう 出て行くしかない
ギョッとした若い研究員は振り向くと目を見開らきながらも 手はキーを押して画面を消した
麻子さん
説明を求めます
断固 説明を
分かりました
分かりましたがラボは一般の人は立ち入り禁止の守秘義務違反ですから 外へ 外へ出て
素早く白衣を脱いで椅子の背に掛けた男は麻子な肩に手を掛けて振り向かせ背を押して外へ連れ出した
一階入り口脇の喫茶コーナー
頭を抱えた小林研究員と私
で なんか釈明は
はい まずは会社は関係ありません 僕の被験者データの私的流用です 申し訳ありません
え あんな裸のデータなんて
あれはあなたの基本データです 契約約款にも記載のある提供データの一つですよ
あれは生データですけど将来的にはバーチャルワールドに配置されるアシスタントAIたちのデータに利用されます
あ 容姿なんかは被験者の皆さんミックスして編集しますから安心して下さい
あ なら 安心…じゃ無くて あなたの私的流用の分 なんですけど
…もう十数年前から好きだったんです理想なんです
えええ す ストーカー
あ いや違って あなたの容姿が昔から思い描いてた理想の女性なんです
あの これ
と 名刺大のラボのロゴと小林 亮介 研究所員の肩書 QRコードとキーコードの入ったカードを差し出された
僕の家のゲストキーです
詳しい釈明はこの日曜日にそこでします
お願いします
と テーブルに頭をつけたまま 上げなかった
やあああっぱり ストーカーじゃないかあああ〜
肺活量に許す限りの声量で叫んでやった
通されたさほど狭く無い筈のリビングの隅々に私の絵が飾ってあったり立て掛けてあったり 私を模った石膏像 木彫
いやいや よく見て下さい 僕の学校時代の作品です 絵は高校の 立体作品は美大時代のです
なるほど よく見れば全て今の私の容姿に似ている
なんで 私なの
あなたのセッション1の担当したの 僕なんですよ 夢かと思いました 高校生の僕の夢がそのまま出てきたのかと
あなたのデータ 盗もうかとも考えましたが そんな事してバレたら せっかく出会ったあなたと会えなくなるんで泣く泣く諦めて 会社のコンピュータのローカルエリアにシークレットフォルダをジョブログに擬装してあのバーチャルデータをコツコツ作ったんです
まあ 社外秘だから持ち出せないのは同じなんですけど
で 個人的にウチのパソコンで作っているのが
と いいながらデスクトップパソコンを起動させたようだ
モニター右上のアイコンをクリックすると
またまた 私の3D映像が現れる が 今度はちゃんと黒のユニタードを着ていてホッとする
これは会社のスキャンデータじゃ無くて僕が3Dモデリングして描いているあなたです
会社のデータを一部 暗記して造形に反映させてますけど
よくそんな細かい数値 覚えて置けるんだね
まあ この子の双子の姉が居る訳ですし オリジナルのあなたを間近に観察していますしね
この子は姉と違ってあなたの運動動作データ持ってないんで市販のアクションプログラムをカスタマイズしてるんですが
おはよう
おはようございます
と 前に聞いたのより合成音声っぽい自分の声
ご機嫌はどう
気分いいわよ 天気もいいし
良く見ると私より幾分可愛い
実物より美化して無いこれ
いえ これは学生時代の作品じゃなくてあなた本人です
僕が見ているあなたです
では 姉データの抹消を要求します
え
で 妹データは経過観察として 定期的に査察を要求します
え でも いいんですか
いいも悪いもあなた自覚無いでしょうけど私と遭遇して以来 あなたの行動はストーカーなの
早くリアルに復帰しないと会社馘の前科付きストーカーに成り下がるわよ
宜しくお願いします
…セッション4 被験者 樹 麻子さん
お願いします
はい 宜しく
また たい焼き器に挟まる私 ストーカー予備軍とは ほどほどのお付き合い 悪い気はしないけど 目を離して本当にストーカーされるのは怖い
セッション4 ではこれまでの用意されたオペレーションではなくバーチャルワールドを自分の意思で動けるように制御をフリーにしています
危険は有りません
では どうぞ
今度は目の前にドアが現れた
ドアノブに手を掛け回す 冷たい感触とカチッとドアが開く感覚 リアルだ
いらっしゃい
と 私が椅子に座っている なんだろう オリエンテーションには自分のアバターがまた 出てくる話は聞いてない
亮介がジョブログフォルダに入れてくれてたから削除を免れたの
その私はニコッと笑った
私と同じ衣装 私と同じ動作で
もう 上書きして私だけになろうか と思ったけど なんか亮介とお付き合いしてるみたいだし 恋心の共通項を核にして融合しようと思って
いいわよね
と 否応無く 両手を握られ 手首から溶け合い始めて頭や身体や心に二重の記憶が配置されて行った
極薄全裸と言っても過言で無いユニタードを着て
プロトタイプとは言え全感覚投入型バーチャルリアリティ筐体が人間たい焼き器にしか見えないとは
将来的にはヘッドギアとこのユニタードを感覚器とする形に突き詰めて行くらしいが現状は私が挟み込まれている機器が最先端だと言う
両側のマット面は繊細な幾種類ものセンサーが仕込まれて身体に密着する
これが極薄ユニタードを着せられた所以だ
感覚調整の為に全身が圧迫され振動し温かく冷たくチクチクし…ウンザリしかけた頃に世界が開けて青い虚空の中に浮いていた
凄い
360度の星空 自分が上に進む感覚が生まれ進行方向へ目をやると小さく見える地球がドンドン大きくなる
いつか 上に進んでいた筈が頭を下に落ちていく感覚に変わりクルッと半回転して見えて来た群島の小島の一つに降りて行った
暑い砂浜に足が着く
身体を見下ろせば黒いワンピースの水着だ
冷たい波を分け入って 海中に身を潜らせる
無数の泡が静まると目の前を何匹もの鮮やかな色合いの魚が逃げて行く…
唐突に世界との接続が切れ たい焼き器が開いていた
目眩とか頭痛とかは大丈夫ですか
血圧心拍はモニターしていましたが正常値に落ち着いています
大丈夫です 比喩的な意味では目眩がしますが
でしょうねぇ モニター映像で見てても場面変換がめまぐるしい感じでしたね
まあ スポンサーにアピールする為に派手にやってますからねぇ
そうなんですね
後 医務室で診察を受けて 今回は終了です 次回のセッションはメッセージでお知らせします
はい じゃ樹 麻子さん結構です
セッション前と後で特に異常な所見は見られません
で 医務室を出たところで方向を間違えたらしく どこやらのラボに迷い込んだ
何か 自分の名前が聞こえたような気がしてラボの入り口の隙間から中を窺う
…被験者118 樹 麻子22歳セッション3  ですね
被験者数が伸びないな
上からは1000は最低セッション5まで持って行けって言われてるんだからな
まだ498人ですよ セッション5
全体数で2009人ですからね
物理的に被験者1人に掛かる時間ってのは短縮出来ないんですから残業してどうなるもんでも…
俺に言うなよ そんなの 分かりきってる事だろ
…スミマセン
クスッと笑いが出るところだったが堪えた
上司か 先輩研究員が伸びをして ラボの奥へ珈琲を飲みに消えるタイミングで麻子も身を引いて帰ろうとしたが 残った若い研究員がキーボードを打つとモニターに麻子の全身像が映し出された
全裸の3D映像が360度ぐるっと回転してバストアップに落ち着く
やあ
お疲れ様
と ちょっと合成音声的なニュアンスが残るが麻子の声だ
具合はどうだい
気分は上々よ あなたこそ どうなの 仕事し過ぎじゃ無いの
仕方ないよ スポンサーにプレゼンする期日は決まってるんだし
ちょっと待ってこの人私で何やってるのしかも真っ裸の セクハラ
ちょっと何やってるの
声に出てしまった
もう 出て行くしかない
ギョッとした若い研究員は振り向くと目を見開らきながらも 手はキーを押して画面を消した
麻子さん
説明を求めます
断固 説明を
分かりました
分かりましたがラボは一般の人は立ち入り禁止の守秘義務違反ですから 外へ 外へ出て
素早く白衣を脱いで椅子の背に掛けた男は麻子な肩に手を掛けて振り向かせ背を押して外へ連れ出した
一階入り口脇の喫茶コーナー
頭を抱えた小林研究員と私
で なんか釈明は
はい まずは会社は関係ありません 僕の被験者データの私的流用です 申し訳ありません
え あんな裸のデータなんて
あれはあなたの基本データです 契約約款にも記載のある提供データの一つですよ
あれは生データですけど将来的にはバーチャルワールドに配置されるアシスタントAIたちのデータに利用されます
あ 容姿なんかは被験者の皆さんミックスして編集しますから安心して下さい
あ なら 安心…じゃ無くて あなたの私的流用の分 なんですけど
…もう十数年前から好きだったんです理想なんです
えええ す ストーカー
あ いや違って あなたの容姿が昔から思い描いてた理想の女性なんです
あの これ
と 名刺大のラボのロゴと小林 亮介 研究所員の肩書 QRコードとキーコードの入ったカードを差し出された
僕の家のゲストキーです
詳しい釈明はこの日曜日にそこでします
お願いします
と テーブルに頭をつけたまま 上げなかった
やあああっぱり ストーカーじゃないかあああ〜
肺活量に許す限りの声量で叫んでやった
通されたさほど狭く無い筈のリビングの隅々に私の絵が飾ってあったり立て掛けてあったり 私を模った石膏像 木彫
いやいや よく見て下さい 僕の学校時代の作品です 絵は高校の 立体作品は美大時代のです
なるほど よく見れば全て今の私の容姿に似ている
なんで 私なの
あなたのセッション1の担当したの 僕なんですよ 夢かと思いました 高校生の僕の夢がそのまま出てきたのかと
あなたのデータ 盗もうかとも考えましたが そんな事してバレたら せっかく出会ったあなたと会えなくなるんで泣く泣く諦めて 会社のコンピュータのローカルエリアにシークレットフォルダをジョブログに擬装してあのバーチャルデータをコツコツ作ったんです
まあ 社外秘だから持ち出せないのは同じなんですけど
で 個人的にウチのパソコンで作っているのが
と いいながらデスクトップパソコンを起動させたようだ
モニター右上のアイコンをクリックすると
またまた 私の3D映像が現れる が 今度はちゃんと黒のユニタードを着ていてホッとする
これは会社のスキャンデータじゃ無くて僕が3Dモデリングして描いているあなたです
会社のデータを一部 暗記して造形に反映させてますけど
よくそんな細かい数値 覚えて置けるんだね
まあ この子の双子の姉が居る訳ですし オリジナルのあなたを間近に観察していますしね
この子は姉と違ってあなたの運動動作データ持ってないんで市販のアクションプログラムをカスタマイズしてるんですが
おはよう
おはようございます
と 前に聞いたのより合成音声っぽい自分の声
ご機嫌はどう
気分いいわよ 天気もいいし
良く見ると私より幾分可愛い
実物より美化して無いこれ
いえ これは学生時代の作品じゃなくてあなた本人です
僕が見ているあなたです
では 姉データの抹消を要求します
え
で 妹データは経過観察として 定期的に査察を要求します
え でも いいんですか
いいも悪いもあなた自覚無いでしょうけど私と遭遇して以来 あなたの行動はストーカーなの
早くリアルに復帰しないと会社馘の前科付きストーカーに成り下がるわよ
宜しくお願いします
…セッション4 被験者 樹 麻子さん
お願いします
はい 宜しく
また たい焼き器に挟まる私 ストーカー予備軍とは ほどほどのお付き合い 悪い気はしないけど 目を離して本当にストーカーされるのは怖い
セッション4 ではこれまでの用意されたオペレーションではなくバーチャルワールドを自分の意思で動けるように制御をフリーにしています
危険は有りません
では どうぞ
今度は目の前にドアが現れた
ドアノブに手を掛け回す 冷たい感触とカチッとドアが開く感覚 リアルだ
いらっしゃい
と 私が椅子に座っている なんだろう オリエンテーションには自分のアバターがまた 出てくる話は聞いてない
亮介がジョブログフォルダに入れてくれてたから削除を免れたの
その私はニコッと笑った
私と同じ衣装 私と同じ動作で
もう 上書きして私だけになろうか と思ったけど なんか亮介とお付き合いしてるみたいだし 恋心の共通項を核にして融合しようと思って
いいわよね
と 否応無く 両手を握られ 手首から溶け合い始めて頭や身体や心に二重の記憶が配置されて行った
コメント