ちょっとHぃショートショート

双樹\u3000一

夏銀河

雪女の伝説が残るような山深い地方も今や避暑地やキャンプ場 冬は当然 スキー場が整備されて旅人が雪女に誘われて命を落としたとされる峠道もバイパスされて立派な道やトンネルが出来ている
下界は蒸し暑さがマックスな季節
山間の切り立った山肌を縫うような道を走り 目の前に狭い盆地が開ける
風の抜けて行くのが見える
盆地のあちらこちらにちょっとしたペンションが建っている

お世話になります

玄関から直ぐの小さな受付カウンターに声を掛ける

はーい いらっしゃいませ

と 奥から若い女の声と共にピチッとした白いTシャツジーンズの娘が飛び出して来た

今日 1人で予約の佐藤です

はい 承っています
3号室になってますから これ キーと
夕飯はカウンター右手のカフェコーナーですから 6時から8時までにカウンターで声掛けて下さい

了解です えっとここの人ですか

いいえ 夏バイトで来てます

コロコロ笑って色白の娘は言った

悪くない 涼しいし余計な雑音は聞こえない 人前には若い子を雇って村の人は裏方 ってのも商売に気が入ってていい
10室ほどの小さいペンションだったが予約サイトでは最後の部屋だった
宿泊は全て2階フロア
喫茶 食事 浴場 お土産コーナーはカウンター奥
部屋の窓を開けて見渡せば散策する旅行者が何組か
バイトたちなのか村の若い娘なのか何人かが食材の段ボールを抱えて裏手へ回って行った
 
予想以上に美味しい夕食だった 見た目オシャレなイタ飯 フレンチ風なガッカリ飯だと目も当てられないが 見た目で媚びないしっかりした味だった

9時を過ぎてペンションのアプローチを回ると木立に灯は隠れて 真っ黒な空に銀の砂をぶち撒けたような星
白い塗料で斜めになぞったようなのは天の川なのだろう

凄いでしょ

振り返ると受付に居た娘が立っている

これ 見るだけでまた来年 来ようと思いますもん

星 好きなの

星 って言うより山の自然 かなあ ウチも都会じゃ無いけど こんな星空 見た事 ないですよ

確かになあ

じゃ おやすみなさい 朝食は7時から夕食と同じところですから

これを伝えに来てくれたなら悪い事をしたな と思いながら星空を見上げていた

部屋に戻る
あの星空のあとでテレビじゃ無いし ビールを開けて窓際のテーブルセットで文庫本を読んでいると

コンコンコン

と リズム良くノックの音

まだ 何か説明があったのかな とドアを開けると やはりさっきの娘
しかし 洗い髪を乾かしたのかふわっとした長い髪を垂らして 私服なのかオーバーサイズのワンピース程の丈のある前ボタンのシャツを着ていた

もう おやすみでしたか

いや さすがにまだ宵の口だしね
山の音 聴きながら本 読んでたよ

お邪魔してもいいですか

と 後ろ手に隠していたらしい缶ビールやサワーの入った籠を差し出した
これは ワンチャンあるか などと言う下心は押し隠して 部屋に招き入れる

窓際のテーブルセットに座りながら空き缶を片付ける

どうしたの
いや 全然 いいんだけど

バイト仲間の子もいい子たちなんですけど皆んな女の子で村にも同じくらいの年代の男の子 居ないんですよ
なんか話題に飢えちゃって

と 笑いながら舌を出す あざといと言えばあざとい仕草だが 誘われてしまう

俺だって十は上だよ
君たちからしたらおじさんだろう

でも 十どころか男の人 見ないですもん
女の人 ばっかり
食材 頼んでるとこも日用品 補充に来てくれる人も
男の人は皆んな 外に出てるか 働きに行ってるからしいですよ

今時 出稼ぎって珍しいなあ
まあ 車で通うのも冬場は無理か

他愛のない雑談を重ねて 目の前に空き缶が溜まり 娘の黒い瞳が濡れて大きく見開かれて…

白い胸だった 細い身体に似つかわしく無いほど豊かな胸だった
白い肌に長い黒髪がまとわりつく
腰が溶かされるように熱く甘かった

伝説の雪女のようだな

と 冗談で言ってみる

娘の赤い唇がキュッと上がる

それ 当たってますよ わたし 雪女だし

はは またまた

仮親って知ってますか 借り親とも言うんですけど 雪女と情を交わした男に雪女の精を託して その男が次に情を交わした女の腹を借りて生まれるのが雪女なんです
私にもちゃんと両親は居るんですよ 仮親だけど

娘は覆い被さりながら言った

街で育っても第二次性徴期が来ると分かるんですよ 自分たちの事
鮭みたいに帰って来るんです 此処に
この遣り方で子供増やし始めて自分たちが絶えてしまうって心配 無くなったらしいですよ 昔の事は知らないけど
隣の谷奥の盆地にもペンション建て増ししてますしね
雪女の精って 幾つでも託せるんですよ
後の子のも お願いしますね

娘は俺の上で身を反らせ 最後に強く腰を打ちつけた
いつの間に入って来たのか別の裸の若い娘がベッドに上がって来て最初の娘は出て行って まだ長い夜の始まりに過ぎなかった

朝9時
遅い朝食
3組の若い女性客たちはテーブルで珈琲を飲んだりチェックアウトをしている
俺と同じような血の気の失せた顔色の男性客は後4人
ノロノロとミルクを飲みながら食事を口に運んだ
昨日の娘たちが3人 テーブルを回って 給仕をしている
後ろから娘が俺の耳元に身を屈めて囁いた

連泊にしておきましたから
3号室で夜までゆっくり休んでくださいね
また お願いします

すっと背を伸ばして歩いて行った

雪女の里か
女たちのスラリとした姿から目を離せなかった
俺の娘も 娘たちも雪女か
きっと色の白い美しい女に育つだろう
そう思うと腰はダルく身体は熱くなり昨夜の女たちの裸身が浮かび 夜が待ち切れない自分に気がついた

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