新しい季節6 影使い

夏がようやく秋にバトンタッチする程の季節になったけれどまだ暑さは残っている

はあ　車で１時間とは言え随分　山間のロケーションですね　ご主人様

と　誠は車から降りて谷あいを覗いている

でも　吹いてくる風は涼しくて気持ちいい

とは　梓だ

俺は一口　ペットボトルを煽って手を伸ばして来る誠に回した

まあ　限界集落を通り越すような里だからな
開発はされてない
一応　山間の温泉宿が人気だった時期もあるんだがな

高速道路降りたら直ぐですもんね

いや　誠　高速道路が出来て寂れたんだ

え？

高速が出来るまでは最寄りからでも３時間近く掛かってたんだが　それが旅の醍醐味でもあったんだ

あ〜　と　梓は思い当たる所があるのか頷く

元々が湯治場があった古い宿場に戦後の観光ブームに乗っかって大手のホテルチェーンが作った温泉旅館一軒でもっていた村だったからな
旅館に納入する品物を扱う店とか途中のドライブインでの雇用が支えていた経済圏が高速道路が頭の上を通って行って潰れたんだ
それで　大手から経営を切られた旅館を村が払い下げを受けて村営で切盛りしてたのが限界が来て　な

ご主人様が買った？

いや　ウチの投資会社が　な
その上で管理維持を村の人に頼んでお金を落としている
安く管理して貰える代わりに村の人には解放してあるんだ
使わないと傷むからな

今夜はそこに泊まるんですか？

ああ　宿泊施設はあるけど営業はしてないから色々　途中で買って来た訳だ
まあ　会社の視察名目だけど　今までは俺が偶に1人で来てただけだからな

あ〜　だから私たちスーツスタイルなんですね

まあな
さあ　ひと息つけたし　もう15分程で到着だ

あはは…まだ15分掛かるんだ

ふた昔くらい前の佇まいの旅館は営業していない割に綺麗な外観で残っている

健さん　いるかい？
俺だ　来たよ

奥から八十前くらいの老人が上下ジーンズスタイルでのそりと出て来る

また　柳さんはそんな名で言う
ワシは高倉だ
あんな二枚目ではない
今日はなんだい？綺麗どころを2人も連れて

ああ　会社の若い子だ
前から言ってた保養施設の計画の下見で付けられたんだ
俺がサボってんじゃないかってさ

声も出さずに笑顔を崩した健さんは

まあ　サボっては居ないが仕事してるようにも見えんからな

おいおい！よしてくれよ
本気にして報告されちゃ困る

ははは　いつもの部屋と隣りの部屋を用意してあるから見てくれ
夜にはなんか届けさせるよ

いや　気は使わないでいいよ
色々　買って来たから
ありがとう

勝手知ったる何とかでトランクを担いで靴を脱いで上がった